小樽から見た石狩湾新港方面に現れた「高島おばけ」(写真上。写真下は実際の風景)。ガスタンクや風車がタテに伸びて見える

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「高島おばけ」……。

最初にこのことを聞いたとき、まず思い出したのは「口裂け女」のことだった。字面から想像するに「小樽の高島地区に出没するおばけ」なのだろうが……そんなおばけなんているのか? まずは地名の「高島」を手がかりに追ってみた。

高島地区というのは小樽市街から見て北西、小樽水族館へ向かう途中にある集落で、そこそこ大きな漁港があって釣り人も多いという場所だ。そこで釣り仲間に「高島で、何か変なものを見たことがないか?」と聞いてまわった。

■ 高島地区(小樽市)の海に現れるらしい

するとどうだろう、なんと高島漁港から外海に投げてカレイ釣りをしているとき見たことがあるという証言が……。「海上に変なもんが現れて『なんじゃあれは?』と話題になったことがある」というのだ。しかし、その釣り人はなぜかニヤニヤするばかりで詳しく教えてくれない。「あれはおばけだ。高島で出るから『高島おばけ』よ」と笑うのみである。

■ なぜだか、春から初夏にかけて

「出るのは、春から初夏だわなあ」という釣り人の話も気になった。春から初夏というと、おおよそ4月〜7月くらいだろうが、寒すぎず暑すぎず、ぽかぽかしてくる良い季節。場所だけでなく季節限定。しかも「海上に変なモンが見える」とは……。もしかするとこれは「おばけ」なんてものじゃなく、もっとSF的な怪奇な現象なのかもしれぬ。まさか異次元空間への入口とか……?

■ なんと、明治の探検家・松浦武四郎も見たらしい

さらに調べると、どうやら北海道の名付け親、かの松浦武四郎もこの不思議な現象を見たという記録が残っているらしい。松浦武四郎といえば、江戸時代後期から明治時代にかけての人である。つまり、150年以上前にも「高島おばけ」はいたらしいのだ。そんなに長い間、ずっと出没し続けるなんてありうるのだろうか!?

そんな話を聞くうちに、ふと「これは怪奇現象などではない……」と思い当たる。そこでさらに詳しく調べてみると、ついに正体をつきとめた。その正体とは……。

「高島おばけ」とは、春から初夏にかけて石狩湾に現れる「蜃気楼」のことだった。

詳しくいえば、遠くの風景の上に虚像が見える「上位蜃気楼」と呼ばれる気象現象。石狩湾以外で継続的に観察されているのは、日本国内では富山湾や琵琶湖など限られた地域のみ。つまり、ものすごく珍しいのである。

発生するのは、石狩湾の水温が低い状態にあり、そこに札幌周辺の暖かい空気がゆっくりと流れ込むとき。条件が揃うと、高島あたりから見える石狩湾新港のガスタンクや風力発電用の風車が、タテに伸びて見えたり、あるいは平坦にひしゃげて見えたりするという。出現日は、まだ海の水温が低く、ぽかぽか暖かい日。だから春から初夏、4〜7月くらいなのである。

というわけで、名前に反して恐ろしくもなく、安全かつ神秘的な「高島おばけ」。この春、気持ちの良い晴れの日を狙って、小樽へおばけ探しに出かけてみては?

【北海道Walker編集部】