YouTubeの自動再生機能を始めとし、ソーシャルメディアやウェブサイトには「開発者がユーザーに取ってほしい行動を誘導する」トリックが散りばめられています。宿泊施設の予約サイトとして全世界で利用されている「Booking.com」も例外ではなく、「ユーザーを操作している」とソフトウェア開発者であるRoman Cheplyakaさんが指摘しています。

How Booking.com manipulates you

https://ro-che.info/articles/2017-09-17-booking-com-manipulation

◆価格

Booking.comで宿泊ホテルを探していると、「注目!この日程では、今まで検索したパリの宿泊施設の中で最安値です!」というような文字を目にします。これはうそではありませんが、一方でこの言葉は「今まで検索したパリの宿泊施設の中で最高値です!」という文章でも置き換え可能だというのも事実。部屋を探している人が日程を指定して初めて見たプランに表示されるためです。

例えば、宿泊日を指定してパリの宿泊施設を探している時に、「7613円」と「1万9972円」の部屋を見つけたとします。値段が高い方の部屋をクリックしても……



見ている部屋が最安値であるかのような印象を持つ文章が現れます。実際には他にも安い部屋があるのですが、最初に見た部屋なので、「今まで検索した中で最安値」という内容にうそはないわけです。



上記のような、部屋を探している人が「いい取引をした」と感じられるようにする文章は他にも存在します。下記の画像では189ドル(2万1000円)の宿泊費が158ドル(約1万8000円)になっていることで「genius」という文字がついています。そしてカーソルを「genius」に当てると、「このディスカウントはあなたがチェックインする日付の前後30日間(チェックイン以前の15日、チェックイン以後の15日:もし本日とチェックインまでの日数が15日以下である場合、合計日数が30日になるようにチェックイン後の日数で調整しています)で3番目に高い価格を基準にしています。また公平な比較を行うため、常に同じ予約条件(食事プラン、キャンセルポリシー、部屋タイプなど)で比較されます。つまりこの料金は、同時期の別の宿泊日程よりも、該当のお部屋を安く予約できることを意味します」という説明書きがずらーっと現れます。



多くの人は最後の「つまりこの料金は、同時期の別の宿泊日程よりも、該当のお部屋を安く予約できることを意味します」というところのみに着目して安心するはず。しかし、よく読むと「チェックインする日付の前後30日間で3番目に高い価格を基準にしています」と書かれていることに気づきます。つまり、同タイプの部屋が1つしかなかった場合、「genius」が示す価格は30日のうち27日について当てはまることになり、90%は「お得な価格」として表現されることとなります。

◆緊急性

Booking.comの宿泊施設のページには、さまざまな形でユーザーに「緊急性」を伝える表示が存在します。ライバルが存在するかのような「現在●●名のユーザーが閲覧中です」といったものや……



「最後のチャンス!大人気:当サイトでの空室はわずか1室!」



特に興味深いのは、「たった今予約がありました」というポップアップがページを開いた瞬間ではなく、1〜2秒遅れて表示されること。このような仕組みにすることで、まるでリアルタイムで予約が行われたように見えます。「このような遅延表示を使うのは、見ている人を引っかけようとしているからに他ならない」とCheplyakaさんは語ります。



なお、「今予約がありました!」の文字にカーソルを当てると、何分前に予約があったかが表示されますが、この動きに気づく人も少ないだろう、とCheplyakaさん。



また、予約されたのが4時間前であれば、ユーザーは「決断するまでにまだ猶予があるな」と感じますが、一方で予約されたのが5分前であれば「ぐずぐずしている時間はない!」と感じ、ユーザーはすぐさまクレジットカードを取り出すわけです。同時に、予約している人がいることを可視化することで、これから予約しようとしている宿泊施設に関して安心感を抱かせることも可能。

◆レビュー

また、レビューに関しても操作が行われているとCheplyakaさんは語ります。Cheplyakaさんは「ニュー ユニオン」というホテルに宿泊したのですが、このホテルの説明文を読むと非常によい条件のホテルのように見えます。



しかし、ページ上部には「事前に確認!」というタブがあり……



クリックしてみると、「バーの上部に位置する客室では、バーの営業中は若干の騒音が予想されます。」と表示されました。英語版では「事前に確認!」ではなく「The fine print(但し書き)」となっています。Cheplyakaさんによると「若干の騒音」は控え目な表現であり、実際には部屋が揺れるほどの爆音で、かつバーは朝まで夜通し開いていたそうで、「なぜこの警告が赤文字で表示されず但し書きに隠されているのだ?」と怒りを感じている様子。



ただし、これはBooking.comというよりもむしろホテルに責任があり、ユーザーがレビューをしっかり読むべきところとも考えられますが、Cheplyakaさんはレビューを読んだとのこと。しかし、トップページに表示されるレビューは、評価のいいものだけがピックアップされており、それ以外のものはページを移動しないと見られなかったとCheplyakaさんは語っています。トップページではこんな感じで高評価のレビューが並びますが……



「おすすめ順」から「新着順」に並べ替えすると、低評価のレビューも現れます。



◆評価

また、映画サイトやAmazonなど、星の数でシンプルに評価するサービスとは異なり、Booking.comでのユーザー評価は複数の項目についての各評価が平均値として出されます。つまり、1つの項目についてユーザーが最低評価をしても、その他の評価がよければ総合としての平均値は高くなりがち。加えて、各ユーザーの出した平均評価をさらに平均することで総合評価を出しているため、評価が7〜8という、一見すると評価を得ているホテルでも、実際には問題があることがあるとCheplyakaさんはつづっています。



Cheplyakaさんは、Booking.comの使用をやめる予定はない、としつつも「緊急性を示す表記や、横線で消された価格を無視する」「高評価を信頼せず、判断の基準として使う」「メインページに表示されているピックアップされたレビューを読まず、新着順に並べ替えた上で読む」ということの必要性を説いています。