この重鎮マテュイディの離脱は、チームに大きな動揺を与えた。ロッカールームに広がったのは、ネイマールをチームに迎え入れる代償として、自分たちが商品のように扱われているという感情だ。
 
ネイマールはいったい何様のつもりだ。自分をメッシだと勘違いでもしているのではないか?」
 
 こんな言葉の数々が彼らの心の中を去来した。そしてこのチームメイトたちの気持ちを代弁し、反旗を翻すべく先頭に立ったのがカバーニだった。
 
 ネイマールは8月4日にパリSGの練習に合流したが、その初日から彼が見せたスター然とした態度も、そうしたムードを助長させるものでしかなかった。
 もちろん選手たちは、ネイマールのメガクラックとしてのステータスの高さを理解しているし、パリSGでもトップに君臨するだけの実力の持ち主であることも分かっている。しかしだからといって、チームメイトを見下すような行為が許されるはずはない。
 
 自らのご機嫌取りにしか興味がないクラブ幹部たちの能天気さを良いことに、ネイマールはその後も一向に態度を変えなかった。
 
「自分がバロンドールを獲得し、長年に渡りパリSGのタイトル獲得に貢献してきたとでも勘違いしているのではないか?」
 
 セレソンの長年の仲間でもあるマルキーニョスやルーカスまでもが、ネイマールに対してこんな複雑な感情を持つに至った。最後にはチーム内におけるネイマール擁護派は、ピッチを離れても大の親友であるダニエウ・アウベスのみとなってしまった。
 
 特別待遇というのは、そのチームにおいて確固たる実績を残したからこそ手に入れられる類のものだ。しかしネイマールは、2億2200万ユーロのサッカー史上最高額の移籍金、手取り3683万ユーロ(約47億円)というチーム一の年俸(2位カバーニの倍額)など、お金の威光を盾に特権を要求したのだ。
 
 ベテランで同胞でもあるT・シウバとチアゴ・モッタは、年長の選手を敬う大切さを説き、カバーニはリスペクトの心を持つことの必要性を訴えたが、ネイマールはまるで聞く耳を持たなかった。
 
 ウナイ・エメリ監督がこのネイマールを取り巻くチーム内の不穏な空気を察知するのに、もちろん時間はかからなかった。「ベテラン選手たちのプライドを傷つけるほど危険なことはない」と熟知している指揮官は、すぐさまクラブ幹部に相談を持ち掛けた。エメリはプロジェクトが頓挫する危険性をこう強い口調で訴えたという。
 
ネイマールひとりでは決してタイトルを獲得することはできない。今のやり方を変えるべきだ。チーム全体の結束を促さなければならない。選手たちの傷ついたプライドを回復させるには、彼らの気持ちに寄り添った対応をしなければならない」
 8月も終わりになると、アル・ケライフィ会長もようやく事態の深刻さを察知。換金要員に位置付けられた選手全員に対して再び電話をかけさせ、必要戦力であること、全員一丸ファミリーとなって戦っていこう、というクラブとしてのメッセージを伝えた。中でもエメリが放出に強い抵抗を示したのがディ・マリアで、収支のバランスを回復できるだけの高額オファー額が届かない限り、売却しないでほしいとクラブ幹部に要求した。
 
 しかし、自らの軽率な行動が原因で、チーム内が「必要戦力組」と「戦力外通告組」の2つのグループに分断してしまったあとでは、余りに遅すぎた対応であった。状況をさらに複雑にしたのはマルキーニョスやカバーニとう必要戦力組の選手たちが、戦力外通告組の側に回ったこと。チームはまさにカオスの状態に陥ってしまった。
 
 クラブ上層部に近い情報筋によると、事態を収束する手立てを見つけられないアル・ケライフィ会長は、すっかりお手上げムードだという。エメリ監督はこうした様々なエゴがぶつかり合ったチームをまとめ上げ、クラブ悲願のCL優勝に導かなければならない。指揮官のリーダーシップが問われているが、前述したようにマルキーニョスとカバーニが立場を明確に示す中、残り3人のチームリーダー、T・シウバ、T・モッタ、D・アウベスのサポートも肝要になってくるだろう。
 
 そんな中、さっそく行動に出たのがD・アウベスだった。チームメイトをパリ市内のレストランに招待したのだ。しかし出席者の1人によると、そのディナーは和解のきっかけになるどころか、お通夜同然の重く沈んだ空気が拭えないまま終始したという……。
 
文:ディエゴ・トーレス(エル・パイス紙/海外サッカー担当)
翻訳:下村正幸
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