「死神くん 1 」えんどコイチ/集英社文庫 

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嵐の大野智主演、世界的映画監督中田秀夫(「リング」「クロユリ団地」など)演出のドラマ「死神くん」(テレビ朝日金曜11時15分〜)の第1話は、圧倒的な安定感がありました。

原作は、えんどコイチ(「ついでにとんちんかん」など)の漫画。

主人公・死神くん(大野智)は、死が間近に迫った人間のもとを訪れて、寿命を知らせることで、最後の時間を有効に過ごすように促します。

人生、楽ありゃ苦もある中で、最終的に「嗚呼まったくいい人生だった」と思って逝くことで収支を合わせたいと願うものですが、いきなり「あなたは何日後に死にます」と告げられ、しかも「おめでとうございます」なんて祝われても、「そうですか、では、最後の時間を有意義に過ごします」なんて簡単に達観はできません。
告知された人間は、当然ながら戸惑い苦しみます。

EPISODE1「心美人 お迎えに参りました!  あなたの命はあと3日  最期は僕が傍にいる」(原作タイトルは
『心美人』)は、容姿に恵まれず、美人の友達に対してコンプレックスを抱えながら生活してきた女子高生が、何もいいことのないまま18歳で死ぬことがわかって絶望しながらも、最後、友達のために最善を尽くすという話でした。
女子高生が、友達のためにした行為は、涙なくしては見る事ができません。

その決断ができたのは、死神くんがいてくれたからこそ。
自分はブスだと嘆く少女に、大野くん(死神くん)が「私の目にはあなたが一番美しく見えますよ」「心のキレイな人が美しく見えるんです」と言います。

美人ではなく、人生をはかなんでいた少女は、ともすれば、どうせ死ぬのだからと自棄になって、他人も不幸になればいい的な思いを抱いてしまいながらも、死神くんのおかげで、心の美しさ(尊厳)をもって死ぬことができるのです。

死神くんは少女を励ましているわけではなく、当たり前の真実として話しています。話し方がさらっとしていることで、逆に言葉に説得力が増して、おしつけがましい感動話にならずに済んでいます。
熱くかたり過ぎると、いい話でしょ感が漂い過ぎますからね。

中田監督は、大野くんに、あえて淡々とした話し方をするよう演出したとか。
それに応えた大野くんも、ご立派です。
なんかちょっと、古畑任三郎みたいな話し方だなあ、という気もしましたけれど、俗世からの超越感を、ややユーモラスに表現することは、適切な選択でしょう。

これ、大野くんだから成立し得たことです。
大野くんって、嵐というアイドルが職業ではありますが、どこかアイドルらしくない雰囲気があるんですよね。絵やオブジェなどを創作しているアーティスティックなところをもっているからなのでしょうか。

第1話の最後、「人間はみんな罪を背負った生き物である」というかっこいい台詞のあと、死神くんが、天界と地上を結ぶ、天界の庭という場所から、地上に飛びおりるときの脚先は優雅でした。ダンスが得意な大野くんならではの、見どころです。

アイドルがお芝居をやる時は、演技がどんなに巧くても、アイドル業も内包しながらやっているので、現実世界にこんなヒトがいたらいいなあ〜、でもいないよねえ〜っていう、親しみやすさとキラキラ感のギリギリのところに存在しているヒトが多いです。
はなから、遠いヒトって思わせたらダメで、ギリギリまで獲物を引きつけて、
すっと後ずさる、そんなテクニックをアイドルはもっているわけです。
だからこそ、主に皆、ラブストーリーをはじめとして、リアルな現実を舞台にした作品の主役を演じています。

ところが、大野くんといえば、これまで演じた役は皆、エキセントリックなものばかり。
視聴者が感情移入する間をまるで与えてくれません。これ、アイドルなのに珍しいことです。

例えば、過去作品、「鍵のかかった部屋」の、素性が謎のセキュリティー会社の研究員は、自分ひとりの世界に没入している感じの人物でした。「歌のおにいさん」ではロックバンドが解散して仕方なく、自分とはキャラの違う「歌のおにいさん」という存在を演じることになった青年、ドラマデビューの「魔王」では天使と悪魔の2面性をもった弁護士と、常に、世の中と自分の間の扉をしっかり閉ざし、取りつくしまを与えない役です。
代表作ともいえる「怪物くん」のモンスター界の王子役は、唯一、人間とあたたかい交流をしていますが、そもそも異世界の魔物です。

今回の「死神くん」は「怪物くん」の延長線上にある印象がありますが、特殊メイクで演じていた怪物くんと比べて、死神くんはほぼほぼ人間に近いいでたち。にも関わらず、異物感漂わせているところに大野智のさらなる進化を見ます。

第1話で、死神くんは、少女が死ぬ前に、死神くんとボートに乗ってクレープを食べるというまるでデート(少女は生前一度もしたことがなかったという設定・涙)のようなことをするのですが、その時の距離感も、優しいけれど、一線がしっかり引かれていました。

黒と白で決めた正装みたいな格好だとはいえ、ふつうにボートに女子高生と向かい合って乗っているのに、構成された元素がまったく違うもののように見えるのです。何を食べてるとこうなれるの? 釣り好きらしいけど、魚のDHAが大事なの?

さて、1話の終わりで、死神くんは、ヒトの死ぬ予定が書かれた手帳を落として、人間に拾われてしまいます。
飄々としている死神くんも、このピンチには、少し心が揺れるのか、2話も楽しみ。
淡々としている死神くんですが、死神仲間(桐谷美玲)から見たら、人間に寄っていると批判されてしまいます。
今後、死神大野くんは、どんなふうになっていくのでしょうか。ちらっと意味深に登場した「孤独なグルメ」の松重豊は何者なのでしょうか。
(木俣冬)

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