アルファロメオが10月に日本で発売する4ドアセダン「ジュリア」。最上級モデルの「クアドリフォリオ」(写真)にはフェラーリの技術を生かしたV型6気筒エンジンが搭載された(撮影:鈴木紳平)

伝説の名車「ジュリア」が40年ぶりに復活する。

欧米自動車大手、フィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)の日本法人、FCAジャパンは9月6日、アルファロメオのスポーツセダン「ジュリア」を発表した。

往年のアルファロメオファン、「アルフィスタ」たちには垂涎のニュースだろう。ブランドの本拠を置く欧州で発売されてから約1年、10月14日にようやく日本でも発売される。価格は標準グレードで446万円。排気量2リットルの直列4気筒エンジンを搭載した後輪駆動車だ。

排気量2.9リットルのV型6気筒エンジンを載せた最上級モデル「クアドリフォリオ」も用意された。FCAと提携関係にある高級車メーカー・フェラーリのV型8気筒のエンジンをもとに開発したという。価格は1132万円。車体の側面にあしらわれたのは、「お守り」の意味を持つ四つ葉のクローバーのマークだ。

高級ドイツ車ファンを引き寄せられるか

「既存のプレミアムブランドとも互角に戦える先進機能や利便性も兼ね備えた。ジュリアと同等クラスのBMW3シリーズやメルセデス・ベンツCクラス、レクサスなどに乗る人たちにも訴求できる」。FCAジャパンのポンタス・ヘグストロム社長はそう語り、強気な姿勢を見せた。複数の販売店によれば、実際にドイツ車ユーザーなどからの関心が高いという。


FCAジャパンのポンタス・ヘグストロム社長は、高級車市場でのジュリアの健闘に期待する(撮影:鈴木紳平)

FCAは今、アルファロメオをグローバルブランドとして復活させようとしている。欧州では2017年1〜6月、ジュリアの販売が牽引し、アルファロメオ全体の販売台数が前年同期比で40%増えた。中国にも初参入し、1990年代半ばに撤退した米国での展開も決まった。新型ジュリアは従来モデルよりも一回り大きくなっており、米国市場を意識していることがうかがえる。

日本でも攻勢をかける。FCAジャパンは2019年までに、アルファロメオ単独で年間販売1万台の突破を目指す。ただ、2016年の実績はわずか1767台にとどまる。

これに対しては、「アルファロメオはコアなファンが多いものの、競合となるドイツブランドに比べ、ブランド力やファンの数、販売網の面では弱い。1万台超えは難しいのでは」(輸入車に詳しい独コンサルティング会社、ローランド・ベルガーの貝瀬斉パートナー)との声もある。

FCAジャパンはジュリア発売に合わせ、これまで複数ブランドを扱っていた販売店をアルファロメオの専売拠点にするなど、販売網の刷新を急ピッチで進めている。


東京・世田谷に改装開店したアルファロメオの専売ディーラー。赤と黒のシックなデザインが目を引く(記者撮影)

9月2日に改装開店した「アルファロメオ世田谷」では、1階にはアルファロメオのみを展示して前面に出し、従来併売していたフィアットやアバルトは2階に切り離した。FCAが指定する厳しい内装基準を満たすことで、高級感を出した。坂本頼彦支店長は「専売化による既販モデルへの相乗効果も期待できる」と話す。

往年のファンが多いジュリアシリーズ

ジュリアはアルファロメオの歴史を語るうえで欠かせない車だ。1960〜1970年代に発売された旧ジュリアシリーズは、当時高級スポーツカーに限られていたDOHCエンジンを搭載し、高回転・高出力を可能にした。さらに車体にはアルミを全面採用、自動車デザイナーの第一人者であるジウジアーロがデザインを担当するなど、多くの自動車ファンの注目を集め、世界中で一世を風靡した。


FCA本社から来日したデザイナーのアレッサンドロ・マッコリーニ氏は、ジュリアのイタリアらしさを強調した(撮影:鈴木紳平)

日本にアルファロメオが初めて輸入されたのは1960年代だった。そのため2世代、3世代でアルファロメオを信奉する熱心なアルフィスタたちがいる。1950年代のジュリエッタや、1960年代のジュリアの中古車は、コアなアルフィスタの間で大切に乗り継がれている。

ただアルフィスタの最も厚い層は、2000年代初頭に人気を集めた「147」、「156」、「159」シリーズのユーザーだろう。当時アルファロメオは日本で年間6000〜7000台を販売し、いまだにそれが最高記録となっているからだ。新型ジュリアは159以来の4ドアセダンだけに、ファンの期待も高い。

新型ジュリア発表のために来日したFCA本社のエクステリア・チーフデザイナー、アレッサンドロ・マッコリーニ氏は、「ジュリアをジュリアたらしめているのは、イタリアらしい官能的なデザインと高い走行性能だ」と強調。40年を経てあらためてジュリアの名を復活させた裏には、出来栄えへの強い自信がある。

デザインは無駄をそぎ落とし、「必要美」を追求したという。ボンネット上に斜めに入ったエアインテーク(吸気口)も工夫されている。そして、「トライローブ」と呼ばれるフロントグリルに目を向ければ、一目でアルファロメオとわかる。

アルファロメオ以外にも、フィアットやジープなど複数のブランドを抱えるFCAは近年、ブランド間でプラットホーム(車台)の共通化を進めてきた。2014年発売の小型SUV(スポーツ多目的車)であるジープ「レネゲード」とフィアット「500X」が、プラットホームを共有して開発されたのは記憶に新しい。

しかしアルファロメオは今回のジュリアのために、従来より大型の新プラットホーム「ジョルジオ」を単独で開発した。107年の歴史を持つブランドとしての誇りを尊重しながら、グローバルブランドとしてアルファロメオをテコ入れしようとするFCA本社の意思の現れといえる。

来年にはブランド初のSUVが日本へ


ジュリアの発表の場に突如姿を現した、アルファロメオ初のSUV「ステルヴィオ」(撮影:鈴木紳平)

さらに今回の発表の場では、大きなサプライズがあった。アルファロメオ初のSUV「ステルヴィオ」が、先代ジュリア、新型ジュリアに並ぶ形で会場でお披露目されたのだ。日本では今後1年以内に発売される予定だ。

ステルヴィオは、ジュリアと同じプラットホームで開発された。アルファロメオを「強靭な女性」と表現したアレサンドロ氏は、この2つを「姉妹車」と位置づける。

ジュリアがドライバーとの一体感や走行性能を重視するのに対し、ステルヴィオは車内の快適性や荷物を積むスペースにもこだわった。サイズはBMW「X5」やポルシェ「カイエン」と同等か、やや大きめ。多くの高級車ブランドが近年こぞってSUVを投入しており、アルファロメオもその流れに乗った格好だ。

アルファロメオの未来の車が提供するのは、ドライバー中心の走りであり、エンジンの音であり、イタリアンデザインだ」

実はジュリア、ステルヴィオの発表と同じ日、日産自動車の新型EV(電気自動車)「リーフ」の発表会が幕張メッセで大々的に行われた。満を持してのジュリア発表と重なったためだろうか、FCAジャパンのヘグストロム社長は”車の未来はここにあり”と言わんばかりに強調した。

自動運転車やEVの開発機運が高まる中、「走り」にこだわり続けるアルファロメオ。ニッチなファン以外にも新たなアルフィスタを獲得し、グローバルブランドへと成長できるか。まずは、40年ぶりに復活したジュリアの売れ行きにかかっている。