「造る酒は、ひとつ。」創業161年の小さな酒蔵が、食べる米で挑む祝い酒
全銘柄をやめ、年間1万本の「寿」に力を注ぐ。
食用米「にこまる」を40%まで磨く。
「最高の一本を極めたい」と決めた経営者と、「不安しかない」と語った杜氏の挑戦
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語り:株式会社弥栄酒造 代表取締役 山田栄治
「不安しかない」から始まった酒
「食べる米を40%まで磨いて、大吟醸を造りたい」
そう伝えたとき、杜氏の渡辺秀幸さんは、少し間を置いてこう言いました。
「不安しかない」
率直な答えでした。そして、こう続けてくれました。
「でも、やりましょう!」
弥栄酒造は、愛知県愛西市にある創業161年の小さな酒蔵です。私は2025年にこの蔵を事業承継しました。
いま私たちが造る酒は、「弥栄の酒 寿」ただ一つです。
年間製造本数は1万本。
山田錦と食用米「にこまる」、どちらも精米歩合40%の純米大吟醸で、一つの銘柄を二つの米で醸しています。
目指しているのは、人生の大切な日に寄り添う「祝い酒」です。
そして、にこまる仕込みには、もう一つの願いを込めています。
食べる米に、飲む価値を
日本人の主食である米を、これからもつくり続けられるように。
一本の酒から、食べる米の新しい届け先をつくろうとしています。
自動車会社の経営者が、なぜ酒蔵を継いだのか
私は酒蔵の家に生まれたわけではありません。以前は、自動車の販売・整備会社を経営していました。
次の事業を考えたとき、強く思っていたのは「自分がメーカーになりたい」ということでした。自分たちで商品を生み出し、その価値に責任を持って、世の中へ届ける仕事がしたかったのです。
食について深く考えるようになったきっかけの一つには、妻の病気がありました。
毎日口にするものと健康のつながりを、自分の暮らしの問題として考えるようになりました。
その「食」を支えている日本の農業に目を向けたとき、危機感を持ちました。どれだけ良いものをつくっても、仕事として利益が残らなければ続けられない。次の世代も、その仕事に将来を描けない。
農林水産省の「2025年農林業センサス」によると、全国の農業経営体は83万6千。
2020年からの5年間で22.3%減っています。
中でも、主食である米は、何としても次の世代につないでいきたいと思いました。
もう一つ、心にあった問いがあります。後継者不足で廃業する酒蔵がある中で、日本の伝統産業を、これから誰が引き継いでいくのか。
2024年には「伝統的酒造り」がユネスコ無形文化遺産にも登録されました。
誰かが残してくれるのを待つのではなく、それなら自分が担い手の一人になろう、と思いました。
・ メーカーになりたいという思い。
・ 食と健康への関心。
・ 主食の米を守りたいという思い。
・ 伝統産業を次につなぎたいという思い。
それまで別々だったものが、「酒蔵」という仕事で一つにつながりました。
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豊作でも、喜べないことがある
にこまるを育てていただいているのは、三重県松阪市の東海農産の藪谷さんです。
その藪谷さんとの話の中で、心に残った言葉があります。
米がたくさん採れても、価格が下がってしまうことがある。
本来なら、豊作は喜ばしいはずです。
一年かけて育てた米が、たくさん実る...それなのに、心から喜べないことがある。
それなら、豊作のときにも、育てた米を届け続けられる先をつくれないだろうか?
