“育てる”ためではなく、“葬る”ために赤ちゃんを養子にもらう女性が話題になっています。

ゴミ山に捨てられる赤ちゃんが絶えなかったチリ

チリに住むベルナルダ・ガヤルドさん。彼女は、養子を迎えようかと考えていた12年前に、親に殺された赤ちゃんがゴミ山に捨てられたという新聞記事を読んだことがきっかけで、捨てられる赤ちゃんのために何かしようと決心しました。

チリの法律では、赤ちゃんは家族の主張が特にない限り“排泄物”として分類され、他のゴミと同様に処分できることになっていました。彼女はまず、この法律を変えるために動き出します。

長い年月をかけ、亡くなった赤ちゃんを養子とすることができた

ベルナルダさんは、「オーロラ」と名付けた、亡くなった1人の赤ちゃんを養子にするために、医師や裁判官とも長いやり取りや手続きを踏んでいきました。彼女の行動は誰もしたことがなかったため、当初は様々なところから懐疑的な態度を取られてしまいましたが、最終的には信頼を得、チリではもちろん、おそらく世界的にも史上初めて、“生きていない”赤ちゃんを養子にすることに成功したのです。

オーロラの葬儀には、ベルナルダさんのことを新聞で知った500人ほどのメディア関連や地元の人がつめかけました。葬儀を振り返り、ベルナルダさんは「まるでオーロラをお祝いする誕生日会のようだった」と語りました。

そしてその後、彼女は3人の亡くなった赤ちゃんを養子にしてオーロラと同じように葬儀を行いました。

赤ちゃんを捨てる背景には、孤独なレイプ被害女性が多くいる問題

そしてしばらくしてベルナルダさんは、レイプや近親相姦などで望まない妊娠をしたり、妊娠しても金銭的余裕がなかったりする女性たちが出産後、子どもを捨てざるを得ないという社会問題が根強くあることに気付きました。チリ政府は公式に、毎年10名ほどの捨てられた赤ちゃんが見つかったと発表していますが、実際にはそれよりもとてつもなく多くの数がいると言われています。

自身もレイプ被害者であったベルナルダさんは、自分は周りの友人たちの支えがあったから良かったものの、孤独なレイプ被害女性が誰にも言えずに出産をし、育てられずに子供を見捨ててしまう気持ちには共感してしまうのだと言います。

彼女の感動的な話は映画にもなった

しかしどんな理由にせよ、赤ちゃんは捨てられてはいけないと考える彼女は「Don’t throw your babies in the rubbish.(ゴミ山の中に赤ちゃんを捨てないで)」と書かれたポスターを街の壁に貼るなど、赤ちゃんの不憫な死に対して戦い続けています。そして、彼女の活動に感化されたチリの映画監督によって『オーロラ』とタイトルがついた映画も製作され、世界中の映画祭で上映されているとのことです。

この捨てられる赤ちゃんの問題は、国の法律、治安、貧困など様々な側面を持っているので簡単には現状を変えられないと、当初ベルナルダさんは思ったことでしょう。しかし、強く信念を持って行動することで、同じくらいの強い説得力を持って、多くの人の心を動かします。私たちはベルナルダさんから、赤ちゃんを想う慈悲の心だけでなく、勇気や共感する心、信念をもった行動など多くのことを学ぶことができるでしょう。

参考記事:Oddity Central

(石狩ジュンコ)