自民党の谷垣禎一総裁が、9月2日のテレビ番組で、「3党合意の体制を進めていきたい」と、9月26日に投票される自民党総裁選挙に出馬する意向を明らかにした。これで、シナリオ通りに事が運ぶはずだった。民主党の代表選挙で野田総理が再選されることは確実だから、谷垣総裁さえ再選できれば自民と民主は連立政権を作れる。
 総理は谷垣氏に代わるが、衆参の過半数確保で政治は安定し、野田氏も重要閣僚として権力の座に居座り続けることができる。これは、財務省にとっても最高のシナリオだ。
 財務大臣OB2人が政界トップに君臨し続ける中で、消費税率を10%から20%へと、さらに上げていくことができるからだ。

 ところが、政界は一寸先が闇だ。谷垣総裁に引導を渡したのは、出身派閥の領袖、古賀誠会長だった。9月3日、総裁選で谷垣氏を支持しないと本人に通告したのだ。このことで谷垣総裁は、総裁選の推薦人集めにも窮する立場に追い詰められてしまった。もちろん、財務省の支援を受けて、谷垣総裁が巻き返す可能性はゼロではない。だが、谷垣再選が、相当厳しくなったことは事実だ。
 その一方で、一躍有利になったのが、安倍晋三元総理だろう。安倍元総理が自民党総裁になれば、連立の構造自体が変わってくる。安倍氏が、右派思想で共通する橋下徹大阪市長と連携するのが確実だからだ。もしかしたら選挙協力にまで踏み込むかもしれない。都市部に強い大阪の維新の会、地方部に強い自民党で小選挙区の候補者を調整すれば、民主党を壊滅させることさえできるのだ。
 もちろん、その場合は民主党と野田総理は、政権の中に残ることができない。政権の財務省支配も大きく後退する。何しろ反官僚の橋下氏が権力中枢に入るのだから、財務省の思いのままにはならなくなるのだ。
 ただし、安倍・橋下政権が誕生した場合は、憲法改正と防衛費拡大の軍事政権にまっしぐらだ。つまり、財務省管理の重税国家が避けられたとしても、軍事国家が待ち受けているのだ。

 ただ、残念なことに、重税国家と軍事国家、どちらになるかは、国民の選挙による選択ではなく、自民党内の総裁選挙で決まってしまう。しかも、もうひとつ重要なことは、日本の未来の選択肢のなかに、リベラル勢力の名前が一切出てきていないという事実だ。
 どの選挙予測を見ても、次期解散総選挙で、小沢グループが壊滅するというシナリオは揺るがない。また、社民党や共産党が大躍進するという予測もない。
 わずか3年前に国民の圧倒的な支持の下、民主党というリベラル勢力が政権を取ったのにもかかわらず、リベラル勢力の影がすっかり薄くなってしまったのだ。

 その意味で、民主党からリベラル勢力を追い出した野田佳彦総理の手腕は、保守勢力からは高く評価されるだろう。ただ、野田総理のリベラル勢力潰しは、まだ終わっていない。
 民主党代表選挙で、勝利した直後に輿石東幹事長は解任されるだろう。民主党を守るために、輿石幹事長は解散時期を一日でも遅くしようとしている。それを野田総理が切ろうとする理由は明確だ。野田総理の最終目標は、リベラル勢力の息の根を止めることなのだ。その目標はおそらく達成される。自民党総裁に誰がなったとしても、その結末だけは、変わらないのだ。