■「夏競馬」珍道中〜西日本編(10)

 西日本を行く「旅打ち」第3ラウンドは、佐賀競馬。笠松競馬と同じパターンの出だしで気をよくしていたが、第3レースがハズレて雲行きが怪しくなってきた。

 何が足りないのか、考えてみた。そうだ、まだ昼メシを食っていないではないか。確か、笠松でも競馬場メシを食べてから、当たり馬券を仕留められたのだった。

 ここは、流れを変えるためにも何か食べよう。そう思って、指定席フロアにある飲食店を見渡してみると、3軒並んだ真ん中の『勝屋』の店頭に目がいった。

「当店おすすめ! にぎり寿司」

 これだ! 寿司と言えば、「あたらない」の象徴。こいつを平らげれば、現状の"当たらない"地獄からも脱出できるはず。糖質制限中の身だが、勝つためには仕方がない。寿司は大好きだし♪

 運ばれてきたのは、8貫の握り寿司とお吸い物。ゲタの上に並んだお寿司は、エビやイカ、マグロに、煮アナゴなどで、いずれも鮮度はバツグン。これで750円なら、競馬場の中ということを考えても及第点。余は満足である。

 小腹も満たされ、気分を新たにして向かうは第4レース。冷静に過去3レースの買い方を分析し、ワイド勝負がいいことに気づいた。これまでどおり3連単を基本にしつつも、同時にワイドもドーンと購入してみた。

 するとどうだ、3連単もワイドも的中。配当自体は安かったが、買い目を絞って購入金額に強弱をつけたことで、このレースはしっかりとプラスに終わった。寿司効果で"当たらない"現状からおさらばできそうだ。

 さらに続く第5レースも的中した。が、またしてもトリガミ。第6レースでは、本日の佐賀競馬で初の万馬券が飛び出して、かすりもしなかった。

 初めての佐賀競馬はときどき当たるものの、ハズレとトリガミが続いて、財布の中身はどんどん心細くなっていく。このままでは、今夜の熊本では何も楽しめない。ということは、復興に何ひとつ協力できないということではないか。それだけは何ともしても避けねばならない。

 第7レースを前にして、ちょうど中休み。気分転換に場内を散策することにした。

 佐賀競馬場は、規模のわりに飲食店や売店が多い。なかでも、有名なのが1階スタンド入り口にある「何でも焼く店」と呼ばれる売店だ。店頭にある鉄板や七輪で、店に売っているものなら文字どおり、何でも焼いてアツアツの状態で提供してくれるのだ。

 早速、足を運んでみると、似たような店が通路を挟んでふたつある。

「あれね、両方のお店はライバルなんだよ。どっちかが新しいことをやると、もう片方がそれに対抗して始めるって感じでね」

 ふたつの店を見比べて迷っているワシも見て、常連らしきおにいさんが教えてくれた。

 とりあえず、ひとつの店頭を眺めてみると、さつま揚げのような、いわゆる練り物系の種類が豊富で、多くのお客さんはそれらの中から数品選んで焼いてもらっているようだった。練り物以外には、焼き鳥やとうもろこし、ウインナーに、芋、カレーパンやお饅頭まである。

 さっきお寿司を食べたばかりなのに、早くもお腹の虫が鳴き始めた。しかし、飲食店はここだけではない。他も見ようと、入場門脇のほうに向かってみた。すると、今度は猛烈な呼び込みの声が聞こえてきた。どうやら、とんこつラーメンを中心としたお店がこれまたふたつあって、両方のお店が凄まじい"呼び込み合戦"を展開していた。

 こちらの考えなどお構いなしに、有無を言わさず席に座らせようとするおばちゃんたち。できることなら両方で食べてあげたいが、こちらの胃袋はひとつ。どうしたものか、と思案していると、向かって左側の『のだ屋』に「イケメン」(450円)なるメニューがあることを発見。今のワシは完全なる負け犬。これを食べてさわやかなイケメンになろう! そう考えた。

