オフィシャル誌編集長のミラン便り(5)

 ナポリに3−1で完敗して、ミランは楽しい週末を迎えることができなかった。しかし本田圭佑にとってはさらに厳しい週末だったろう。彼は胃腸炎でチームと共にナポリ遠征もできず、一人ミラノに残っていた。毎日の練習をこなしていくうちに、指摘されていたフィジカルコンディションもかなり良くなってきた矢先なだけに残念でならない。

 この試合に彼が出ていたらサポーターやチームの期待に応えられる活躍がきっとできていたはずである。しかし済んだことを嘆いても仕方ない。本田には一日も早く良くなってピッチに戻ってきて欲しい。

 本田は本格的にチームに溶け込んできている。先日ミラネッロでチーム全体の集合写真の撮影が行なわれた。選手が入れ代わるので、チーム写真撮りは通常シーズン開幕直前と冬のメルカート終了後の年2回、行なわれる。この日の撮影風景は、見ている者も思わず笑顔になってしまうような、そんな楽しいものだった。練習や試合ではいつも真剣な表情の選手たちも、リラックスして仲間同士でふざけ合っていた。

 中でも本田はマリオ・バロテッリの"いたずら"の標的だった。撮影用に並んだ時、バロテッリは本田の後頭部を叩き、本田が振り向くとGKのアメリアの後ろに隠れて素知らぬ顔をしている。本田が前を向くと、マリオはまた手を伸ばして本田の頭を叩く。ふりむく本田。アメリアは、自分は何もしていないと肩をすくめる。たわいもない冗談だが、何度もやるうちに仲間内からは笑い声がこぼれ、本田自身も最後は笑っていた。

 また、同じく1月に新加入したガーナ人選手のマイケル・エッシェンとはさっそくメールアドレスの交換をしている姿も見られた。ミランは依然厳しい状況にある。しかし選手同士がこのように仲がよく、良い雰囲気であれば今後必ず結果を出していけることだろう。

 本田のミラノ生活は相変わらず練習とイタリア語の勉強の連続だ。そうそう、ずっと続いていた家探しだったが、家族とミランの広報の協力で、ついに理想的な我が家を見つけたようだ。ただプライバシーのため、それがどこであるかは公表されていない。いずれにしろホテル暮らしよりは、やはり自分の家の方が絶対にいい。今後はより一層腰を落ち着けてサッカーに打ち込むことができるだろう。

 ところで昔からミランをよく知っている人間の間では、本田が過去にミランに所属していたある選手を彷彿させるというのがもっぱらの評判だ。その選手の名前はデビッド・ベッカム。ご存知イングランドのスーパープレイヤーだ。彼らのプレイが似ているというより、おしゃれに非常に気を遣ったり、いろいろなこだわりがあったりという、ピッチの外でのライフスタイルが、二人は非常に似通っているように思えるのだ。もちろんベッカムの方はメディアの注目やパパラッチの数が半端ではなかったので、とある人物が彼の私生活のすべてを管理していた。それに比べたら本田はより自由にミラノの生活を満喫することができるだろう。

 といっても本田ももちろん常にミラニスタの注目の的だ。私が編集長を務めるミランのオフィシャル・マガジン『Forza Milan!』にも、もっと本田のことが知りたいというリクエストが寄せられ、彼が表紙だった先月号に続き、今月号でも本田の特集を組んでいる。

 今回は"本田:カンピオーネ(チャンピオン)のABC"と題して、AからZまでのアルファベットを使って本田のことを紹介している。例えば「A」ならばアジアカップ、「B」ならブロンゼッティ(本田の移籍の仕掛け人の一人)、「C」ならコントラット(契約)といった形で、これを読めば本田のいろいろな側面がわかるようになっている。では最後の「Z」はいったい何か、皆さんは想像できるだろうか? そう、「Z」は日本代表監督ザッケローニのZだ。

ステーファノ・メレガリ(『Forza Milan!』編集長)●文 text by Stefano Melegari
利根川 晶子●翻訳 translation by Tonegawa Akiko