安全とおいしさにこだわる福島の米づくり

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食欲の秋、新米シーズン。この時期は、毎日の食卓で新米の美味しさをかみしめている人も少なくないのでは?

日本各地に米どころはあり、福島県もその1つ。ただ、震災以降、福島県の農産物の安全性には敏感になっている人もいるだろう。

いま、現地ではどんな取り組みがおこなわれているのだろうか? 

先月、福島県の中通り北部に位置する安達地区を訪ねてきた。ここは二本松市、本宮市、大玉村といった県内有数の良質米の生産地がある地区だ。

すでにニュースなどで報じられているように、福島県では昨年から米の全量全袋検査を実施している。文字通り、すべての米の放射性物質を機械で検査しているのだ。今回、実際に検査場も見てきたが、かなり大変な作業! だが、これによって食品衛生法の新たな基準値である100Bq/kgを超える米が流通・販売されない体制が整っている。

実際に安達地区の米の今年度の検査は、取材した時点(10月15日)では、すべて基準値以下だった。検査対象である約22万袋のうち、「25Bq/kg未満」が大半で、それ以上のものは「25〜50Bq/kg」が27袋、「51〜75Bq/kg」が3袋のみ。それらはすべて、くず米だったそうだ。

このように基準値を超える米はほぼ出ていない状況にあるが、
「我々がいくら大丈夫だと説明しても100%の方にそうですね、とは言っていただけない。セシウムND(不検出)ですよ、下限値以下ですよ、といっても、本当にゼロなんですか? 機械は本当に正しいんですか? といった心配をされると、どうすればよいかというのが悩ましい」
と話すのはJAみちのく安達の常務理事である遠藤明男さん。目に見えない放射能に対する恐怖は人それぞれ。福島県内でも小さな子どものいる母親は特に敏感だという。

米の放射性物質の吸収を少なくするための具体的な対策について、福島県農業総合センター生産環境部の吉岡邦雄部長が説明してくれた。
「24年度は試験栽培をおこない、除染のために深く耕して放射性物質の濃度が高い土を下のほうに封じ込めたり、放射性物質の吸収抑制効果があるというゼオライトを散布したり、カリ肥料を使ったりしました。その結果、生産された玄米の放射性物質濃度を分析できた396カ所のうち、1カ所をのぞいて、すべて100Bq/kg以下になり、対策によって一定の効果があったと考えています」

耳慣れない人も多いと思うが、カリ(カリウム)肥料は農家の人にはおなじみのものだ。肥料の主要な成分には、窒素・リン酸・カリウムの3つがあり、一般的にはこれらがブレンドされた形で使われているが、セシウムの吸収抑制対策としてカリウム肥料だけを上乗せしている。

なぜ、カリウムが効果的かというと、セシウムはカリウムと同じアルカリ金属に分類されるので、同じような振る舞いをするため。つまり、土壌にカリウムを多く含むと、稲が先にカリウムを吸収してセシウムの吸収を抑制してくれるが、逆に土壌にカリウムが足りないとセシウムを取り込んでしまうのだ。

土壌の放射性セシウム濃度が高ければ、玄米のそれも高くなると思われがちだが、実はそれらに相関は見られない。むしろカギになるのは、土壌に含まれるカリウムの含有量だ。ちなみにカリウム肥料は原発事故以前にも、食味をあげる目的などで使われており、JAS有機で認証されたカリウム肥料などもある。

一方、ゼオライトは天然に産出する鉱物で、農業分野ではもともと土壌改良剤として利用されてきたもの。これが、セシウムを閉じ込めるのに有効であることがわかっている。ただ、ゼオライトにはカリウムが入っているので、前述のカリウムの効果によるものか、ゼオライトの吸着効果が主体かはまだよくわかっていないようだ。

安達地区では今年から、安全性への取り組みは前提にした上で、おいしさの追求にも積極的だ。
「ここ2年半は、いかにセシウムを出さないようにするかに目を向けてきましたが、今年は原点に返って、おいしいお米を作って消費者のみなさんに提供しよう、と目線を変えました」
とJAみちのく安達の遠藤さん。そうした取り組みによって、生産農家のやる気をおこしたいという思いもあるという。

現地を訪れたことで、想像以上に調査や対策が進み、安全性が追求されていることがわかった。もちろん、米づくりの状況としては通常ではないが、生産者たちの努力はひたむき。その思いを目の当たりにしつつ、現地で食べた新米のおにぎりは本当に格別の味だった。
(古屋江美子)