ポスト『クラッシュ・オブ・クラン』なるか? 上陸戦が舞台の『ブーム・ビーチ』日本語版が登場
(C)2013 Supercell

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ソフトバンクが昨年末に約1500億円で買収し、世界中の注目を集めたスーパーセル。フィンランドの開発会社で、ソーシャルゲーム『クラッシュ・オブ・クラン』を作り出したことで有名です。F2P(基本プレイ無料のアイテム課金型)ゲームとしてリリースされ、世界135カ国のApp Storeで第一位を記録するなど、大成功を収めました。

4月23日に東京・秋葉原で開催された、ゲームとネットワークのカンファレンス「OGC2014」では、CEOのイルッカ・パーナネン氏が来日講演。トップダウンではなく、ボトムアップで開発を進める企業風土について語りました。ゲーム業界内外での注目度も高く、テレビ東京の報道番組『ワールド・ビジネス サテライト』で取り上げられたほどです。

そんな同社の新作ゲーム『ブーム・ビーチ』が、このたび満を持して日本語化されました(iOS版のみ、Android版も公開予定)。はたして『ブーム・ビーチ』はポスト『クラクラ』となるのか? 序盤のプレイをもとに、ざっくりとレビューしてみましょう。

舞台は南洋の島々です。悪役のブラックガード軍(NPC)が占拠した島々を解放しながら、自らの島に建設した基地を発展させていくのがゲームの目的。資源を採掘し、建物を建設しながら軍隊を整備し、敵の基地を攻撃して、さらに島を増強させていく・・・。いわゆる「村ゲー」と呼ばれるジャンルで、基本は『クラクラ』と大差ありません。

もっとも『クラクラ』はファンタジー世界ですが、こちらはコミカルながらも現代戦。バトルも「上陸作戦」がモチーフで、ガンボードで援護射撃を行いながら、上陸用船艇で兵士を海岸に送り込み、敵陣に突撃するというもの。兵種はライフル兵、重火器兵、バズーカ兵など6種類にわかれ、それぞれに特徴があります。

バトルの戦略性を高めているのが、前述のガンボートの存在です。本作では『クラクラ』と同じく、各部隊を個別に操作できません。そのかわり、艦砲射撃で敵陣を削いだり、フレア(照明弾)で部隊を誘導したり、救援物資で体力を回復させたりと、間接的な介入ができます。敵の建物を破壊するとエネルギーが増えて、さらにアクションが繰り出せるのがミソ。部隊編成とガンボートの操作が勝利の鍵を握っています。

ユニークなのがフレアです。バトルの勝利条件は敵の司令部を破壊すること。そこで火力の集中している箇所をフレアで迂回誘導し、司令部だけを攻撃すれば、最小限の被害で攻略できます。現在は地上部隊のみなので、若干力押しの印象が否めませんが、アップデートでパラシュート兵や航空部隊などが登場すれば、より立体的な戦術が楽しめそうです。ただし複雑さと手軽さは表裏一体なので、程度問題ではありますが・・・。

このように、ゲームの完成度はかなりのもの。ただし、本作の特徴はおそらくそこにはありません。というのも『クラクラ』と異なり、ソーシャルゲームに必須とされるマルチプレイの要素、もっといえばソーシャル性の部分が、今はまだ大きく抜け落ちているからです。これをどのように捉えるかで、評価が分かれそうです。

「ソーシャル」ゲームというだけあって、これらのゲームはユーザー間の社会的交流を根底にデザインされています。特に「村ゲー」のようなジャンルでは、他のプレイヤーの「村」を攻めたり、攻められたりしながら、自分のランキングを上げていくことが主要な動機付けとなります。そこで他人より効率的にゲームを進めたり、ランキングを維持するために、課金アイテムが提供される・・・という図式です。ソーシャル性と課金アイテムが融合しているのです。

ところが本作はシングルプレイ的なゲーム体験を中心にデザインされています。他のプレイヤーの基地は、ブラックガード軍の「傭兵」という位置づけで、マップ上にランダムに出現し、いわれなければNPCと区別がつかないほどです。他のプレイヤーから攻められることはあっても、お返しに攻め込んだり、相手を探したりする機能もありません。同じ基地を複数人で協力して攻略したり、グループを結成して集団戦をしたりする機能も(今のところ)ありません。チャット機能やプレゼントの進呈機能すら、ないのです。

あえて言えば、スコアを競い合ったり、他人の島を訪問できる程度で、「多人数ソロプレイ」といってもいいでしょう。ここが『クラクラ』との違いです。

ゲームバランスのこだわりが感じられる点も特徴です。「大工」というキャラクター(機能)が存在しない点は、その象徴です。『クラクラ』では大工(正確には大工の小屋)が課金アイテムとして販売され、小屋の数だけ建物を同時に建設できました。つまりプレイヤーは一度課金すれば、未来永劫ゲームの進行速度を速められたのです。もっともその反動で、建物の建設に必要な時間が長くなりすぎることに。まわりまわって、非課金ユーザーにしわ寄せがいってしまいました。

そのため『ブームビーチ』では「大工」が消滅し、同時に一つの建物しか建設できなくなりました。効率的に遊びたいなら、その都度、課金アイテムであるダイヤモンドを消費してください、というわけです(ダイヤモンドはゲーム中でも入手できますが、課金するのが一番手っ取り早いのも事実です)。『クラクラ』に慣れたプレイヤーには、これに不満を感じる人もいるようです。しかし、たとえテンポが削がれたとしても、ゲームバランスを適切に保とうとする姿勢は、興味深く感じられます。

スタンドアロンのゲームと異なり、ソーシャルゲームではプレイヤー同士のインタラクションが発生するため、ゲームバランスが崩れがちです。ゲームバランスが崩れると、多くの人に最適なゲーム体験を提供することが困難になります。そもそも無料ユーザーと課金ユーザーで、同じゲーム体験を提供することは不可能です。課金すればゲームがサクサクと進み、よりおもしろさが増すのは自明でしょう。

それでも、ソーシャル要素を最低限に絞り込み、シングルプレイ的な楽しみ方を中心にすれば、ゲームバランスの崩壊を防げます。そんなふうに、自らソーシャルゲームであることを否定するようなゲームが儲かるのでしょうか。作る意味があるのでしょうか。でも、その成功例を私たちは知っている・・・。そう、『パズル&ドラゴンズ』です。

たしかに、ユーザー同士の競争心を煽って、そこに課金アイテムを投入すれば、短期間で利益を上げられそうです。それが、ソーシャルゲームが急成長した理由です。しかし、それでは長く続かないことが、だんだんとわかってきました。

冒頭の講演でバーナネン氏は、「サービス型のゲームをめざす」として、5年から10年は運営を継続できるようなゲームを作りたいと語りました。もっとも、『クラクラ』もアップデートに伴い、チーム戦などの要素が加わっていった経緯があります。『ブーム・ビーチ』も同じように、ソーシャル要素が追加されていくのか。それとも現在のまま「多人数ソロプレイ」の方針が固持されるのか・・・。同社の戦略に期待しましょう。
(小野憲史)