貯金「1000万の壁」を越える人の共通点

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十分な収入があっても、貯金ゼロの人がいる。なぜ貯められないのか。ファイナンシャルプランナーの山崎俊輔さんによれば、「貯蓄額には100万円、500万円、1000万円の壁がある」という。3つの壁を越えるには、どのような戦略が必要なのか。前回に続き、今回は最後の「U−1000万円の壁」をクリアするための方法を紹介しよう――。

■いざ貯蓄 次なるステージは「U−1000万円の壁」

前回は、あなたの資産を増やしていくために乗り越えたい2つの壁「U−100万円の壁」と「U−500万円の壁」を紹介し、その乗り越え方をアドバイスしました。少し意識をしておかないとふたつの壁にはね返されて資産が増えていかないことが多いものです。口座管理のちょっとした工夫や積み立ての活用でぜひ壁を突破してください。

ふたつの壁を乗り越えた最後に待ち受けるのは「U−1000万円の壁」です。できればこの壁を越えてから定年退職を迎えたいわけですが、越えられずに終わってしまう人も少なくありません。

ある人は、「U−500」は何とか突破したものの、500万〜800万円程度を住宅ローンの頭金にして不動産を購入。別の人は、高校生や大学生となった子供の入学金、学費を納めていたらあっという間に「U−500」に逆戻り。そうした大口の出費があると、「1000万円」は遠のきます。「U−500」と「U−100」の間を行ったり来たりすることがあるように、「U−500」と「U−1000」の間で増減を繰り返すわけです。

▼「U−500」と「U−100」を行ったり来たりする人がすべきこと

しかし、老後のセカンドライフを見据えると、もう一度お金を貯める流れ・仕組みを作り直す必要があります。一般にセカンドライフスタートまでに老後資金として3000万円が目安になるといわれていますが、退職金や企業年金だけではその半分くらいしか期待できないのが現状です。中小企業の退職金相場は500万〜1000万円程度、上場企業の恵まれたケースでも2000万〜2500万円程度です。近年では退職金なしの会社も増えており、自社の条件は各自確認する必要があります。

■「iDeCo」で所得税と住民税が毎年5万2500円も軽減

財形年金や個人型確定拠出年金(iDeCo)がある場合は、60歳まで下ろせない規制がむしろ「定年後の財産」として効果的に働きます。住宅を購入した世代(住宅購入までは住宅財形を使うことが多い)は積極的に使うといいでしょう。

特に個人型確定拠出年金は、掛金相当額については所得控除となるため、掛金の20%くらいを国が税免除したことになり、資産形成のペースを加速させる力になります。なお年収により課税率は異なり、高所得者ほど税率が高くなるため、お得度合いも増す仕組みです。

ここでiDeCoのメリットをおさらいしてみましょう。iDeCoの最大の利点は、月々の掛け金がすべて所得控除の対象になるということです。生命保険や個人年金に加入している場合も所得控除されますが、どちらも所得税で年間4万円、住民税で2万8000円が上限になっています。ところが、このiDeCoは、会社員(企業年金なし)の場合、最大で年間27万60000円分の控除を受けることができます。

私たちが国や自治体に納めている「所得税」や「住民税」は、会社員や公務員の場合、「課税所得」に一定の税率をかけて算出します。課税所得とは年収から給与所得控除、所得控除を差し引いたもので、金額は毎年の「源泉徴収表」に書かれています。

▼15年間で124万2000円が節税されて戻ってくる

iDeCoに加入している人は、1年分の掛け金がこの課税所得から全額控除されます。このため「課税所得」が減り、所得税や住民税も減ります。どれだけ減るのか。試算してみましょう。

課税所得が500万円の会社員の場合、税率はおよそ20%です。iDeCoの掛け金(拠出額)には上限があります。「企業年金なし」の会社員は月2万3000円、「企業年金あり」の会社員と公務員は月1万2000円、会社員の夫を持つ専業主婦は月2万3000円。自営業者は月6万8000円が上限です。

