今から約1年前の2016年11月13日、ブラジルGPの決勝を前に2年目のシーズンをほぼ終えようとしていたマクラーレン・ホンダはチーム集合写真撮影を行なった。同じユニフォームに身を包み、整列したマクラーレンとホンダのエンジニアたちは、こんなことを話し合っていた。


「マクラーレン・ホンダ」もアブダビGPで見納め

「来年こそは表彰台に行こう」

 3年目のシーズンには、表彰台争いに加わることができる――。チーム内にはそんな予感と手応えがあった。

「ホンダはかなりよくなってきているから、来年は大丈夫だろう。今年は車体がダメだったけど、来年は俺たちもがんばるから」

 マクラーレンのエンジニアたちは、そんなふうに話していたという。

 ホンダは2年目から3年目へこれまでと同じスピードで正常進化できれば、既存メーカーと同等の出力まで追いつく。そしてマクラーレンの車体も、鈴鹿で露呈した空力的な不安定さを見直して弱点を潰すことで、トップレベルに追いつく。彼らが3年目のシーズンにイメージしていたのは、3強チームに追いつき、表彰台争いに加わることだった。

 しかし、2017年の幕が上がると、車体は改善を果たしたものの、パワーユニットが期待どおりの性能を有していないことがわかった。上を目指すためにはコンセプトの完全刷新が必要で、ホンダにとっては1年目も同然の開発となったからだ。しかも半年遅れで開発がスタートし、途中のつまずきを取り戻す時間がないまま、開幕を迎えなければならなかった。

 それは、マクラーレンもホンダも開幕前テストに臨む段階でわかっていたことだったが、性能不足に加えて信頼性の問題がマクラーレンを苛立たせ、開幕前からホンダとの提携解消が本気で話し合われることになった。そして夏前にはついに、それが実質的に決まってしまった。

 ホンダは6月末の第8戦・アゼルバイジャンGPでスペック3を投入し、夏休み明けのスペック3.5以降ではさらに性能を上げていき、ようやく性能と信頼性を本来なら開幕時点で到達すべきだったレベルまで取り戻してきた。皮肉なことに、提携解消を決めたシーズン後半戦になってようやく、ホンダのパワーユニットは”戦えるレベル”になってきたのだ。まさに半年遅れの開発がそのままシーズンに響いてしまったとも言える。

「クルマのパフォーマンスが上がってきているのは、スペック3.8の効果もあると思います。長い目で見ればスペック3.5から3.8へは、それぞれ0.1秒ずつくらいのゲインがありますし、そうでなければ入れていませんから。これはあまり言いたくありませんけど(苦笑)、特に3.8では高速側の出力が上がってきているので、ストレートエンドは伸びているんです。そういう攻めたセッティングに変えられるような工夫が入ってきて、耐久性は上がっていますから。そういう意味では、エンジンパフォーマンスは間違いなく使い切れてきていると言えます」(ホンダ長谷川祐介F1総責任者)

 一方で、開幕前にはまだまだ上位勢に大きな差をつけられていた車体性能も、幾度かのアップデートを経て3強との差を縮めてきた。開幕当初は車体だけでも1.5秒ほどの差があったものが、1秒前後まで縮まってきている。

 チームとしても、車体ドラッグ(空気抵抗)の大きさは承知のうえで、だからこそ第19戦・ブラジルGPではレスダウンフォースの方向性もトライした。しかしMCL32の車体特性から言えば、ダウンフォースをつける方向に振らざるを得なかった。結果には結びつかなかったが、チームとしてポテンシャルを最大限に引き出すためにあらゆるトライをしよう、という姿勢は歓迎すべきことだった。

 マクラーレン・ホンダとしての戦いは、今週末の最終戦アブダビGPで終わりを迎える。

 アブダビGPの舞台ヤス・マリーナ・サーキットは、人工的に作られた島の水路にあるマリーナと高級ホテルの周囲を回るレイアウト。マクラーレン・ホンダにとっては決して不利なサーキットではない。

 MCL32が苦手とする高速コーナーが1箇所しかなく、逆に得意な低速コーナーの加減速は多い。ストレートが2本あるが、極端に長いわけではなく、空気抵抗の影響が少ない260km/hあたりまでの車速はライバルと差がないため、大きな車速差の不利を抱えて走らなければならない時間はそれほど長くはない。

 コンストラクターズランキング8位のハースとは19点差があり、9位のマクラーレン・ホンダが逆転するのは容易ではない。上位勢に何事もなければ6位以上に入ることは難しく、7位では6ポイントしか手にすることができないからだ。

 それでも、マクラーレン・ホンダとして歩んできた3年間のすべてを引き出し、集大成を見せることには意味がある。

 シーズン後半戦を迎え、マクラーレン・ホンダとしてのポテンシャルは確実に上がってきた。しかし、セットアップ、信頼性、レース戦略、そのすべてが完全に揃ったレースはまだない。それをなんとか最終戦で見せてもらいたい。

 長谷川総責任者は語る。

「(コンストラクターズで)ハースを抜いて……と言いたかったところですが、19ポイント差があるので厳しくなってしまいましたよね。でも、できるだけ1ポイントでも多く獲りたいという気持ちに変わりはありません。パフォーマンスとしてはポイントを獲ることができるレベルになっていると思いますが、やはり信頼性の問題がすごく大きいので、まずはきちんとレースを終えるということですね。それを目標にしていてはいけないし、あまり声高に言いたくはありませんが、2台揃ってきちんとポイントフィニッシュで、実力を発揮しきって終わりたいと思っています」

 このアブダビGPを最後に、マクラーレンとホンダの関係は終わりを迎える。しかしこの3年間が間違いだったと否定して終わってほしくはない。

 3年目のシーズンで目標としていた表彰台には、残念ながら手が届きそうにない。しかし苦しみながら、時に相手を否定しながらも、この3年間で互いに学び成長してこられたことは確かな事実だ。その自分たちの歩みまでも否定するのではなく、最後にその成長のすべてを見せ、笑顔で3年間の終止符を打ってもらいたい。

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