実用新案権の訴訟や特許権について描かれた実録傑作映画「幸せのきずな」もぜひ

写真拡大

倒産寸前にまで追い詰められた中小精密機器メーカー・青島製作所と、背部危機の同社の野球部の奮闘と逆転を描くドラマ「ルーズヴェルト・ゲーム」(TBS系・日曜21時)。第一回では、つなぎ融資を受けられない危機を担当銀行員の陰謀を暴くことで何とか乗り越え(第一回レビューはこちら)、派遣社員・沖本和也(工藤阿須加)は製造部のピッチャーとして登板、153km/hもの豪速球を投球できる才能をみせた。

第二回では、製造部所属の派遣社員・沖原和也(工藤阿須加)の過去と野球部への参加をメインエピソードに、ライバルメーカー・イツワ電器から実用新案権侵害の訴訟を起こされるまでが描かれた。筆者が感じた、この回の裏テーマは“内部の憂いを見つめて現状を把握し乗り越える”ということ。

派遣社員である沖原和也は、正社員になるために三年間無遅刻無欠勤で働き、同僚から“奴が金を使っているのを見たことがない”と言われるほど。実は高校時代には名門高校で一年エースに抜擢されていた逸材だったのだが、元エースととりまきによるイジメから暴力を振るい退部に追い込まれた過去があった。

沖原の隠された過去と、再び野球に取り組む決心のストーリーで大きな障害になったのは、大量納品する機器の機種間違い。
正しい機種には在庫がなく、製造部をあげて取り違えた機種の内部プログラムを書き換えて対応するしかないという事態に陥ったわけだが、これは沖原のトラウマを取り除き新しい自分として再出発するストーリーにピッタリのエピソード。

野球の才能に恵まれた肉体と、それにそぐわない内面のしこりとの不一致を製造部と梱包を手伝った野球部の面々の助力で克服していく沖原の変化をうまく表現したというわけだ。

また、Japanixとイツワ電器の妨害によって窮地に立たされている青島製作所のほうも、内部の派閥争いでも疲弊していた。このシステムエラーがもたらしたミスは、内部のウミを出すことで健全化していこうとする青島製作所そのものでもある。

青島製作所も、沖原も今回で内なる問題を認識して新しい一歩を踏み出したわけだが、ここで巻き起こったのが、イツワ電器による青島製作所の実用新案権侵害の訴訟。「昔戦争、今特許」という言葉もあるように、権利の保護は、開発者を守るためという建前のほかに、既得権益を持つものが弱者を排除する側面もあり、国際的に保護された特許権は国家にとっても貴重な外貨獲得手段。現在の“経済戦争”にとって非常に重要な“切り札”だ。

その“切り札”の中でも、実用新案権は、新しい発明を保護する特許権と似ているが機械の構造や複数の機器の組み合わせに対するアイデアを守る権利。国際的な条約で保護されている特許と違い成立まで時間とコストは少ないものの国内基準のみの実用新案権を持ちだして勝ち目のない訴訟を実行するイツワ電器は何を狙っているのか。まず思いつくのは青島のブランド価値を下げ、問題のないはずの製品の出荷自体を困難にする策謀だ。って、これは沖原が高校の野球部でうけたイジメと、その後の濡れ衣を着せて退部へと追い込んだ手段と似ていないか?

心の問題に決着をつけて野球を始める意志をもった沖原にしても、リストラの決定は撤回されていないし、「派遣社員の八割を切る」至上命題の前には、ほとんどが派遣社員で構成された野球部の運命も風前の灯。これまた、外部の力によって、自分の仕事ができなくなる危機に直面しているのに変わりはない。

「ルーズヴェルト・ゲームは、毎回急転直下の逆転劇が魅力だけれど、“イツワ電器・Japanix vs 青島製作所”の力関係と課題が、“青島製作所 vs 野球部”にもそっくりそのまま当てはまっていく姿も大きな見どころ。

青島製作所がイツワ電器・Japanixと死力を尽くして戦えば戦うほど、野球部がその影響を受け窮地に立っていく。この不幸の連鎖を、どのように8対7のルーズヴェルト・ゲームで大逆転していくのか。第三回も見逃せない。

ちなみに、実用新案権の訴訟や特許権について描かれた実録傑作映画に「幸せのきずな」がある。自分の発明を横取りされた男が、大企業フォードを相手に戦うストーリーで、個人が企業に打ち勝つ爽快さも素晴らしいが、長期間裁判をする苦労、勝利しても当時と変わってしまっていた自分たちなども深く考えさせる傑作だ。こちらも逆転、逆転の連続で「ルーズヴェルト・ゲーム」が好きな方にはオススメしたい。
(久保内信行)