メルマガ『ジャンクハンター吉田の疑問だらけの道路交通法』の著者で交通ジャーナリストの吉田武さんが、現役の警察官であるTさんへのインタビューで「自転車の取り締まり」に関する裏話を暴露する当シリーズ。「逆走警官に復讐した民間人の活躍」について語られた前回に続き、今回は前回の最後に触れられた「自転車同士の衝突事故の顛末」で、自転車に傘をさして乗っていた加害者女性の呆れた言い訳について紹介しています。

軽車両の自転車はどこまで車両や歩行者と共存できるのか? その12

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吉田:Tさんは撮影されたことあります?

Tさん:ええ、ありますよ。私の場合は自転車対自転車の接触事故現場でですね。交差点での出会い頭での接触事故だったんですが、当時は雨が降ってまして、被害者側の自転車に乗っている男性は優先道路を走行。加害者側の女性は自転車運転中に傘をさして片手運転で一時停止無視での飛び出し。男性は女性が一時停止無視で飛び出してくるとは思わず衝突した被害者だったんですが、その女性の自転車の真横へ激突したもんですから女性は数メートル先へ飛ばされてカラダを全身打っていた様子だったんですね。

吉田:男性はケガはなかったんですか?

Tさん:なかったですね。女性の自転車の左側面から衝突する感じでしたのでフロント部分の前輪箇所がぐにゃって曲がってましたけども。

吉田:こんなこと言うのもドライな感情と捉えられてしまいますが、女性側の自業自得な状況ですね。東京都では自転車運転中に傘をさすことは禁止ですし、路面や標識に当然一時停止の”止まれ”サインはあったと思うんです。僕の考えではその女性は自転車だって車両という認識欠如だったのではなかろうかと。軽車両だって車両なんですから一時停止は当たり前なので同情の余地はないですなぁ。僕は男性のほうを支持します(苦笑)。

Tさん:私からはどちらが正しいのか悪いのかは司法判断ですからなんとも言えませんが、個人的見解では男性側が確実に被害者です。しかし、ここから急展開したんです。男性がスマートフォンを取り出して動画の撮影を始めたんですね。女性がケガしている現状を目の当たりにしている現場で。当然周囲には目撃者やギャラリーが集まってきていたんですが、その男性は一切ケガ人介護をせず、その様子を無言で動画を撮影しているだけ。

吉田:なんだか怖いですね。もちろん、それって男性が事故の状況を警察へ提示するために、女性が飛び出してきたのが悪い=過失を分からせるためだったんじゃないでしょうかね。

Tさん:鑑識の面々はそのような事故直後の映像があったりすると大変助かるんですけども、私たちは警察官という立場上、そして道路交通法的に交通事故が発生した場合、加害者と被害者など含め、その現場で関係者が最初に行なわなければならないのは負傷者の救護なんですね。道路交通法でも救護義務として定められているので、この男性が動画撮影に夢中になっていた行為は義務を果たしてないとして逃げているわけではないですが“ひき逃げ扱い”で重罪処分を課すことになりました。

吉田:えええええええ!?!?!?

Tさん:オーバーだろと思われるかもしれないですが、事故現場で加害者被害者関係なく、その当事者となった方は、クルマ、バイク、軽車両……つまり自転車でも車両と分類されてますから、ケガをしている人をその場で放置するのと同じ行為をしたため、被害者でしたが動画撮影に夢中だったこの男性をひき逃げ扱いに処したんです。

吉田:別に被害者の男性は逃げているわけじゃないですよ?

Tさん:道路交通法が古いまま更新されてない現状が恥ずかしいのですが、交通事故現場で撮影なんかを率先している場合は負傷者救護の義務を怠ったことで罰せなくてはいけないのです。つまり、いくら相手が加害者であってもケガで負傷しているわけですので、証拠を撮影することを優先して救護を疎かにした場合は、当事者自身が必要な措置を取らなかったということで処罰の対象になってしまうんですね。

吉田:現行の古いままの道交法では確かに事故を起こした現場で救護をせずに撮影等をしている傍観状態に対する罪は記載されてませんからね。それが自転車同士でも適用されるとは思いませんでした。

Tさん:ひき逃げ扱い……具体的には救護措置義務違反なんですが、これがクルマだったりすると同乗者が車内にいた場合、その同乗者も負傷者に対しての救護責務が生まれるんですね。