高級な日本酒には、山田錦のような酒造りのための米が広く使われています。
それでも私は、食べておいしい米なら、飲んでもおいしい酒になるのではないかと考えました。その酒が選ばれ続ければ、生産者にとって、新しい米の届け先の一つになるかもしれない。
そこで選んだのが、にこまるでした。
食べる米を、40%まで磨く
「寿」として出す以上、妥協はしたくありませんでした。
一般に、酒米は粒が大きく、中心に「心白」と呼ばれる部分を持ち、深く磨いても砕けにくいとされます。食べるための米は、そうはつくられていません。
その米を、60%削って40%まで磨き、目指す酒に仕上げる...渡辺さんの「不安しかない」は、その挑戦を引き受ける杜氏の率直な言葉でした。
実際の仕込みでは、麹や醪の温度管理、米の吸水時間を、原料の状態を見ながら一つずつ調整する必要がありました。最初の仕込みでは、麹の温度の上がり方が想定より遅く、温度設定を見直す場面もありました。
「こんな酒を造りたい」と言うだけなら、経営者は簡単ですが、それを本当に一本の酒にするのは、杜氏です。
生産者が米を育て、杜氏がその米と向き合い、私がその価値を届ける。違う役割を持つ人が力を持ち寄って、はじめて一本の「寿」になります。
こうして生まれたにこまる仕込みは、澄んだ酒になりました。
グラスを口元に近づけると、まず華やかな香りが立ちのぼります。口に含むと、果実を思わせる味わいが広がり、それでいて甘さが後に残りすぎない。雑味が少なく、すっと喉を通っていく。飲み終えたあとに、もう一口と手が伸びる酒です。
試飲していただいた、普段あまり日本酒を飲まないという女性のお客様が、
「フルーティーで、とても飲みやすい」
と何度も口にされていたのが忘れられません。日本酒に苦手意識のある方にも、手に取っていただきたいと思いました。
料理と合わせる楽しさもあります。
大吟醸というと、繊細な料理に合わせるものと思われがちですが、私が特に相性を感じたのは、お肉やうなぎ、まぐろなど、旨みのしっかりした料理でした。
脂の旨みを受け止めながら、後味はすっきりと整う。
祝いの席で、料理とともに楽しんでいただきたい一本です。
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全銘柄をやめ、販路も手放した
蔵を継いだあと、私はそれまで造られていた複数の銘柄をやめました。
理由は、弥栄酒造が小さな蔵だからです。人も、設備も、時間も、資金も限られている。その力をいくつもの酒に分けるのではなく、一つにすべて注ぎたい。
そして何より、どうせ造るなら、日本を代表する名だたる蔵や酒にも負けない、本当に最高だと思える一本を本気で目指したかった。大切な人の、大切な日に選んでいただく酒が、中途半端であってはいけないと思いました。
小さな蔵だから、たくさん造れない。
それなら・・・
一つだけを造り、その一つを極めればいい。
同じ理由で、売り方も変えました。
目指したのは、日本で一番、祝いの場にふさわしいと思っていただける酒です。
そのためには、酒そのものの品質を磨くとともに、大切な人へ安心して贈れる信頼と、祝いの席に選びたくなるブランドを育てる必要があると考えました。
それまでの蔵は、地元のスーパーや酒販店を通じて、日々の暮らしで親しまれる手頃な価格の酒を届けてきました。その歩みを支えてくださったお客様や取引先への感謝があります。
一方で、高級酒の蔵としてのイメージは、全くありませんでした。
「寿」に込めた品質へのこだわりや、祝い酒としての価値をどう届けるか。商品とともに、その伝え方や販売の場も、一から築く必要があると判断しました。
従来の販売取引をすべて終了し、新しい販路を開拓する。
蔵のこれからを「寿」に託す、大きな決断でした。
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5回通っても、置いてもらえない
新規開拓は簡単ではありませんでした。
いまは飲食店、ホテル、百貨店と、一件ずつ新しい出会いをつくっています。ある飲食店には、客として5回ほど食事に伺いました。それでも、まだ取り扱っていただけていません。
知名度のない酒蔵が、1本11,000円の日本酒を届ける。良い酒を造れば売れる、というほど簡単な世界ではありませんでした。
だから私は、自分で一件ずつ伺いその店の料理をいただき、何を大切にしている店なのかを知る。そのうえで、なぜ一つの酒しか造らないのか、なぜ食べる米で酒を造ったのか、誰が米を育て、誰が醸しているのかを伝えています。
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髙島屋で36本。ケアンズで1点差
少しずつですが、届き始めています。
2026年9月2日から7日まで開かれた大阪髙島屋「日本酒祭」では、にこまる仕込みを初めて店頭でご紹介し、6日間で山田錦含め36本をお求めいただきました。日本酒に詳しい方だけでなく、初めて日本酒を選ぶという方にも手に取っていただけたことが、何よりうれしい出来事でした。
2026年8月には、オーストラリアで開かれた「Cairns Sake Award 2026」で、にこまる仕込みが第2位・シルバーメダルをいただき、1位との差は1点でした。
大きな励みです。ただ、賞をいただいたから最高の酒ができた、とは考えていません。飲んでくださった方が、次の大切な日に「また寿にしよう」と思ってくださること。その積み重ねの先にしか、私たちの目指す一本はないと思っています。
