普通免許取得者のうち、AT限定の割合が半数を超えています。加えて、2017年3月の「準中型免許」新設で、MTの取得者はさらに減っています。そうしたなか、あえてMTで免許を取るメリットは何なのでしょうか。

都内教習所、約7割がAT限定

 2017年5月現在、国内における乗用車のほとんどが、クラッチ操作などが不要なAT(オートマチックトランスミッション)車です。カーディーラーの業界団体である日本自動車販売協会連合会(東京都港区、自販連)によると、2016年に国内で販売された乗用車(軽自動車と輸入車除く)のうち、じつに98.4パーセントがAT車で、この7〜8年は同程度の割合で推移しているといいます。


MT車シフトレバーのイメージ。AT限定の免許では運転できない(画像:写真AC)。

 これに呼応するように、普通免許(一種)を「AT限定」で取る人も年々増加。警察庁の「運転免許統計」における「都道府県別指定自動車教習所の合格者数」によると、AT限定免許の合格者の割合が限定なし、すなわちMT(マニュアルトランスミッション)車も運転できる普通免許(以下「MT免許」)の合格者を上回ったのは2009(平成21)年で、2016年(平成28年)には59パーセントまで伸びており、東京都に限っていえば、67パーセントに達しています。

「何かあったときのために、MTで取れ」両親に言われて

 このような状況のなかで、MT免許を取るメリットはあるのでしょうか。平和橋自動車教習所(東京都葛飾区)に話を聞きました。

――普通免許の教習で、AT限定の人とMTも受講する人との割合はどれくらいでしょうか?

 おおよそ6対4でAT限定の方が多いです。若い人の多くは「クルマ=AT車」と思っており、MT車の存在自体を知りません。クラッチという言葉すら聞いたことがないという人もいます。

――MT免許を選ぶ人の理由を教えてください

 「『何かあったときのために、MTで取っておけ』と親に言われた」という理由が大半です。残りは、運送業界のドライバーといったような、運転の「プロ」を目指すためです。

AT限定が約4割の地域も

 その一方で、先述の「都道府県別指定自動車教習所の合格者数」によると、青森と岩手、秋田、鳥取の4県では、2016年度のMTの合格者数がAT限定を上回っています。4県の中でAT限定の割合が約39パーセントと最も少ない青森県の指定自動車教習所協会(青森市)にその背景を聞きました。

――青森県でMT免許を取る人が多いのはなぜでしょうか?

 トラックなどの、運送業や土木建設業などで使うクルマにMT車が多いからです。

――そのほかに、地域的な事情はありますでしょうか?

 青森では大半の免許取得者は就職を控えた地元高校生ということもあり、福島や宮城、山形と異なり都市部の大学生が免許合宿に多く来ないため、そういった差があります。秋田と岩手も、青森と同じことがいえるのではないでしょうか。
 
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 先述の平和橋自動車教習所においても、学校卒業後にトラック運転などを視野に入れた高校生がMT免許を取得することもあるといいます。

トラックを想定した需要は「準中型」へ

 しかし、2017年3月12日の「準中型免許」の新設にともない、車両総重量5トン未満の「2トントラック」は普通免許から準中型免許の区分に割り振られたため、上述のようなトラック運転などの需要も減少する可能性があります。

 新設後の現状について、平和橋自動車教習所では「準中型免許は18歳から取得できるため、高校生などの関心がMT免許から準中型免許に移っている」と話します。2017年5月現在、同教習所におけるMT免許と準中型免許の生徒の割合は6対4とのことです。

 このような背景からも今後、MT免許の取得数はますます減少し、AT限定免許の割合が増していくと考えられます。

【表】「準中型免許」新設後の免許制度


普通免許で運転できる自動車の範囲が狭まったが、これまでの中型自動車の一部を18歳から運転できるようになった。なお、旅客を乗せた営業運転には2種免許が必要だが、準中型は2種免許が設定されていない(警視庁の資料をもとに乗りものニュース編集部で作成)。