村岡花子: 「赤毛のアン」の翻訳家、女性にエールを送りつづけた評論家 (KAWADE夢ムック 文藝別冊)

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朝ドラ「花子とアン」は、前作「ごちそうさん」の週間視聴率を、1、2週とも超え、このドラマへの期待の高さを感じさせます。

第2週「エーゴってなんずら?」は、主人公・安東はな(山田望叶)が、東京の女学校に入学。
貧しさや重労働の苦しみから解放されましたが、勉学や異文化の苦しみを味合うことになります。

大好きな本をたくさん読みたいと思って入った学校ですが、英語がわからず、ホームシックにかかってしまいます。
このまま英語ができないと、学校を去ることになってしまう。
そうしないで済むために講じた苦肉の策が、大騒動を呼んで、逆に退学の危機に。
これが、第2週の概要です。

月曜日の朝は、1945年、吉高由里子のはなが、「赤毛のアン」の冒頭を原文で読んでいるところからはじまりました。
吉高の老けメイクがリアル。特に手のしわが。

「赤毛のアン」と言えば、ドラマ、後半、はなの祖父・周造(石橋蓮司)が「そうさな」と言うことに、ちょっと感動しました。
これは、「赤毛のアン」のアンを引き取ったマシューの口癖「そうさのう」ですよね。

幼少のはなは、お父・吉平(伊原剛志)と列車にのって東京へ。
はなが学費免除の給費生として入る修和女学校には、カナダから来た先生がいて、英語を教えてくれるのです。

カナダ人の先生たちは、英語しか話しません。
笑わない女・富山(ともさかりえ)の通訳がないと、はなには、先生の言っていることがわからないのです。
わかるためには勉強しないといけないという、なんというスパルタ教育でしょうか。

校長のブラックバーンは、怒ると「ゴー・トゥー・ベッド!」(部屋で謹慎)と叫ぶ、厳格そうな人で、はなは萎縮しまくりです。

この学校の日課は、
朝6時 起床
 7時 朝食 
 8時 礼拝
午前中 日本語を使った授業
昼食
午後  英語の授業
午後  5時30分 夕食
・・・こんな感じです(9話より)。

生徒は特権階級の子供が多く、白鳥、醍醐、一条という華麗な名字の生徒ばかり。
「お嬢様たちの頭の中はお見合いや縁談の話ばかりでついていけない」(10話より)とはなは引き気味。

ハリセンボンの近藤春菜演じる白鳥は、言語矯正会の会長で、「言葉の乱れは精神の乱れ」と言い、はなの方言を取り締まります。

女学校は、英語を学ぶ先進的で知的な人たちの集まりかと思いきや、地方ごとの特色ある言葉を排して東京の言葉に統一してしまったり、いい学校を出て、いい家柄に嫁ぐことが目的だったり、なんだかあまり期待できない場のように思えてなりません。

すっかり想像の翼を折られ、元気のなくなったはなでしたが、母ふじ(室井滋)への手紙には「元気」を強調する健気さを見せます。

でもそれもつかの間、とうとう、はなは学校の厳しさに耐えかねて、ある夜、逃亡をはかります。
その時、吉平が登場、励まされたはなは、もう少しがんばることに。

はなの幸せなところは、家族の愛に育まれていること。
貧しいけれど、母も父も、アプローチは違いますが、はなのことをとても大事にしています。
母は、辛いときは辛いと言っていい、と子供を優しく包み込み、父は、子供の可能性を信じ、学問などの未知なる世界に導いていきます。
なんだか、理想的な両親ですよね。

はなを、学校にもう少し残ろうと思わせたのは、スコット先生の英語の歌でした。
英語のわからないはなが、この歌(恋人との別れを歌ったスコットランド民謡『The Water Is Wide』(「悲しみの水辺」)に心をうたれ、英語に興味をもちはじめます。

この歌の中には、愛のはじめは宝石のように美しいが、いつしか、輝きがなくなってしまう、というような歌詞があります。
この、時がいつのまにか過ぎてしまい、思いがけないことになるという認識は、はなが第一週で詠んだ辞世の句
「まだまだと
おもひすごし
おるうちに
はやしのみちへ
むこうものなり」
に通じるものがあるような気がしませんか。

この辞世の句は、第2週では、
「まだまだと
おもひすごし
おるうちに
落第のみちへ
むこうものなり」
と、「林」を「落第」に置き換えて詠われます。

命短し恋せよ乙女 ではないですが、時間はどんどん過ぎていくので、今を大事にしよう、とこのドラマは語りかけているような気がします。

で、間接的にせよ、苦しみから救ってくれたスコット先生に、はなはとんでもないことをしてしまいます。これが、第2週のハイライト。
ブラックバーン校長に英語の手紙を書く課題を出されたはなは、困った結果、スコット先生の部屋の掃除中、ゴミ箱に捨ててあった手紙をコピペして、提出。優秀な成績をおさめてしまいます。
自分の手紙を、教室で朗読されてしまったスコット先生は、ショックで引きこもってしまいます。

はなの才能を感じたのは、この優れた手紙を本当に書いたのか?と確認されたとき。
「鉛筆でけえた(書いた)のはおらです」とはなは応えるのです。すごく巧みなごまかし方です。決して、間違いじゃないですもんね、これ。

辞世の句といい、この取り繕い方といい、はなは言葉に対するセンスがいいのでしょう。それが、翻訳の道につながっていくのだなあ、と思わせます。

そして、英語と日本語、方言と標準語、言葉の違いによって、わかりあえない苦しみを痛感した経験も、たとえ、言葉がわからなくても、歌で人の気持ちはつながることができるという経験も、はなの今後に大きな影響を与えるのだなあと。

コピペ問題が発覚し、退学させられそうになったはなですが、心から謝ることで、許してもらえます。

そして、あっという間に、はなは15歳に。
第1週に続き、展開早っ。やっぱり、まだまだと思いすごしておる場合ではない、急げ、進め!という、脚本家(中園ミホ)の気概を感じます。

さあ、いよいよ吉高由里子はなの登場です(12回)。

それにしても、子供はなは、顔が濃かったけれど、吉高はなは、あっさり顔。
西洋ナイズされた生活が、逆に、はなをあっさり顔にしてしまったのでしょうか。ただ、テンションは高そう。
第3週「初恋パルピテーション!」での吉高はなの活躍を期待しています。
(木俣冬)

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