オフィシャル誌編集長のミラン便り(6)

「期待していたものと違うではないか」

 先週金曜日のボローニャ戦の後、イタリアのメディアはこぞって本田圭佑に辛い点をつけた(結果は1−0で勝利)。イタリア生活も6週目に入ったが、本田にとって状況は依然厳しい。前節のナポリ戦では本田を欠いたミランがひどい内容で完敗(結果は1−3)しただけに、胃腸炎から復活した本田に期待が集まったのだが、ボローニャ戦の本田はあまり力を出すことなく終わってしまった。

 途中交代してピッチを後にする本田に、サン・シーロの観客はブーイングを浴びせた。度量の狭いこと甚(はなは)だしい。

 クラレンス・セードルフは記者会見で、こう本田を擁護している。

「今までイタリアにやってきた多くの優秀な外国人選手に対するのと同様に、どうか長い目で本田を見て欲しい。イタリアとロシアのサッカーは全く違う。本田が持てる力を存分に発揮するためには、もう少し時間が必要だと私は思っている。彼はよく働いているし、守備にも手を貸そうと頑張っている。今後少しずつ彼のプレイは良くなってくるだろう」

 現日本代表監督のザッケローニが以前ミランのベンチに座っていた時も、確かこんなことを言っていた。

「ほんのわずかな例外を残し、イタリアに来た外国人選手が本当の力を発揮するようになるまでに、少なくとも半年は必要だろう」

 考えてもみてほしい。突然まるで知らない外国に行ったとしたら、皆さんはすぐに仕事で自分の力を発揮することがきるだろうか? 生活環境もガラっと変わり、言葉も勉強しなければならない、食事も違う、仕事場のやり方も違う。おまけに本田の場合は、ほんの数日で突然上司が変わってしまい、すべてのやり方がまたがらりと変わってしまったに等しいのだ。そんな状況では自分本来の力を出し切れるほうが珍しいだろう。彼を批判するメディアやサポーターはまずそこのところを考えて欲しいものだ。

 おまけに本田は"チームメイトから孤立している"というメディアが勝手に作り出したイメージとも戦わなくてはならない。ミランのオフィシャル・マガジン編集長ということで、私は選手たちと間近に接する機会も多いが、断じて本田が仲間はずれになっていることなどない。それどころかこれまでの連載で私は何度も、本田がいかにミランに馴染み、仲間との友情を深めているかを書いてきたはずだ。

 ミラネッロでは相変わらず彼の礼儀正しさと、練習に対する真摯な態度に賞賛の声が上がっている。もうひとつミラネッロのスタッフやそこに集まる人間を感嘆させているのが、本田のエレガントさだ。ミランの選手の中でも練習にジャケットとパンツ着用でやってくるのは本田ただ一人である。ネクタイをしめていることさえある。

 かつてイタリアの多くのチームは服装に厳しかった。ジャケットとネクタイ着用でなければクラブハウスに入れなかったり、チームバスに乗せないという監督もいた。しかし今は時代も変わり、ほとんどがラフな格好で練習にやって来る。その中での本田の着こなしの優雅さには目を奪われる。イタリアのジェンティル・ウォモ(紳士)が再来したかのような本田を見ると、私のような古い人間は嬉しくなってしまうのだ。

 さて、本田のプライベートに関してだが、残念ながら先日も言った通り、チームに固く守られていて、なかなかこちらには漏れ聞こえてこない。本田自身もあまり、というかほとんど話はしない。この態度はもちろんメディアの好むところではない。だからこそ本田については、いろいろな憶測がとんでしまうのかもしれない。

 彼の最初の公式インタビューが待ち望まれる。そこで本田がイタリア語でも話すことができれば、皆も彼のことをもっと理解することができるだろう。

ステーファノ・メレガリ(『Forza Milan!』編集長)●文 text by Stefano Melegari
利根川 晶子●翻訳 translation by Tonegawa Akiko