5月20日〜21日に大分県のオートポリスで開催されたスーパーGTシリーズ第3戦。昨年は熊本地震の影響で中止となり、同地では2年ぶりの国内最高峰レース開催とあって、決勝日には1万8200人が来場して大いに盛り上がった。


第3戦を制した山下健太(左)、土屋武士監督(中央)、松井孝充(右) 注目のレースは、GT500クラスではナンバー36のau TOM’S LC500(中嶋一貴/ジェームス・ロシター)が今季初優勝を挙げ、開幕から絶好調のレクサス勢が開幕3連勝を成し遂げる活躍を見せた。

 一方、GT300クラスでは、低予算のプライベーターながら年間王者を勝ち取り「町工場のチャンピオン」と呼ばれたナンバー25のVivaC 86 MC(松井孝允/山下健太)が本領を発揮した。予選ではライバルたちを0.6秒以上も引き離す圧倒的な速さを見せてポールポジションを獲得。決勝も山下から松井にバトンをつなぐ戦略で、見事にトップを守り切って今季初優勝を挙げた。

 昨年まではドライバー兼エンジニアとして、自ら走りながらマシンの分析なども行なっていたVivaC Team TSUCHIYA代表の土屋武士。今年はドライバーを引退し、監督兼エンジニアという立場でふたりの若手ドライバーを率いている。そのなかで掴んだ勝利は、昨年までとは違う格別な1勝だったようだ。

 レース後、土屋監督のもとを訪れて優勝の感想を聞くと、「感無量です」と真っ先にコメントしたのが印象的だった。今年は監督としてドライバーふたりをコースに送り出し、彼らにストレスなく走ってもらうための環境づくりに徹するなど、昨年とは異なる苦労があったという。

「ドライバーのときは準備をすれば、あとは集中してレースをやろうということだけ考えていました。しかしこういう立場になると、何が起きてもおかしくないということを想定して対策していくとキリがなくて、準備をすればするほど、不安しか出てこなかったです。

 予選でもドライバーを送り出すまで緊張していましたし、セッション中はずっとドキドキしていました。マシンのセッティングのことや、(アクシデントが起きて)赤旗が出たときのこと、トラフィック(アタック中に他車に引っかかってしまうこと)のことも考えていると、ずっと緊張しっぱなしでした」

 自身がドライバーとして20年以上にわたり第一線で活躍してきたからこそ、監督として、エンジニアとして何をしてあげなければならないのか――そういった細かいところでの配慮や工夫が、今回の優勝につながったのは間違いない。

 特に、「ドライバーに不安なくレースに臨んでもらいたい」という土屋監督の想いが顕著に出ていたのが、スタート前のグリッドだった。

 マシンはギアシフトに小さな不具合を抱えており、グリッド上でコンプレッサーと呼ばれる部品を緊急交換した。土屋監督も自らマシンをのぞき込んだり、タイヤを回して駆動の状況を確認するなど、鬼気迫る表情でマシンと向き合っていた。

 しかし、後方で待機しているドライバーのほうに振り向いたときは、「大丈夫!」といつもの穏やかな表情を見せていたのだ。

 これについて土屋監督は、「自分が精神的な柱にならなければいけないので、僕の表情を見て(ドライバーたちも)安心するだろうし。あのときはすごく意識していました。やっぱり自分もドライバーだったので、どうしたほうがいいかというのは知っていますし、こういう立場なので、自分のやるべきことは何なんだろうなというのを常に考えていましたね」と振り返った。

 スタート直前の緊迫感のなかでドライバーたちに安心感を与えられたことが、レースでの快進撃につながった。そしてこの決勝でのハイライトは、レース終盤に訪れる。

 それまで後続を圧倒する走りを見せていた25号車(VivaC 86 MC)だったが、終盤になって燃料ポンプのトラブルが発生。ガス欠のような症状が出てペースが上がらず、特に最終ラップは大幅にペースダウンとなってしまう。その結果、ナンバー61のSUBARU BRZ R&D SPORTに背後まで迫られることに。それでも最後までトップは譲らず、0.091秒差の”ハナ差”でフィニッシュとなった。

 ただ、ここで出たトラブルは、レース前の段階から想定していたという。事前対策をしっかりと取っていたからこそ、最後まで逃げ切ることができたと土屋監督は語る。

「オートポリスでは、このクルマでレースをするのは初めて。一昨年は予選は走ったけど、決勝はトラブルで走れなかったですからね。ここはすごくGがかかるし、温度も高かったので、いろんな対策をしていました。

 燃料ポンプに関しては以前も不具合が出ていましたし、前回のレースから2週間の間に燃料タンク内のポンプの取り回しを変更しました。また、ピットストップでもいつもより2秒多く給油していました。そこでピットでライバルに抜かれても(松井)孝允が抜き返してくれるだろうという信頼のもと、『もし壊れたら……』ということも考えて、わざと2秒多く給油しました。それがなければ絶対に勝てなかったです」

 土屋監督は常々、「サーキットに入るまでの事前準備で、週末の流れがほぼ決まる」ということを口にしてきた。まさに準備段階で対策してきたことが、最後の最後に0.091秒差で逃げ切れた勝因につながったのだ。

 昨年とは違う立場で勝ち取った予選ポールポジション、そして決勝での優勝――。ドライバー時代も25号車で何度も同じ結果を出してはいるが、土屋監督は「初ポールポジションだし、初優勝」という表現を強調していた。それだけ、今回の勝利は特別なものだった。

 これでVivaC Team TSUCHIYAはGT300クラスでランキング首位に躍り出た。2年連続シリーズチャンピオンという可能性も少しずつ見えつつあるが、土屋監督が目標としているのは「昨年の自分たちを超えること」だという。

「一番のテーマにしているのは、昨年の自分たちに勝つということ。昨年チャンピオンを獲って満足するのではなく、それを超えていかないといけないと思っています。シーズン開幕前から、そこに勝負を挑んできました。ここまで間、(その勝負に)勝つことはできていると思うので、この調子でこれからもやっていかなければいけないです」

 次回の舞台となるスポーツランドSUGO(7月22日〜23日/宮城県)も彼らが得意としているコース。昨年はあと一歩のところで2位となったが、今年はどんなレースを見せてくれるのか楽しみだ。

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