【メディアの声】頼りがいがある広報担当者とは?(東京IT新聞)/小槻 博文
今回はITに特化したオフィス配送のタブロイド紙「東京IT新聞」編集長の西村健太郎氏に、媒体の特徴はもちろんのこと、ベンチャー企業の広報・PR活動に対する意見などさまざまな話を伺った。(本文中のコメントは全て西村氏によるもの)

 広報・PR情報サイト「広報スタートアップのススメ」 http://www.pr-startup.com/

「受信料のいらないIT界のNHK」を目指して

創刊された2006年当時は「R25」を筆頭にフリーペーパーが全盛期だったが、IT系のフリーペーパーは皆無だったため、ならば自分たちでつくろうと創刊されたのが「東京IT新聞」だった。



しかし実際に運用してみると紙媒体は非常にコストがかかるため、元々はメディアネットというベンチャー企業が立ち上げた媒体だったが、その後ネットエイジを経て、2009年にインプレスグループに移管されて現在に至ることになる。

それでも創刊以来紙媒体を貫く同紙だが、改めて「紙媒体」へのこだわりについて西村氏は次のように語る。

「まず東京IT新聞は個人購読ではなく法人購読ですので、企業内で回覧しやすい点が挙げられます。したがって発行部数は約40,000部ですが、実際の購読者はそれ以上になります。」

「また最近はWEBメディアやニュースアプリが台頭してきていますが、これらは気を抜くと際限なく時間を費やしてしまいがちですが、紙媒体の場合は読み終わったらおしまいですので、忙しいビジネスパーソンが効率的に情報収集するのに向いていると思います。」

「更にWEBの場合、書く側もついつい長い文章を書いてしまいがちですが、新聞の場合は文字数が限られますので短い文章で端的に伝えるのに適していると考えています。」

そして記事内容については、いかに難しいITの話を誰が読んでも理解できるように伝えられるか、その点にこだわって編集しているという。

「新聞名で“IT”と謳っていますが、私たちはいわゆる“ICT(情報通信技術)”ではなく“Internet(インターネット)&Technology(技術)”と捉えています。したがってインターネットに関わる各種情報を対象としていますので、必然とベンチャー企業を取り上げることが多くなっています。とは言え読者層はベンチャー企業だけでなく、非IT企業の方がIT入門編として購読されるケースも最近は増えてきています。特に30〜40代の方々が最近のIT動向をキャッチするために読まれるケースが多いですね。」

「したがって“受信料のいらないIT界のNHKになる”ことを標榜しています。NHKは客観的・公平性を保つことはもちろん、何より万人を対象としているので、誰が観ても理解できるように番組をつくられています。どうしてもITの話は難しくなってしまいがちですが、難しい話を難しく書くことは誰にでも出来ます。また専門的な内容を取り扱う媒体は既に存在しますので、私たちはそうではなく、いかに難しいITの話を誰が読んでも理解できるように伝えられるか、その点にこだわって編集しています。」



広報・PR担当者はもっとレベルアップを!

そのようななかで最近のベンチャー動向について、西村氏は期待と危惧を次のように語る。

「スマートフォン・タブレットなどの普及やベンチャーキャピタルの積極支援もあり、起業するハードルが下がり、ベンチャー企業がこの数年でかなり増えています。とは言え成功しているのは一握りであり、大半は失敗してしまい以前の取材先がもうなくなってしまったなんてこともよくあります。起業のハードルが下がったことは、本当に力がある人間にとっては良いことですが、そうではない人たちまでもが安易に起業出来てしまう実情には正直危うさを感じています。」

そして同様にベンチャー企業の広報・PR活動や広報担当者についても、まだまだレベルアップの余地があると語調を強める。

「プレスリリース配信サービスの台頭などにより、簡単にプレスリリースを送ることが出来るようになりましたので、大手企業だけでなくベンチャー企業でも情報発信に力を入れる企業が増えてきました。特に成長段階に入ったベンチャー企業は広報・PR活動を積極的に行っている印象を受けます。」

「しかし広報・PR活動を積極的に行うこと自体は歓迎ですが、一方でプレスリリースに値しない情報までも闇雲に送付してくる企業も多く見受けられます。多い時ですとわずか10分で数十件もプレスリリースが届くこともありますが、本当に重要なプレスリリースやメールを見落としてしまうことになりかねないため、『果たしてこの情報はメディア、そして読者にとって意味があるのか?』ときちんと精査していただきたいですね。」

「記者としては『この人に聞けば何でも分かる』のが理想の広報担当者ですが、正直“頼りない”担当者が最近は多いですね。広報担当者は単なる調整窓口ではなく、企業のスポークスパーソンですから、経営者と同等かそれ以上にその企業のことをわかっている人材が担当しないといけないと思います。しかし最近は入社したての社員を広報担当にされるケースもありますが、会社のことも広報のことも何もわからないでは正直困りますので、ある程度企業内で色々な経験をした人材を広報担当者にされるのが良いと思います。」

紙媒体とWEBの在り方を模索

「紙とWEBの連携」は長年言われているテーマだが、まだ成功している事例はほとんどないのが実情だ。そのようななかで「東京IT新聞」では、WEBサイトにまず記事をアップして、その内容を紙媒体向けに再編集するという形を現在は採っているが、引き続き紙媒体とWEBサイトの在り方を模索していきたいと西村氏は言う。



一方で西村氏は、「「連携」ではなく「分離」するのも一つかもしれない」という。紙で読みたい人、WEBで読みたい人、さらには動画で観たい人、リアルの場で聴講したい人など一人ひとり趣向が異なるので、どんな形にも対応できるメディアにするのが、ユーザーにとっては一番望ましいというのが西村氏の考えだ。

「『誰にでもわかりやすく』をキーワードに試行錯誤を続け、そして“IT界のNHK”のポジショニングを図っていきたい」と最後に力強く抱負を語った。