『映画クレヨンしんちゃん ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん』
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(C)臼井儀人/双葉社・シンエイ・テレビ朝日・ADK 2014

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現在大ヒット上映中の劇場版『クレヨンしんちゃん』第22作、『映画クレヨンしんちゃん ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん』。

“嵐を呼ぶ5歳児”しんのすけの父ちゃん・ひろしがロボットになってしまうという意外性のある物語と激しいアクション、そして感動のラストが大きな話題を呼んでいる。

今回長編初監督となる高橋渉監督に、『ロボとーちゃん』についてネタバレ覚悟で突っ込んだ質問をぶつけてみた。
前編はこちら

高橋監督の師匠は水島努監督!

───ここで高橋監督のこれまでのお仕事と『クレヨンしんちゃん』との関わりをを教えていただきますでしょうか?

高橋 シンエイ動画に入社したのが、『映画クレヨンしんちゃん 電撃!ブタのヒヅメ大作戦』(98年)を制作している頃だったので、もう17年ぐらい前ですね。特に「アニメが大好き!」という感じではなかったのですが、就職口がなくて当時通っていた日本映画専門学校の講師の先生に紹介していただいたのがシンエイ動画だったんです。入社面接のときに「何がやりたいんだ?」と聞かれて、「『ドラえもん』がやりたいです!」と答えたのですが、『しんちゃん』の現場に回されました。『ドラえもん』をやって親に自慢しようと思ったんですけどね(笑)。

───その頃の『しんちゃん』の現場は、テレビと映画で分かれていたんですか?

高橋 今は多少分かれていますが、当時はほとんど一緒でした。監督の原恵一さんもテレビシリーズをやりながら劇場版もされていたので。テレビ制作班も劇場班が切羽詰ってきたら「一緒にやるぞ!」って感じでワーッと仕上げていましたから。『ドラえもん』班が手伝いに来るときもありました。制作全体がどこか大変なところに集まって、「みんなで頑張るぞ!」という感じでしたね。

───その後、『しんちゃん』には10年ぐらいかかわったことになるのでしょうか?

高橋 そうですね。制作進行をやりながら「演出をやりたいなぁ」というアピールというかオーラをチラチラと出し続けまして(笑)。それで『栄光のヤキニクロード』(03年)のとき、水島(努)さんに演出助手として引っ張ってもらったんです。でも、当時は何も知らなくて、水島さんのやっていることを後ろから見ているだけでしたね。

───おお、では高橋監督の師匠は『ガールズ&パンツァー』の水島努監督なんですね。

高橋 はい。でも、水島さんが退社してしまいまして、私の後ろ盾がいなくなってしまったんです(笑)。宙ぶらりんの状態のところ、『あたしンち』のやすみ哲夫監督に拾っていただきまして、7〜8年ぐらい絵コンテや演出をやっていました。そこでメキメキと頭角を現しまして(笑)。演出助手として『しんちゃん』に戻ってきました。しぎのあきら監督の『オタケベ!カスカベ野生王国』(09年)の頃です。

───凱旋じゃないですか!

高橋 「成長したオレを見てくれ!」と故郷に錦を飾ろうと思ったんですが、あまり上手くいかなくて……。しぎのさんには怒られっぱなしでした(笑)。

───とはいえ、復帰後は劇場版『しんちゃん』で絵コンテをたくさん担当されていますよね?

高橋 劇場版は時間的な制約がけっこう大きいので、軽めのお手伝いを何本かさせていただきました。

───『しんちゃん』ファンにとっては、高橋監督の名前は劇場版のクレジットで何度も目にしていまして、今回は初監督ということで、「いよいよ満を持しての登板か!」という気持ちになっていたんです。

高橋 いえいえ……。やっぱり、みなさん映画はやりたいはずなんです。その中で比較的若めの僕に振っていただいたのは嬉しかったというか、ちょっと申し訳ないという気持ちもありまして……。

───なんて謙虚な! でも、監督が決まったときはガッツポーズでしたよね?

高橋 ま、まぁ、そろそろかな……なんて(笑)。演出になったときと同じで、「監督、やりたいなぁ……」というサインをチラチラと送っていましたから。

吉田有希プロデューサー でも、渉さんに監督をお願いすることは『野生王国』の頃からずっと考えていましたから。でも、なかなかタイミングがね。

高橋 その当時、監督をやっていたらダメだったかも(笑)。それから4作ほどお手伝いさせていただいて、劇場版のリズム、呼吸みたいなものが掴めていたので、今回の監督のタイミングは自分的にちょうどよかったな、と思ってます。

初めて明かされる、あのロボット登場の秘密!

