11月2〜5日に放送された「72時間ホンネテレビ」(AbemaTV)がいまだに反響を集めています。総視聴数7400万超、Twitterトレンド入り107個(うち世界トレンド7個)、「森くん」が世界トレンド1位などの記録を成し遂げた勢いで、19日に特番「未公開シーン&トレンド入りの瞬間7.2時間で全部みせますSP」(同)の放送が決定しました。

 この成功でAbemaTVに注目が集まっていますが、一方で明らかになったのは、多くの人々が「ネットテレビと動画配信サービスを混同している」こと。ネットテレビのAbemaTV、Gyao!などは無料であり、動画配信サービスのNetflix、Amazonプライム・ビデオ、dTVなどは定額制をベースにしているため、似ているようで全く違うのです。

ネットテレビは地上波と動画配信サービスの中間

 最大の違いはCM。「72時間ホンネテレビ」を見て、「こんなにCMが入るの」と驚いた人が多かったように、ネットテレビでは、地上波と同じようにスポンサー企業のCMが頻繁に流されます。一方、月々の利用料金をベースにした動画配信サービスには、ほとんどCMがありません。

 また、番組内容は両方とも地上波より自由度が高いのは間違いないのですが、スポンサー企業の影響を受けにくい動画配信サービスのほうが思い切った企画を手がける傾向があります。特にAbemaTVはテレビ朝日が出資していることもあり、Amazonプライム・ビデオのように「地上波では放送不可能!」と掲げる過激な番組は放送していません。つまり、AbemaTVのようなネットテレビは、地上波と動画配信サービスの中間に位置するような存在なのです。

 ネットで2タイプのコンテンツを見られることは、視聴者にとって好ましい半面、地上波にとっては二重の脅威。似たビジネスモデルながら自由度が高いネットテレビと、全く異なるビジネスモデルでさらに自由度が高い動画配信サービスに、視聴者を奪われるピンチなのです。

大物芸人やジャニーズが次々に出演

 ただ、地上波が悲壮感で満ちているかと言えば、必ずしもそうではありません。地上波の各局でNetflixやAmazonプライム・ビデオのCMを流して視聴をアシストしているのです。もちろんCM収入を得るという目的はありますが、本当に状況が切迫していたらアシストはしないでしょう。このような感覚は、地上波でCSのスカパーやWOWOWのCMを流しているのと同じです。

 さらに、TBSやフジテレビ、テレビ東京などがNetflixやAmazonプライム・ビデオで、日本テレビがHuluで自社の人気番組を配信するなどの提携も少なくありません。これは、あまりテレビを見ない層をつかむための戦略ですが「なおさら地上波を見る必要がなくなった」と言われかねないリスクも潜んでいます。

 そのリスクを高めているのが、ネットテレビと動画配信サービスの魅力あふれるオリジナル番組。芸人たちが賞金1000万円を賭けた笑いのバトルに挑む「HITOSHI MATSUMOTO presentsドキュメンタル」(Amazonプライム・ビデオ)、高級車を破壊するなどのカーバトル満載の「戦闘車」(同)、ネットに否定的だったジャニーズ事務所のジャニーズWESTが主演に挑むドラマ「炎の転校生REBORN」(Netflix)、野島伸司脚本で佐々木希がセックス依存症のヒロインを演じるドラマ「雨が降ると君は優しい」(Hulu)など「確かに地上波では難しいかも」と思わせるものが目白押しなのです。

 ネットテレビや動画配信サービスに、ダウンタウンなどの大物芸人やジャニーズなどの人気アイドルが出演するのは勢いのある証し。実際、制作にかける予算も時間も地上波を上回る番組が現れ始めています。

 地上波はネットテレビや動画配信サービスの勢いに押されて、このまま衰退してしまうのでしょうか。

若年層を魅了する恋愛リアリティーショー

 その答えはノー。「いつでもどこでも見られる」使いやすさでは劣るものの、いまだ地上波は最も多くの人々に番組を届けられるメディアであることは変わっていません。また、プロデューサーや演出家、構成作家、脚本家、美術、音声、照明などの各職種に優秀なスタッフが多く、現段階ではネットテレビと動画配信サービスの制作力を大きく上回っています。

 ただし、若年層に限っては、その優位性がほとんど機能せず、テレビはネットに大きく遅れを取っているのが現実。年々、視聴率を獲得するために中高年層向け番組を増やす地上波に物足りなさを感じている若年層たちが、ネットテレビと動画配信サービスに集まり始めているのです。

 その象徴が「テラスハウス」(Netflix)「あいのり:Asian Journey」(同)「バチェラー・ジャパン」(Amazonプライム・ビデオ)「今日、好きになりました」(AbemaTV)「恋する?週末ホームステイ」(同)「オオカミくんには騙されない」(同)などの恋愛系リアリティーショー。特に、かつて地上波のフジテレビが放送していた「テラスハウス」と「あいのり」が動画配信サービスで見られていることに時代の流れを感じます。

 若年層は、地上波が求める視聴率やスポンサーこそもたらさないものの、毎月数百円の利用料金を払うことに抵抗はありません。前述した恋愛リアリティーショーは「若年層が少しずつお金を出し合って、私たちの番組を作っている」とも言えるでしょう。

 地上波は視聴率を稼ぐために中高年層の番組に力を入れ、ネットテレビと動画配信サービスはネットを使いこなし、先の長いお客さんになりうる若年層の番組に力を入れています。もしかしたら、地上波とネットテレビや動画配信サービスの違いは、このような視聴ターゲット層なのかもしれません。

(コラムニスト、テレビ解説者 木村隆志)

【別カット】自撮りをして楽しむ元SMAPの3人

「72時間ホンネテレビ」より(C)AbemaTV

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【別カット】3人の熱唱シーン

「72時間ホンネテレビ」より(C)AbemaTV

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【別カット】ネットテレビの可能性を開いた「ホンネテレビ」

「72時間ホンネテレビ」より(C)AbemaTV

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