女性誌『Suits WOMAN』で注目を集めた「貧困女子」。これは普通の毎日を送っていたのに、気がつけば“貧困”と言われる状態になってしまった女性たちのエピソードです。

今回お話を伺ったのは、現在、アルバイトをしている松本貴美子さん(仮名・40歳)。手取りの月収は17万円で、東京都墨田区にあるシェアハウスに住んでいます。

貴美子さんは地味なキャリア女性というタイプ。黒のツイード素材のジャケットにぴちぴちタイトスカート。スカートのシルエットは、台形で10年前に流行したひざ上丈です。インナーには白の化繊のボウタイブラウスを合わせています。体型が太めなので、“昭和末期のPTAの保護者”という印象のファッションです。

アラフォーという年齢からでしょうか、頬と鼻の上のポツポツした毛穴の黒ずみや、そばかすが目立ちます。ボサボサの地眉からはみ出るように眉毛を描いているので、ミスマッチな印象を感じる人が多いかもしれません。脂ぎった髪の毛には、白髪が目立ち始めていて、全体的に清潔感からほど遠い。まずは、貴美子さんのキャリアから伺いました。

「第一希望の大学に入れなかったことが、私の転落の始まりです。高校まではホントに優等生だったんですよ。私は茨城県出身なんですが、名門と言われる公立高校に入って、勉強しまくって、ほぼ最高の内申点をマーク。でも、第一希望の大学の推薦入試に落ちてしまった。それで、ある名門大学に一般入試で入りました。でも市ヶ谷にあるその大学は、私に合わなかった。ろくに勉強もせずに、お情けで卒業。超氷河期の就活もだらだら過ごしてしまって……」

最初に就職したのは、不動産関連会社だったといいます。この時に、女は若くてかわいくなければ存在価値はなく、世の中はお金だ、と思ったとか。

男子はうつに追い込まれるほどのブラック企業だった……

「男子は超ブラック的な働き方をさせられていました。土日も返上し、ノルマを達成しないと病気になるまで追い込まれる。自殺した人もいるんじゃないかな。でも、当時はそれが当たり前でしたよね。私達の年代までは、出生人数も多かったし、“いくらでも替えがいる”と思われていた。それに男尊女卑の思想はあからさまに出ていましたしね。私がいた会社は、超拝金主義で、お金だけが正義。優しい人や賢い人が“他人にも自分にも甘いクズ”という扱いをされて、バタバタと辞めていく。私も“記憶力だけがいいブス”と言われて、高卒採用の女の子が好成績をマークしてかわいがられている。そういう現実が辛かったですね」

そんな貴美子さんを支えてくれたのが、当時交際していた15歳年上の男性の存在。しかし彼は既婚者だったのです。

「尾崎豊の『I LOVE YOU』の歌詞まんまの恋愛でした(笑)。彼はとても優しいけれど、弱かった。それでも自分に鞭打って、そこそこ仕事ができたのですが、仕入れ(土地の買収)を担当していて、けっこうエグいことをさせられていたんですよね」

そのストレスを、彼は性的衝動にぶつけていたそうです。

「当時、練馬区で一人暮らしをしていました。私が仕事で失敗した時、彼が飲みに誘ってくれて、そのまま家に来て、そういうことになって。仕事では優しいのですが、男女関係になるとマウンティングしてくるんですよね。言葉で責められるのが嫌じゃなかったので、そのままずるずると1年くらい関係が続きました。私は24歳で、恋愛経験はあったのですが、ほぼワンナイト。今までと違うな……と思いながらも、受け入れていました。でも、終わると好きだ、とか愛している、とか言ってくれるんですよ。それから2人くらい男性と付き合いましたが、彼以上、快楽を感じた人はいないかもしれません」

行為中に言葉による暴力から、平手打ちなどに発展。さらには、年収240万円程度の貴美子さんに、彼はお金をねだるようになったといいます。彼のことは大好きだけれど、要望には応えられない。1年半の交際でボロボロになったとき、貴美子さんに転職の話が持ち上がります。

「彼のことがウザくなり始めた27歳のときに、広告代理店への転職話が持ち上がりました。インセンティブが入れば給料も高くなる。貯金を使い果たして、好物のファストフードも食べられない生活だったので、年収が480万円にアップすると聞き、その話に飛びついてしまったんです」

本当に苦しい生活の時は、ファストフードのポテトも買えなかった。

ブラック企業への転職と、さらなる転職の地獄、不倫男子に狙われる人生が始まる……〜その2〜に続きます