ホンダの新型「アコード」には10速ATが搭載されるといいます。MT車では見られないギヤ数ですが、なぜこれほど多段化したのでしょうか。

クルマのAT、ついに10速が市販車へ搭載

 北米から、次の新型「アコード」(ホンダ)には10速のAT(オートマチックトランスミッション)が搭載されるというニュースが聞こえてきました。ATの多段化の流れは、近年のトレンドでしたが、とうとうふた桁まで段数が増えるとは、驚くばかりです。


10代目「アコード」は10速ATのほか、CVT、6速MTをラインナップ予定(画像:ホンダ)。

 ひと口にATとは言いますが、これにはさまざまな種類があります。ここで言う「多段化するAT」は「ステップAT」とも呼ばれるもので、内部に「遊星ギヤ」が入っており、このギヤの数が増えているのです。ステップATが普及した当初は、3速や4速が主流でしたが、ここ最近は6速ATが標準的な存在になっていました。

 ATの発明は古いのですが、普及は第二次世界大戦後。アメリカが先行し、日本では1980年代に普及が進みました。いまではごく当たり前である「AT限定免許」の導入は1991(平成3)年です。つまり、それ以前に免許を取得した人は、みんなMTで練習していたのです。

多段化の対極CVTと多段化が止まったMT

 一方、日本には軽自動車を中心に「CVT」と呼ばれる方式のATが数多く使われています。こちらはふたつの「プーリー」の間にベルトを通し、それら「プーリー」の直径を変化させることで変速します。自転車に前と後ろのギヤがあって、その直径を変化させて変速するのと似ていますね。1速や2速という段階がないため、「無段変速」とも呼ばれます。

 ところが、CVTは、世界市場では少数派。そのため、世界で勝負するクルマの多くは、ステップATが採用されています。ホンダの「アコード」も北米市場が販売の中心なので、ステップATを搭載しています。


ポルシェ「911 カレラ カブリオレ GTS」のシフトノブ。7速(+R)まで刻まれている。(画像:ポルシェ)。

 ちなみにMT(マニュアルトランスミッション)も、かつては4速や5速が中心でしたが、今や6速が標準的な数になっています。ポルシェに7速はありますが、ほかのブランドに7速が広がる気配はありません。高性能スポーツカーはAT化が進んでいますし、もう少し小さくて安いスポーツカーには7速の必要性がそれほど高くないからでしょう。また、実際のところ、あまりにギヤ数が多すぎると使いにくいもの。それもMTの多段化を抑える理由になっているはずです。

 6速から7速で止まったMTの多段化に対して、ATの多段化は止まりません。メルセデスベンツやレンジローバー、ジープなどには9速ATが搭載されています。その理由は簡単です。段数を増やすと、燃費が良くなるからです。

多段化の理由、「燃費の目玉」とは?

 クルマのエンジンには、走行に必要な出力に対して、燃費の良くなるエンジン回転数域というものがあります。業界的には「燃費の目玉」といわれるところです。走行中に、エンジンの回転を、その目玉の回転数内におさめておくと燃費がよくなります。そして、走行中に大きく変化する出力と回転数を調整するために、あるのが変速機。つまりギヤです。そのギヤの数が多ければ多いほど、エンジン回転数を「燃費の目玉」の中にとどめやすくなります。そのためにギヤの数は、増える一方なのです。

 ホンダは近い将来に10速ATを市場に投入するようですが、トヨタも昨年の秋に10速ATを開発したことを発表しています。6速が常識だったときに7速や8速の話が出たころは、「多段化は重量増になるので限界がある」と言われたもの。しかし、その後も9速が登場して、10速も登場間近。

 いったい限界はどこのあたりにあるのでしょうか。厳しい燃費向上の要望が続く限り、もしかすると多段化の流れは止まらないかもしれませんね。

【画像】CVT(無段変速)の概念図


プーリーの幅が変わることで、ベルトがかかる部分の直径を変化させ、変速を行う。燃費はよいが、反応がいまひとつという声も。