ロサンゼルスタイムズに掲載されたナカモト氏の記事

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仮想通貨「ビットコイン」を発明した「ナカモト・サトシ」と名乗る人物を、米ニューズウィーク誌が直撃した。本人は「もう過去のこと」と取材に取り合わず、後には「ビットコインとは関係ない」と否定したという。

ニューズウィークは、周辺取材からナカモト氏の横顔をあぶりだしている。肉親の言葉を借りれば、その人物像は「天才だがイヤなやつ」だそうだ。

家族の証言「非常に知性的だが感情の起伏が激しい」

ナカモト氏は2009年、「ビットコイン:P2P 電子マネーシステム」と題した論文をインターネット上に公表し、ビットコインの生みの親とされる。「中本哲史」という漢字表記もあり日本人とみられていたが、実名かどうかを含めて全体像は謎に包まれていた。

ニューズウィークの記者は、米ロサンゼルス郊外にあるナカモト氏の自宅を訪問し、取材を試みた。その様子は2014年3月6日付の長文の記事に掲載されている。本人の趣味である鉄道模型の話題を中心にメールで交流を重ねたが、ビットコインの話をもちかけた途端に音信が途絶えたため、やむなく本人を直撃したようだ。

アポなし訪問を不審に思われ、記者は警察に通報される。やって来た警官に事情を説明し、その立ち会いのもとでようやくナカモト氏にビットコインとのかかわりを質問した。だが答えはそっけないものだった。

「私はもう何の関係ないし、話すことはできない。(ビットコインは)ほかの人の手に渡っている」

これ以上の質問は受け付けず、会話は続かなかったそうだ。ただこの言葉からは、ナカモト氏がかつてビットコインに携わっていたことがうかがえる。

ニューズウィークは2か月にわたる入念な周辺取材から、ナカモト氏の人物像を特定した。1949年、大分県別府市生まれで現在64歳の日系人。1959年に母が再婚するのに合わせて、家族でカリフォルニアに移住したという。カリフォルニア州立科学技術大学を卒業後、「ドリアン・S・ナカモト」と名乗るようになった。現在、妻とは別居中のようだが、6人の子どもがいる。

家族の証言によると、「非常に知性的だが感情の起伏が激しく、極端にひとりでいるのを好む」という。電話口では言葉が少なく、メールのやり取りでも匿名にしたがる。ナカモト氏の弟は、技術者としての優秀さを称える一方で「兄はイヤなやつ」とも述べた。具体的なエピソードは言及していないが、ナカモト氏は長らく「機密」を扱う仕事に携わっており、「彼の人生はしばらくの間空白状態」だったそうだ。「兄はビットコインを始めたことも否定するだろう」と続けたが、特殊な職歴がその性格に影響を与えたのかもしれない。

2001年以降定職に就かず、どんな仕事をしているか不明

ナカモト氏は、防衛産業や電機メーカーの技術者として勤務する傍ら、米軍のプロジェクトも請け負っていた。ただ家族には仕事の話をあまりしなかったそうだ。1990年代には2度のレイオフを経験し、2000年ごろには米連邦航空局でソフトの技術者として働いている。ところが2001年以降は定職についていないようだ。ニューズウィークも「この10年ほど、どんな仕事をしていたのかは不透明」と書いている。この期間をビットコインの開発に充てていたのだろうか。実際にビットコインのプログラムコードは、協力者は存在したものの、基本的にはナカモト氏が単独で組み上げた可能性が高いという。

記事から垣間見られるのは、ナカモト氏の性格が一筋縄ではいかない点だ。兄弟のひとりは「彼は被害妄想かもしれない。私自身、心が通じ合えていない」と吐露した。ビットコインの開発を1年近く手伝った技術者は、ナカモト氏と会ったことはおろか電話で会話も交わしていない。やり取りはメールが主だが、雑談は皆無だったという。家族には、自分がビットコインを開発したわけではないと打ち消したそうだ。「真相は話さないだろう」と息子は語っている。

米ロサンゼルスタイムズ紙電子版は3月6日、ナカモト氏本人の映像をウェブサイト上で公開した。白髪交じりで眼鏡をかけ、やせた印象だ。自宅に押し掛けた報道陣に対して、「質問はなしだ」と家の中に入りかけるが、向き直り「私はビットコインとは関係ない」と明言。質問を重ねようとする記者をしり目に去って行った。その後、本人に接触した同紙記者に対して、ビットコインの開発者ではないと否定したという。

ビットコインを巡っては、東京に開設されていた取引所が2月28日に経営破たんしたのに続いて、カナダの取引所も3月4日、不正アクセスでコインが大量に引き出されたとして閉鎖した。シンガポールの取引所の経営者が不審死したという物騒なニュースも流れた。ただでさえトラブルが続いているときに、姿を隠してきたナカモト氏本人が「見つかった」ことで騒ぎは大きくなった。一説には4億ビットコインを持つ「億万長者」と言われており、まだまだベールに包まれているナカモト氏の「正体」を丸裸にしようと、メディアの攻勢は続きそうだ。