マルチ商法」にのめり込む男性と交際していた女性の体験談がSNS上で話題に。女性のブログには、男性がマルチをしていることが発覚するまでの経緯や周囲への相談、消費生活センターを訪れた時のこと、“半強制”されるセミナーや飲み会などの活動実態、男性にマルチをやめさせようとして起こした行動が克明につづられています。これに対し「怖い」「体を壊しても活動をやめないって、ブラック企業と同じ」「助けようとしても逆に勧誘してくるし、どうすればいいのか」などさまざまな声が上がっています。

 オトナンサー編集部では、マルチ商法にハマる人間の特徴や周囲が取るべき行動について、マインドコントロールのメカニズムに詳しい立正大学心理学部の西田公昭教授に聞きました。

「誰かを見返してやりたい」

Q.マルチ商法にのめり込みやすい人にはどのような特徴がありますか。

西田さん「『誰かを見返してやりたい』『諦めかけていたような夢を実現したい』など、自尊心に関するコンプレックスを抱えた人が多いと考えられます。現状の自己評価を少し受け入れがたいと感じており、『自分にはもっと高く評価されるべき価値があるのではないか』『機会を得て、それをものにさえすれば、周囲から妥当な評価を受けられるようになるのでは』といった思いのある人がのめり込みやすいといえます」

Q.マルチ商法にのめりこんでいる人の心理状態とはどのようなものでしょうか。

西田さん「最初の頃は、知人に商品を購入してもらい、多少の利益を得る経験をしたことが成功期待のリアリティーとなっています。また、結果を出せていないことを根拠に批判を受けても『これは新しい売り方である』『今にわかる』『きっと成功するはずだ』『一獲千金だ』などと、マルチの仕組みの良さを妄信させることで、否定的な忠告を一切聞かない状態になります。扱っている商品や、マルチ商法の効力に対する周囲の批判は、あくまで『無知だから』『誤解があるから』と信じて疑わなくなるのです。それは、彼らがマルチ商法で成功した人とそれに心酔する人に囲まれ、たきつけられているから。『憧れの対象である素晴らしい成功を収めた人々も、元々は自分と変わりのない人』で、『自分もそのようになれるのでは』という強いリアリティーを感じているのです」

Q.身近な人がマルチ商法に熱心になってしまった場合、周囲はどのように振る舞うべきでしょうか。

西田さん「早期解決は難しいといえます。助けたいと焦る気持ちがあっても、頭ごなしに否定したり、怒ったり、馬鹿にしたりしてはいけません。まずは、相手の話をしっかりと聞いてあげることで良好な関係を維持し、細かい仕組みを理解した上でマルチ商法の欺瞞部分をつかみましょう。すぐには批判せず、良き理解者のように振る舞いつつも、商品の購入や経済的援助は一切しないこと。その関与者が今後勧誘すると予測される周囲の人々と多く接し、事情を説明して理解してもらうことで、同情からの商品購入や金銭の援助を防ぐ手を打つことができます。さらに彼らに、後に説得する時の協力者になってもらえるように依頼できればベスト。一方で、関与者がなぜマルチ商法でお金を得ようとしているのかの心理的理由を探り、受容的に理解して、当人が誤りに気づいた時の受け皿となっておくことも大切です。そうした基盤を作った上で、当人に『商売がうまくいかない』という認知が生まれた時や、マルチ商法に疑問を持ち始めた時を見計らい、説得的に話してみるとよいでしょう。とにかく、自分自身で考えさせ、調べさせ、『成功』が困難であることや負の側面がたくさんあると気づかせることが大切です。また、マルチ商法をやめる決意をすると自尊心が大きく低下します。決して過去を責めることなく、『向上したかったから関与した』などの動機を受け止めて肯定するなど、自尊心を取り戻させる支援が不可欠です」

(オトナンサー編集部)