月2万3000円×12カ月で、掛け金は年額27万6000円になります。この額が「所得控除」されるため、27万6000円×0.2(税率2割)=5万5200円が、所得税と住民税の負担軽減分になります。所得税分は年末調整の還付金として(あるいは確定申告の還付金として)戻ってくるほか、住民税分は翌年度軽減された分だけ徴収されます。

たとえば45歳から60歳までの15年間で考えると、iDeCoの掛け金は合計で414万円になります。この分を「年金」として積み立てたうえに、さらに5万5200円×15年=78万7500円が節税されて戻ってくるということです。

税率は所得の多い人ほど高くなるので、iDeCoは高所得な人ほどお得な仕組みになっています。iDeCoの実施主体である国民年金基金連合会のWEBシミュレーターによれば、年収750万円の場合、節税される割合が30%に高まります。毎年8万2800円も浮きますから、15年ではなんと124万2000円も節税されて戻る計算です。(http://www.ideco-guide.jp/simulation/)

さらにiDeCoは「運用益」も非課税です。株式や債券投資などを通じて得た売却益は原則20%課税されますが(復興特別所得税を加えると20.315%)、iDeCoはどれだけ値上がりしても利益に課税されません。年4%の値上がりがあったとして、手取り3.2%に下がるのと4%の利益を再投資するのとの違いは歴然です。老後の資産形成のため、国がどれだけお得な仕組みを用意しているのか、おわかりいただけると思います。使わない手はありません。

■昇格・昇給と同時に生活水準も引き上げてしまう人

こうした仕組みを活用して「U−1000万円の壁」を乗り越えていかないと、退職金(企業年金)と手元資金の合計で3000万円を超えることは難しくなります。たとえ老後資金が3000万円未満でも、家計のやりくりでなんとかできる可能性は残されていますが、できる限りの上積みを図りたいところです。

お金の貯め方はステージによって少し戦略を変える必要がある、ということを意識するだけで、より自覚的な資産形成ができるようになります。

3つのステージは、年齢を重ね、仕事のキャリアを積み上げながら、ひとつずつ突破していくものです。このとき、効果的に資産形成を図るには「年収が上がったときの対応」について戦略的発想をもつことが重要です。

昇格・昇給、あるいは転職により年収がアップしたとき、生活水準を同時に引き上げてしまう人がいます。しかし年収が50万円上がっても、実際の手取りが50万円増えるわけではありません。税金などの負担も増えるからです。

▼「年収が50万増えたから家賃も3万高い物件に引っ越そう」

それにもかかわらず、たとえば「年収が50万円増えたから、家賃も3万円高いところに引っ越そう」と考えれば、負担増は50万円以上になるでしょう。毎月の家賃だけでなく、引っ越し費用、家具や家電の買い替えなどが想定されるからです。さらに食事の質やお酒のグレードを上げれば、「昇給分<生活コスト上昇分」となってしまい、家計は一気に赤字へ転落します。

私も年収アップが実現したとき、新しいオフィスの同僚と外食をしているとキリがないため、「いやーマクドナルド好きですから」などとランチを断っていたことがあります。昇格や転職で年収増を実現したときはしばらく生活水準を維持し、手取り増をしっかり見据え、できるだけその多くを資産形成に回すべきです。

「月1万円の積立貯蓄」だと年12万円が増えるペースですが、手取りが増えたときに「月1万5000円の積立貯蓄」に変更すれば増えるペースは年18万円になります。前述したとおりボーナスからの増額もできれば、さらにペースを上げられます。

もちろん、昇給分を全額貯蓄に回す必要はありません。しかし30代から40代にかけて、何度かやってくる貴重な昇給のタイミングを資産形成の力に変えることができれば、壁の突破はより容易になるはずです。

子供の学費負担を乗り越えて「U−1000万円の壁」を突破するのは50代の正念場です。笑って老後を迎えられるよう「3つの壁」を意識してみてください。

(企業年金コンサルタント/ファイナンシャル・プランナー 山崎 俊輔)