左右の駆動力が異なることで発生するトルクステア

 アクセルペダルを踏み込むと、ステアリング操作していないのに、クルマが左右どちらかに曲がろうとする現象を、トルクステアと呼びます。この現象は、エンジンの駆動力が駆動輪の左右で異なってしまうことで発生します。もっとも現れやすいのはハイパワーなFWD車ですが、そうではないクルマでも発生します。またドライバーが意識せずに不意に発生することもあり、驚いたり、慌ててしまったりする場合もあるようです。

 左右の駆動輪に均等に駆動力が伝わらないということは、壊れてる? いえ、そんなことはありません。機械的にはまったく正常でも、いろいろな要素によって、左右の駆動力が均等ではない場合があるのです。エンジンを横置きにした前輪駆動(FWD)車の場合、トルクステアの発生原因となるのは左右のドライブシャフトの長さが違うことです。

 これはエンジンとトランスミッションが一体となっていて、構造上デファレンシャルギヤの位置が大きく片寄っているためです。左右のドライブシャフトの長さが違うということは、ジョイントの角度が左右で異なってしまうので、駆動力の伝わりが左右で差がついてしまうのです。ハイパワーなほど、その差が大きくなりやすいので、トルクステアが発生しやすくなります。

 スポーティなFWD車では、フロントデフにトルセンLSDやヘリカルLSDが標準装備されている場合があります。アクセルペダルを踏み込んで駆動力が大きくなると、LSDがデファレンシャル機構をキャンセルして左右の駆動力を均等にします。結果としてステアリングを切っている場合、コーナーのアウト側のタイヤにも十分な駆動力が配分され、イン側へ向かう力を発生させます。これは左右のタイヤにかかっている荷重が違うことも、その一因です。

 じつは左右のタイヤの荷重が違うので、トルクステアが出るクルマもあります。たとえばマツダ・アクセラハイブリッドがそうです。トヨタのプリウス用ハイブリッドシステムにマツダ独自のスカイアクティブGを組み合わせていますが、もともとトヨタのハイブリッドシステムは車両の左側に重量が大きく偏っていて、その特性がそのまま出てしまっているのです。

 アクセルを踏めば右方向へトルクステアが出て、ブレーキを踏めば左方向への動きが出てしまいます。ではなぜトヨタのハイブリッド車ではそうしたトルクステアが出ないのか? それはサスペンションのセッティングによって、センター付近が意図的に鈍くなっているためです。トルクステアが出ようとしても、反応が鈍いので、発生しないのです。

 ちなみにアクセラハイブリッドですが、マツダ得意のGベクタリングコントロールが例外的に装備されていません。その制御を実現するためのレスポンスや精度を、トヨタのハイブリッドシステムが持っていないためです。

 トルクステアは、軽自動車でも出やすい現象です。クルマが軽量で、乗員の体重や荷物の重量の影響を受けやすいからです。そしてFRだと、そもそも後輪の荷重が低いこともあって、荷物や人が偏って乗ったりすると、判りやすいトルクステアが顔を出します。乗員や荷物が偏って乗らないように、配慮する必要があると思います。