 運ばれてきたのは、一見すると普通のラーメン。とんこつスープではなく、黄色く澄んだスープで、具はきくらげともやし、そして大量の白ゴマが振りかかっている。よーく見ると、麺にうっすらと焼き色がついている。茹で上がった麺を軽く焼いてからスープに入れているようだ。

 まずは、スープをひと口。魚介系のすっきりした出汁が効いたしょうゆ味だ。続いて、麺をすす......れない(笑)。焼き目がついているのはいいが、焼いた分、麺が少しかたまりになっているのだ。

 スープの中で麺をほぐして、再度口へといざなう。九州の細麺だが、焼き目の香ばしさが薄めのしょうゆスープとピッタリくる。これは、今までにない感覚で、クセになるかも!

 さらに食べ進めると、麺とは別の香ばしさに当たる。その正体は刻んで焦がした味付け肉である。これは箸が止まらない。糖質制限もなんのその。あっという間に完食である。ところで、何で「イケメン」なのだろう?

「おにいさんもイケてるでしょ!」

『のだ屋』のおばちゃんの答えは、意味不明だった......。

 満腹になって、上のフロアに行ってみると、そこで驚くべき光景を目の当たりにした。ここにも、電気コンロで「焼く店」が立ち並んでいたのだ。そのうちのひとつ、『ナガセ商店』のコーン天がとにかく美味しそうに見えた。

 じーっと見ていると、お店のおねえさんが「うちのコーン天は長崎のとうもろこしを使っていて手作りなんですよー」と声をかけてきた。見上げると、超美人のおねえさんが目の前に!

 これは、たとえ満腹であろうとも買わねばなるまい。アツアツのコーン天は、もっちりとした"揚げ"にプチッと弾けるコーンがアクセントとなっている。しかも、コーンの甘みが揚げの塩味と絶妙のバランスでうまい!

「おねえさん、ありがとう!」

 笑顔がまた可愛い♪ ワシの"女神"はここにいたのだ! 超美人のおねえさん"オーラ"に乗って第7レースを買うと、厚めに購入した3連単が見事的中した。

 しかし......である。美人おねえさん効果もむなしく、その後のレースはさっぱり。これまでと同様、ハズレ、トリガミの連続である。

 残されたのは、最終の第11レース。気がつけば、この旅で一番のマイナス状態にある。なんとしても一矢報いねばならぬ。9連勝中で断トツの1番人気候補だった8番コウザンゴールドが出走取り消し。ここは、好配当の匂いがプンプンする。

 穴が開くほど競馬新聞を見て、パドックをじっくりと観察。1番マリーズミイと3番サチノポピーを軸にした3連単勝負と決めた。相手は、2番バトルヴェルデと5番カシノエルフ。カシノエルフの鞍上・石川慎将騎手はマカオで取材した縁がある。

 レースは、マリーズミイが逃げて、サチノポピーがこれに続く展開。「よーし、よーし、そのままでいいぞ!」と、ほくそ笑んでいたら、3コーナーで7番コモドーが急接近。4コーナーではサチノポピーをかわす勢いだ。

「や・め・てぇ〜! そいつだけはこないでぇ〜!」

 絶叫するとともに、ワシは祈りとも呪いともわからない"念"をコースに送り続けた。その全身全霊の"念"が届いたのか、直線に入るとコモドーが後退。サチノポピーがカシノエルフを連れて伸びてくるではないか!

 結果、1着=3番サチノポピー、2着=5番カシノエルフ、3着=1番マリーズミイ。なんとか、今日の負け分の3分2くらいは取り戻した。ありがとう、石川騎手ぅ〜!

 とはいえ、負けは負け。「友の会バス」に乗って佐賀競馬場を後にし、JR「青春18きっぷ」で久留米から熊本に向かった。

 熊本では大規模な祝勝会を開く予定だったが、結局、太平燕(タイピーエン)を食べただけ。何のためにここまで来たのか――復興に何ら貢献できず、ワシは涙で枕をぬらす寂しい夜を過ごした。

(つづく)

土屋真光●旅人 Traveler&text by Tsuchiya Masamitsu