短焦点プロジェクタで4Kは必然/純丘曜彰 教授博士
/たしかに液晶モニタやシネコンのスクリーンではHD=2Kもあれば十分。ところが、短焦点プロジェクタの劇的な登場で80インチ以上が当たり前になりつつあり、それとともに4K移行は確実だ。/

 ハイビジョンの次は4Kか、売れねぇよ、なんて言っているやつも少なくないが、短焦点プロジェクタの登場とともに、遠からず世界中のモニタが、すべて4K、HDの4倍、3840x2160(4096x2160)で統一されることになる。

 HD=2Kというのは、もともと35ミリのフィルムの画質相当。ところが、ブロックバスターと呼ばれるようなスペクタクル映画の名作大作は、昔から大劇場の巨大スクリーンでのロードショー用に、倍の70ミリのフィルムを使っている場合が少なくない。この意味で、作品は、4Kで撮影、保管しておきたい、というプロのニーズがあった。同様に、顧客側にも、マスターの70ミリ相当の高画質で見たい、というマニアのニーズがあった。

 しかし、テレビの場合、42型で、画面幅は930ミリ。これに1980画素なので、1画素0.5ミリ未満。ふつうのリビングルームの環境で、数メートル離れて0.5ミリ未満を、それも動画で認識できるほどの異常に鋭い動態視力を持つ人は、まず存在しない。その後、さらに大型のテレビも登場してきているが、そもそも、そういうものを置ける家庭は限られている。2006年以降のシネコンのデジタルプロジェクタなども、じつは2K(2048x1080、テレビのHDよりわずかに横長)しかない。いくらスクリーンが大きくても、そこから十メートル以上も離れてしまえば、リビングルームの視野角と大差ないからだ。これらの意味では、どう考えても、HD=2Kで十分。

 ところが、近年、短焦点プロジェクタの開発が急激に進展してきている。これは、従来のプロジェクタと違い、壁から十センチちょっと手前の足下に置くだけで80インチ(幅1800ミリ=1間)以上の画面を投影する。観客より壁寄りなので、従来のプロジェクタのように観客の陰が画面に映り込むことも無い。天井を加工して重いプロジェクタを吊す必要も無い。そもそもプロジェクタは、カメラの逆、光源にレンズだけのしろもので、液晶パネルのような物理的に巨大な「もの」は皆無。部品自体も少ないので欠陥も少なく、製造コスト、販売コストは、液晶と較べるまでもないほど、将来的に削り込んでいける。そして、この4K版が、今年度中に各社から次々と発売されてくる。ビジネス用から家庭用まで、さらには、屋外や地下道の広告まで、世界中のテレビやモニタ、ポスター等々は、ほんの数年で、劇的に短焦点プロジェクタに置き換わっていく。

 テレビや映画は、世界の窓。ブラウン管は、占い師の水晶玉のようだった。それが、液晶で額縁化。いまやプロジェクタで、まさに壁の窓、そのカーテンのようなものになる。大きさも、ふつうの窓と同じ1間幅。ただ、こうなると、HD=2Kでは画素の大きさが1ミリにもなり、ひとつひとつのドットが目視できるほどになってしまう。これを0.5ミリ未満にするには、どうしても4Kが必要になる。

 問題は、家やオフィスの作りがいまだに大型液晶モニタを置くことを前提とした作りになっていること。ちょっと前の馬鹿でかいCRTを置くパソコンデスクのようだ。短焦点プロジェクタで必要なのは、床から天井までなにも無い、ただ広く白い壁。これから家やオフィスを作るなら、1間幅以上の継ぎ目のない白い壁をリビングや会議室に作っておいた方がいい。

 4Kを液晶モニタの拡大としか思えない連中には、その必要性の意味がわかるまい。だが、短焦点プロジェクタと組み合わせたとき、4K移行は、もはや必然だ。(ついでに言っておけば、馬鹿でかい4K液晶テレビなんか、来年には粗大ゴミになる。そんな予算があるなら、もうすぐ出る4K短焦点プロジェクタを待ったほうがいい。)

by Univ.-Prof.Dr. Teruaki Georges Sumioka 純丘曜彰教授博士
(大阪芸術大学芸術学部哲学教授、東京大学卒、文学修士(東京大学)、美術博士(東京藝術大学)、元テレビ朝日報道局『朝まで生テレビ!』ブレイン。専門は哲学、メディア文化論。)