レクサスの完全新機種である”LC”はご覧のとおり、なんとも立派な大型2ドアクーペで、お値段はじつに1300万円以上もする!

 こうしたクルマはいわば富裕層の嗜好品で、浮世ばなれした上流階級感がツボ。「こういうクルマに乗る人こそ、本当のお金持ち」とだれもが自然に受け入れる社会通念がないと、なかなか理解されにくい。だから、欧米よりクルマにまつわる歴史が短く、明確な階級社会でもない日本のメーカーが手がける商品として、この種の超高級クーペはもっともハードルが高いジャンルである。


 もっとも、「1000万円オーバーの2ドア」というだけなら、日本にも日産GT-RやホンダNSXといった前例がある。しかし、GT-RやNSXは単純で分かりやすい”速さ”を高価格の根拠としており、モータースポーツに積極的なところもLCとは異なる。

 レクサスLCも文句なしの高速車ではある。しかも、今シーズンのスーパーGTに、レクサスはLC名義でGT500クラスに参戦もする。ただ、実際のGT500マシンが市販車と似ているのは外装デザイン(の雰囲気)と車名だけで、中身はまるで別物。また、GT-RやNSXには市販車改造クラス用モデル(GT3)も存在するが、レクサスでその役割を担うのは、ひとまわり小さいRC Fである。

 つまり、LCは単純な速さでなく、高級感や味わい、色気……といった”オーラ”のようなもので世界と勝負するクルマということだ。

 LCの実物の第一印象は「これって本当に売るんですか?」である。LCのデザインはもともと市販予定がなかったショーカーがベースだが、そんなブッ飛んだ造形を、ここまで忠実再現した技術と意地には素直に感心する。

 LCはベタッと低くて幅広く、いかにも強そうで走りそうなのに、欧米のクーペやスポーツカーにありがちな筋骨隆々の肉食系デザインとは明らかにちがう。全体に余計な抑揚や線がなく、滑らかなのが最大の特徴だ。

 こういうツルンとしたデザインは、じつは量産するのがもっとも困難な部類に入る。一般的なクルマのボディは鉄板やアルミ板を折り曲げて接合して、そこにプラスチック部品をハメ込んでつくるから、どうしても継ぎ目ができてしまうし、異素材の塗装の色調を合わせるのも大変だからだ。


 そう考えると、このLCの完成度はマジでスゴイ。誤解を恐れずにいうと、遠目から見ると「もしかしてCGか!?」と錯覚しそうなバーチャル感すらただよう。これはもちろん存在感が薄いという意味ではない。むしろその逆。LCはボディ表面の仕上げが陶器のように滑らかで、部品の継ぎ目が見事なまでにタイトだからこそ、まるで”絵”みたいに周囲の景色に溶け込んでいるということだ。

 こういうオーラは欧米のクルマにはない。レクサスの担当者も「LCは世界でいちばん京都に似合うクーペ」と自慢顔だが、ひねくれ者のワタシも今回だけは全面的に同意する。

 デザインの良し悪しはともかく、こういう繊細な仕上げこそレクサス……というか、日本車というか、いや日本の工業製品すべてに共通する世界に誇れるツボというものだ。

 そんなLCでも、もちろんツッコミどころがないわけではない。

 たとえば、エンジンやサスペンションの味つけを、状況に応じて(マイルドからハードまで)5段階から選べるモード切替が備わっているが、正直いうと、LCはどのモードを選んでも思ったほど変わらない。いちばんマイルドにしてもパリッと走るし、いちばんハードにしても乗り心地は悪くない。

 これは技術的には素晴らしいが、いささかツマらないのも事実。先達の欧米高級ブランドは、柔らかいモードでは「なんじゃこりゃ!?」と笑っちゃうくらいグニャグニャにしたり、あるいはハード側では身体が心配になるくらいゴキゴキに硬くなったり……と、確信犯的に乗り手を楽しませようするケースが多い。


 また、内装の金属調メッキ部品もプロの目で見ると驚くべき見事な仕上げだそうだが、われわれシロートは仕上げが多少アラっぽくても、本物の金属部品のほうに、ありがたいオーラを感じてしまうのも事実だ。

 こうしたツッコミどころは、レクサス(=トヨタ)がまさに日本メーカーゆえ。日本人は真面目だから「お客様がどのモードを選んでもきちんと快適に走るべし」とか「下手に金属部品を使うと、真夏の長時間駐車では熱くなりすぎる」と、なんにつけても愚直に考えてしまうのだろう。

 だから、こうしたLCの重箱のスミに「世界のお金持ち相手の商売なら、もっと遊んじゃえ!!」と思いつつも、どこか親近感を抱いてしまうのは、ワタシも根は真面目で小心者(?)の日本人だからだ。

 いずれにしても、日本メーカーがもっとも苦手とする世界にあえて踏み込んだ心意気こそがLC最大のツボ。そして、そんなLCが良くも悪くも根っからの日本車であることに、日本のクルマオタクはツボをくすぐられる。


【スペック】

レクサスLC500

全長×全幅×全高:4770×1920×1345mm
ホイールベース:2870mm
車両重量:1940kg
エンジン:V型8気筒DOHC・4968cc
最高出力:477ps/7100rpm
最大トルク:540Nm/4800rpm
変速機:10AT
JC08モード燃費:7.8km/L
乗車定員:4名
車両本体価格:1300万円

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