AKB48最新シングル『翼はいらない』での宮崎美穂と大家志津香の選抜は、巨大化し続けるAKB48グループの拡張路線に新たな一手を投じたと感じた。彼女たちは、強烈な個性を持ちながらも、総選挙や選抜から見えるグループ内での人気は高いものではなかった。

AKB48グループに所属しているからには、選抜というポジションは一つの指標になる。しかし、年々新たなメンバーが加入しては超加速的に新陳代謝を行い続けるAKB48グループにおいて、選抜の中心になるのはまさに「選ばれた」超人気メンバー、そして期待の若手が軒並み名を連ねる。もしかしたら、それまでのAKB48グループはそれでよかったのかもしれない。光を浴びるメンバーは全体からおよそ2〜3割と少ない。

さらに近年の選抜は固定化の様相を呈している。残されたメンバーのモチベーションは瞬く間に失われてしまい、それまで原動力であったメンバー間の“競い合い”は失われてしまう。新たなタームを迎え、全員が一丸となり新たな地平へと歩みを進めていく中で、超選抜以外にもスポットが当たらなければ、人気の底上げはもちろん、地力すら弱まっていくだろう。そのタイミングで発表された宮崎と大家の選抜は一筋の光となった。

宮崎、大家の二人は、長きに渡る険しい道を歩み続けてきた。

宮崎は『大声ダイヤモンド』で5期生最初の選抜経験に始まり、『Everydayカチューシャ』まで最前線で活躍。渡辺麻友らと共に次代を担うと言われていた。しかし、突き上げてくる若手の波、自身のコンディションの不安定さ、若さからくるプライドの高さも重なり、栄光の日々から徐々にフェードアウトしていってしまうことに。ただ彼女も20歳を超え、自らのポジションを笑い飛ばせるまでに精神的な成長を果たす。そのことが彼女の背中を大きく押した。持ち味であるトーク力に加え、長年の経験で培われた歌唱力とダンスは新公演がスタートしたチームAにおいて、非常に多くの役割を果たしている。総監督・横山由依の不在時にはチームのまとめ役まで担うまでになった。今や「M.T.に捧ぐ」は宮崎抜きには語れない。

大家はじゃんけん選抜の経験はあるものの、通常選抜経験はここまで一切なかった。その期間、実に8年という月日。ただ、大家はその余りあるバラエティ対応の良さで、与えられた仕事に対してキッチリと結果を残し続けている。彼女を通してAKB48という存在を知った人、興味を持った人も少なくないはず。もしかしたら個人での民放出演も多い大家は、選抜に負けるとも劣らない知名度を獲得しているのではないか。

彼女たちの選抜に関しては、多くのメンバーが祝福のコールを送った。その中には田名部生来、中田ちさとといった長年選抜に選ばれていないメンバーたちの名前が。彼女たちは宮崎と大家の選抜に勇気づけられたと言葉を送った。7期生の鈴木まりやは先日開催された自身の生誕祭において「ボイトレに通ったり、ワークショップに通うようになって、チャンスを自分でつかみとろうとする25歳になろうと思いました」と告白。「(今年)総選挙で1位になりたい」ともぶち上げた。きっと宮崎と大家の選抜に刺激を受けて、彼女も今まで以上に前を向く決心を固めたのだろう。

NMB48小笠原茉由は「いつか私のシングル選抜入りも夢じゃないかも!?」と、HKT48中西智代梨も「ちよりも後追って頑張りたい! 自分のため、そしてなにより応援してくれてるファンの皆さんの為に!」と言葉を残した。悩みを抱える後輩たちにも勇気を与え、奮い立たせたのだ。

『甘噛み姫』で5年半越しで選抜入りを果たしたNMB48の沖田彩華、こちらも『74億分の1の君へ』で4年半かけて初選抜となったHKT48田中菜津美の存在も大きい。それぞれ歩んできたキャリアは違うが、彼女たちは苦節を味わいながらも、自らに課せられた武器や特性を活かして成長を未だに続けている。共通するのは腐らずに着実に一歩を進めることが大切だと身を持って示しているところだ。勢いも大切だが、年を重ね経験も加わることで輝きはじめる人材だっている。それは正当に評価されなければいけない。光を当てることで、活性化するのであれば、グループにとっても良い結果を生むはずだろう。

あくまで彼女たちの選抜は、新たな動きの嚆矢でしかない。だがただ血を入れ替え続けるだけでなく、中を見ることで実は新たな発見があるということを彼女たちの選抜は示している。彼女たちの選抜は、今現在立場に悩む者たち、そしてグループに新たな魅力をもたらす一つの希望となったはずだ。(田口俊輔)

写真(C)AKS、NMB48