にこまる仕込みは、2026年9月8日から公式オンラインショップで一般販売を始めました。
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この冬、答えを出す
この冬、「寿」の仕込みは大きく変わります。
山田錦とにこまるを、5,000本ずつ。どちらも精米歩合35%まで磨きます。
40%でも「不安しかない」と言われた米を、さらに磨く。今年も米と向き合う仕込みになります。
目指すのは、原料米の違いによる品質の差をなくし、どちらの米でも、私たちが理想とする「寿」の味わいを実現することです。
山田錦は「酒米の王様」と呼ばれる米です。その山田錦と肩を並べる品質を、食べる米でも実現できる。この冬、一本の酒でそれを示したいと思っています。
そして来年からは、「寿」の仕込みをにこまる一本にする予定です。
年間1万本では、日本の米は守れない
ここに、一つの矛盾があります。
食べる米の新しい需要をつくりたいと言いながら、私たちが一年に造る酒は1万本です。一つの小さな酒蔵が使える米の量には、限りがあります。
年間1万本の私たちだけでは、日本の米は守れません。
だから、「寿」だけが成功すればいいとは考えていません。同じ可能性を感じる酒蔵と手をつなぎ、それぞれの地域の食べる米から、価値ある高級日本酒が生まれる流れをつくりたいのです。食べる米でも山田錦に並ぶ酒が造れると示せれば、それはほかの酒蔵にとっても、食べる米を選ぶ理由になるはずです。
多くの酒蔵が食用米を使い、その酒が選ばれ続ければ、食べる米に継続的な需要が生まれます。その需要が、農家の利益が残る取引につながれば、収入を支え、次の年も米をつくり続ける力になるはずです。
農家が安心して米をつくり続けられることは、日本人の主食を、将来にわたって安定して確保する土台にもなる。私は、そこまでつながる仕事にしたいと考えています。
生産者が米づくりを続けられ、酒蔵が事業を続けられ、飲む人がおいしさに納得して選べる。近江商人の「三方よし」のような関係を、この三者の間につくることが目標です。
まだ構想の途中ですが、だからこそまず私たち自身が「寿」を事業として成り立たせなければなりません。一つの酒をきちんと造り、きちんと届け、次の仕込みにつなげる。そこから始めています。
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百年先の子どもたちにも
日本が好きです。
その気持ちを、言葉だけでなく、自分が担う仕事として次の世代に残したいと思っています。春に田を耕し、秋の実りに感謝する。「ありがとう」と伝え、「おかげさまで」と頭を下げる。名前も残っていない先人たちがつないできたものの上に、いまの私たちがいます。
日本酒も、その一つです。
米、水、麹、酵母。生産者、杜氏、蔵人、売り手、飲んでくださる人、誰か一人では完成せず、それぞれが持ち味を出し合って一つになる。
私にとって日本酒は、日本人が大切にしてきた「和」を一杯に表したような酒です。
弥栄酒造の社の歌「日本よ、弥栄」には、こんな一節があります。
百年先の子どもたちにも
この日本がありますように
⇩企業BGM動画はこちら⇩
米を育てる人がいて、その米を酒にする杜氏がいて、その酒を囲んで大切な人の節目を祝う人がいる。そんな日本の風景を、百年先にも残したい。
造る酒を一つに絞ったからこそ、今年より来年、来年よりその先へと、持てる力をすべて注いで磨き続ける。同じ一本と、何年も、何十年も向き合っていきます。
「祝いの席は、寿で乾杯。」
いつか自然にそう言っていただける酒になるまで。
・ 造る酒は、ひとつ。
・ 食べる米に、飲む価値を。
創業161年の小さな酒蔵から、一本ずつ届けていきます。
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「弥栄の酒 寿」について
株式会社弥栄酒造が造る純米大吟醸。造る銘柄は「寿」一つ、年間製造本数は1万本。
現在販売している商品の原料米は山田錦と食用米「にこまる」の二種類で、いずれも精米歩合40%。人生の節目や祝いの席で選ばれる祝い酒を目指しています。
にこまる仕込み:720ml・11,000円(税込)、公式オンラインショップにて販売中
関連情報
にこまる仕込みの一般販売、Cairns Sake Award 2026での受賞については、同日配信のプレスリリースをご覧ください。
【弥栄酒造 公式オンラインショップ https://sake-kotobuki.com( https://sake-kotobuki.com/ )
】株式会社弥栄酒造
愛知県愛西市草平町道下83
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株式会社弥栄酒造(旧渡辺酒造)では、食用米を活用した日本酒造りと農業との共生モデル等について、メディア関係者様からの取材・掲載を歓迎しております。
蔵元見学・代表インタビュー・商品撮影に加え、「にこまる」を育てる契約農家への取材も、農家様の協力のもとコーディネート可能です。
田んぼから酒瓶までの一貫したストーリーを、現場でお伝えします。
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