吉田:まぁ、人としての常識ですけどね。負傷者の救護は。

Tさん:運転手だけが救護をするだけではなく、同乗者の方も協力しないといけないんです。最近では事故が発生した時に同乗者が現場の模様を撮影してインターネットへ掲載したりとかありますが、あれは厳密に言うとアウトです。運転手ではないにせよ、事故状況に対して110番するなり、救急車を呼ぶなりとか、些細なことでもフォローしなくてはいけないんです。それを怠ると、同乗者の方が罰せられる可能性も出てきます。

吉田:YouTube動画とか見ているとたまに事故に遭った際、同乗者がスマホか何かで事故発生直後から撮影している映像にも遭遇します。ということは……映像が証拠になってますので、調べ上げてその撮影者を罪に問うことが可能になるってことですか?

Tさん:ええ、そうです。自分から証拠を残していることになりますので(苦笑)。

吉田:あらら、それはバカですねぇ(笑)。

Tさん:そこまで警察は粗探ししませんけど、当事者の方や関係者の方から通報あればチェックしますけどね。動画撮影するのは自由かもしれませんが、まずは救護措置をした後に現場証拠を撮るようにしないと自爆しますんで注意してください。

吉田:クルマだったらドライブレコーダーがあるので、その自転車接触事故の被害者男性は救護措置義務違反にならなかっただろうに……。

Tさん:話を戻しますが、この被害者男性に対して救護措置義務違反で罰したのは男性から提供していただいた動画を見た後だったんです。接触事故で飛び出してきた側の女性が数メートル先で横たわっている映像から始まり、ノーカットで警察官が現場へ急行するまでの間が撮られていました。時間にして7、8分ぐらいだったと思います。

吉田:自分から救護措置義務違反しましたってアピールしちゃったわけですな(笑)。

Tさん:はい、そういうことになりますね(苦笑)。

吉田:でも男性側も悪気があったわけじゃないんですよね。一時停止無視して飛び出してきた女性の運転していた自転車が悪いわけですし、論より証拠をって考えが働いたと思うんです。道路交通法違反を先にしたのはその女性ですからね。彼女が自転車だからと軽い考えで一時停止を怠って飛び出した責任は大きいと思います。僕は男性側に同情します。女性側は過失しかないですよ。雨天だからと傘をさしての運転でありながら、一時停止無視なんて非常識極まりない。全ては彼女の自己責任にするべきです。

Tさん:これが水掛け論へと発展してしまいまして、女性側は「一時停止をした」と言い張るんですね。男性側は「優先道路を自転車で走行していたんだから飛び出してきた段階で女性側の違反行為だ」と意見の衝突は避けられませんでした。事故検証では女性側の嘘はすぐ分かりましたが、警察側としては両者からの言い分を最後まで聞き入れなくてはなりませんので、どこまで嘘を付いてくるのか品定めを(苦笑)。

吉田:加害者は大抵嘘をつきますよね。警察密着番組の仕事で交通事故現場取材を中心にしていた時に散々味わいました。加害者は大抵自己弁護から入るので少しでも自分自身の過失を下げようという努力が伝わってきますが……最終的に鑑識から色々と突っ込まれて嘘がバレる。

Tさん:まぁ、どこもそんなもんですよ(苦笑)。

この自転車同士の接触事故は既に処理済みですので私個人の見解を言ってしまうと、「一時停止した」と言い張る女性ですが、傘をさしての運転がダメって知らなかったと言いますし、仮に一時停止したとしても、女性の左側から男性の自転車が走ってきていることを見逃していた……つまり傘をさしていたから見えなかったという判断ができてしまうので、事故の根幹になってしまいますが、一時停止したら左右の確認が必要なのに、ただ止まっただけで横断したとの認識も取れるわけなんです。

酷いこと言うなぁって思ったのは「男性は私が自転車で出てくるのを見過ごしていたわけですから、前方不注意じゃないですか? しかも傘さしていたので相当目立っていたわけですので、男性にも大きな過失があると思います」と言ってきたんですね。正直呆れました。事故の引き金を作ったのはあなたなんですよって言いたかったんですけども、それはさすがに言えなかったので我慢しましたが、加害者なのに負傷したことから被害者意識が芽生えてしまって面倒な状態になったんです。

吉田:うーん、自転車に乗って一時停止を無視する人のよくある傾向ですね。車両という認識があまりにもなさすぎます。結局、事故は人身事故での扱いにしたんですか?

(次回へつづく)

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出典元:まぐまぐニュース!