福島の放射線汚染による健康被害を描いたドキュメンタリー映画『A2-B-C』(イアン・トーマス・アシュ監督作品)。グアム国際映画祭で最高賞を獲得するなど、世界中で高い評価を集めている。日本では来春公開予定だ。

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福島の子どもたちの放射線による健康被害の実態を追ったドキュメンタリー映画『A2-B-C』が9月に開催されたグアム国際映画祭で最高賞に相当する"Best of Festival"賞を獲得した。

『A2-B-C』 は日本在住のアメリカ人映画監督イアン・トーマス・アシュさんによる福島県に住む子どもたちに発症した甲状腺異常と、それと向き合う母親たちを描いた作品だ。公開と同時にグアム国際映画祭の最高賞を始め、世界中の映画祭で高い評価を集めた。

「上映後も観客が考えさせられ、作品について色々と語りたくなるような作品だったのが、最高賞(Best of Festival)の選出理由でした」と、グアム国際映画祭のプログラムディレクターのケル・ムナさんは評する。

タイトルにある「A2」「B」「C」は、甲状腺の異常を表す分類を表す記号である。原発事故後、甲状腺に結節や嚢胞が発見される甲状腺異常が福島の子どもたちに報告されているにも関わらず、すぐに甲状腺がん化する可能性が低いということから大きく報じられていない。

「『こんなこと知らなかった』『初めて聞いた』というお客さんがとても多かったです」
国内初上映となったぴあフィルムフェスティバルでの上映後の観客の反応を、アシュ監督は流暢な日本語で語った。

本作では放射線に汚染された地域に住む子どもを持つ母親に大きく焦点が当てられている。子どもが突如原因不明の大量の鼻血を出したり、検査の結果、嚢胞が見つかったりしたのを契機に、行政に頼らず必死に子どもを自衛しようとする母親たちの姿を描く。

子どもを思う親の気持ちの強さに優劣はないだろうが、ガイガーカウンターを手に放射線量を計測し続けたり、子どもに給食を食べさせなかったり、体育を欠席させたりする親は必ずしも多数派ではない。

同調圧力の強い地方のコミュニティーで子どもを衛る姿勢を徹底するのは容易ではない。それでも子どものために決然たる態度を貫く母親たちにアシュ監督のカメラは寄り添う。
「甲状腺の検査は特殊なもので多くのデータがありませんが、データが揃うのを待っていられません。一刻も早く被害に会っている子どもたちを守ることが何よりも大切です」
物静かで柔らかな物腰のアシュ監督だが、話が子どもたちの健康問題に及ぶと途端に語気が強くなる。本編でも福島の放射線健康リスク管理アドバイザーに猛然と食ってかかるシーンや、線量の高い場所でも子どもたちを遊ばせている小学校の教頭を問い詰めるシーンに監督の強烈な憤りが感じ取れ、作品のハイライトにもなっている。

とはいえ、映画自体に押し付けがましいヒステリックさはなく、淡々と静かに状況が映し出される。私たち一人ひとりがきちっと自分で判断し、行動することが大切だとアシュ監督は言う。

「この映画を観て、こういう問題があることを少しでも多くの方にわかってもらえたらうれしいです。その上で、とにかく子どもたちをすぐに守らなくてはいけません。そして私たち一人ひとりが政治家や行政の言うことを鵜呑みして盲従するのではなく、社会の一員として積極的に関与していくことが大事だと思います」

本作で取り扱われているテーマは、簡単に結論を出せる程単純ではない。放射線汚染から子どもたちを守らなければいけないという大命題がある他方で、生活を続けていかなければならないリアリティーもある。『A2-B-C』 は決してその難問に対する処方箋を提示してくれるわけではない。しかし私たちがそうした問題にどう向き合っていけばいいのかを考える大きなきっかけにはなる作品だ。

年内は福島、仙台、名古屋、広島と映画祭などで上映され、来春には全国15の都市で公開される予定だ。スケジュールの詳細は公式ホームページに随時アップされるので参照してみては。

(鶴賀太郎)