───では、『ロボとーちゃん』の話題に戻ります。今回はひろしの物語であると同時に、ひろしとみさえの物語でもありましたね。

高橋 ヒーローがロボとーちゃんだとすると、今回のヒロインはみさえですね。段々原ちゃんもいますけど、僕の中ではみさえがヒロインです。

───観た人からは、みさえが可愛い! というリアクションもありました。

高橋 意外ですね……いやいや、狙い通りです(笑)。家族のお話なので、みさえの女性らしさ、可愛らしさは出してやろうと思ってました。

───ロボットになった夫と妻の話といえば、『ロボコップ』(87年)を思い出します。あれも夫婦の話でしたね。ロボとーちゃんが目覚めたとき、主観映像でみさえやしんのすけを見るシーンも『ロボコップ』を彷彿とさせましたが(笑)。

高橋 『ロボコップ』は大好きな映画です! 夫婦の話は新しいバージョンのほうが顕著でしたね。主観映像はやろうと思っていました(笑)。定番の演出なんですが、ロボットが最初に目覚めたときだけでなく、最後のシーンも主観の映像なんです。そこはうまくいったかなと思います。

【ここからはちょっとネタバレです】

───ひろしとロボとーちゃんは別の存在なのですが、監督の中での描き分けはあったのでしょうか? 

高橋 ロボとーちゃんを描くときは、絶対にひろしと同じように描こうと思っていました。見た目と能力が違うだけで、あとはまったくひろしと同じようにやろうと思ったんです。(ひろし役の声優の)藤原(啓治)さんにもそのことはお伝えしました。最初の頃は、ロボットに心がない状態で野原家にやってくるというストーリーで進んでいたんです。ただ、それは自分の中であまりしっくり来なかった。本当のひろしのように描かないと、お客さんもロボとーちゃんに気持ちを持っていってもらえないだろうと思っていました。

───ロボとーちゃんに感情移入させるための演出でもあったわけですね。

高橋 小さい子には辛いお話だったかもしれませんが……。でも、一番描きたかったのは、そこだったんです。ひろしとロボとーちゃんの2人が同時に存在することはできないだろう、と。このお話でいうと、ロボとーちゃんのほうが消えざるを得なくなる。そうなると必然的にロボとーちゃんの話になるわけですから、前半では家族とのドタバタしたやり取りをなるべく丁寧に描きました。

───もう一つ、五木ひろしロボについてお聞きしたいのですが(笑)。

高橋 あははは。

───僕、中島さんのシナリオを事前にいただいていたんですよ。中島さんの脚本には五木ロボは登場しないんですよね。

高橋 ぜんぜん違うじゃないか、と思ったでしょう(笑)。実は今回、毎年恒例になっているゲストがなかなか決まらなかったんですよ。あるとき、スタジオの喫煙所で原画さんと立ち話をしていて「今回はロボットものなんですよ」なんて話をしたら、「五木ロボは出るの?」と言われたんですよ。「いや、コロッケさんは去年もゲスト出演されているから難しいのでは」と答えたんですけど。

───えっ。その原画の方はいきなり「五木ロボ」と言ったんですか?

高橋 そうなんです。完全に冗談だったと思うんですけど、その会話がずっと頭に残ってまして(笑)。もちろん、コロッケさんは僕の子どもの頃からのヒーローですし、こんな役でも出ていただけるのならと思いましてオファーさせていただきました。最初は頑馬博士が作った小さなモノマネロボットぐらいの存在として考えていたのが、俺のヒーローのコロッケさんをそんな小さい扱いにしていいのか! という思いがありまして(笑)。

───そんなにヒーローだったんですか?(笑)

高橋 はい(笑)。それに五木ロボットが最後の敵になる映画なんて『しんちゃん』じゃないとできないと思ったんですね。当初の中島さんのシナリオは本当に熱くて、あの展開でもまったく問題ないというか、シナリオとしては絶対にそっちのほうが正解だと思うんです。でも、他のアニメじゃ絶対に巨大な五木ロボが襲ってくる話なんてできないな、『しんちゃん』じゃないとできないな、と、ずっと考え続けて……今の形になったんです。

───コロッケさんがゲストで決まっているから五木ロボを出そう、という発想ではなく、高橋監督の熱い思いで五木ロボとコロッケさんが出ることになったと(笑)。

高橋 そうですね。今の子に通じるかな? という話もあったんですけど、僕が『お笑いスター誕生』でコロッケさんを見ていたのが小学校1〜2年生のときで、モノマネの元ネタは知らなくても笑ってましたから、絶対に今の子にもウケるはずだと思っていたんです。

───たしかにコロッケさんの五木ロボはいつ見ても面白いですからね(笑)。そして、戦いを経た後のテレビラストは非常に泣けたという声が多いです。

高橋 それはこの映画が『クレヨンしんちゃん』だったからだと思います。22年間やってきた積み重ねでしょう。ひろしだって父親を22年間続けてきたんですから、視聴者にとっては、もはやの中のもう一つの家族であり、父親だと思います。

───積み重ねがあったこそ、観る側もすぐにロボとーちゃんに感情移入できるわけですね。

高橋 この映画単品だけでは、なかなか成立しなかったと思いますね。それは『クレヨンしんちゃん』という作品の財産だと思います。
(大山くまお)