「1度は見てみたい」真中監督の思いで実現した奥村の1軍合流

 衝撃を与えるには十分過ぎる一打だった。3月18日の阪神との練習試合(神宮)。2点リードの7回無死3塁で打席に入ったのは、巨人にFA移籍した相川の人的補償としてヤクルトに加入した奥村展征だった。

 マウンドには阪神の最速153キロ右腕・松田遼馬。

「真っすぐが速くて、自信を持って投げてきていたので、とにかく合わせるので精いっぱいでした。でも最後は、その真っすぐをとらえられたので良かったです」

 フルカウントからファウルで2球粘った後の8球目。143キロの直球を振り抜くと、鋭い打球は右翼線を抜けていった。2塁に到達した19歳は、まだ幼さを残す顔を崩して、白い歯を見せた。

 奥村のための“品評会”だった。春季キャンプから2軍で研鑽を積み、17日の古巣・巨人との練習試合(神宮)から1軍に合流した。だが、実力を評価されてということではなく、真中監督の「自分の目で1度は見てみたい」という思いから実現したもの。試合後には、1軍首脳陣と2軍首脳陣で今後の育成方針を決める「育成会議」が予定されていたこともあり、それに合わせて昇格した形だった。

打撃だけでなく守備にも高評価、「今後も楽しみに見ていきたい選手」と指揮官

 17、18日の2日間、初めて生で奥村を見た指揮官は打撃力に可能性を感じたようだ。「自分のスイングができている。きれいなスイングだよね。球が速い投手への対応力もあるし、おもしろいものを見せてくれた。開幕は難しいかもしれないけど、今後も楽しみに見ていきたい選手」と評価を上方修正した。

 これまで青木宣親(現ジャイアンツ)を指導してきた杉村チーフ打撃コーチも「打球の軌道、質がいい。広角に打てるスイングの軌道をしている。打撃に対する考え方もしっかりしている」と称賛。自らティー上げを買って出るなど、直接指導した。

 売りである打撃力だけではなく、守備力でも高評価を得た。古巣・巨人との試合では、6回から二塁で途中出場。7回無死満塁では、前進守備で金城の正面のセカンドゴロを捕球し、素早くホームへ。冷静に封殺した。

 一見、普通のプレーだが、三木作戦担当兼内野守備走塁コーチは「当たり前のように見えるけど、19歳であれだけ落ち着いてできるのは大したもの。送球も安定しているしね」と好印象を抱いたようだ。

将来は山田と二遊間も、「チームとしてはショートやサードでやってくれるのがいい」

 本人が今年のキャンプで重点的に取り組んできたのが、この守備の部分。昨年の巨人では、主に二塁手としてイースタン・リーグ86試合に出場。だが10失策を記録するなど、守備力を上げる必要性を痛感していた。そこで、今キャンプでは水谷2軍内野守備走塁コーチから徹底的にノックを受け、捕球から送球まで鍛え直した。

「本当に付きっきりでやってもらいました。課題だった守備にも自信がつきました」

 とはいえ、1軍で定位置をつかむには高過ぎる壁がある。本人が1番やりやすいと感じているセカンドには、絶対的なレギュラー・山田哲人がいる。年齢もまだ22歳。今後10年は君臨するはずだ。

 三木コーチは「哲人がいる以上、チームとしてはショートやサードでやってくれるのがいい。今後はファームでもそういう起用が増えていくと思う」と育成方針を示す。日大山形高では遊撃を本職としていた奥村自身も、その点は自覚している。

「セカンドだけでなく、ショートやサードなど、どこでも守れるようにしないといけない。1軍で出るには必要なことだと思っています」

 今季の目標には「1軍初安打」を掲げている。首脳陣が口をそろえて「本当に楽しみな選手」と評価する男なら、その日は必ずやってくるだろう。そして近い将来、山田と二遊間を組む日も訪れるかもしれない。