リスクを負っての現地潜入記は読みごたえあり

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星海社新書は、ノンフィクション作家、安田峰俊氏が、独裁体制の下で生きる人々の生活を同じ目線で観察しようと、中国雲南省とミャンマーの国境にある「ワ州特区」に潜入したルポ『独裁者の教養』を2011年10月25日に発売した。

ひとりの「独裁者」が勝手に独立宣言

本書は、スターリンやヒトラー、カダフィといった「独裁者」として君臨した8人それぞれの若者時代を描いた「人物編」の間に、安田氏の「ワ州潜入記」が4分割されて入ってくる、独特の編集スタイルをとっている。

前書きで安田氏は、独裁者が「若い頃に得た知識や体験――、すなわち『教養』の側面から探ってみたいと思った」と、本書の趣旨を説明。29歳の安田氏が、同じ年齢のときに独裁者たちがどう考え、何が人生の転機になったのかを切り口に論じてみようと挑んだといい、残虐な独裁者も若いころには下積みを送っていた、というような意外な一面が紹介されている。

ワ州潜入ルポは、もともと中国事情に詳しく、「中国人の本音」などの著書がある安田氏の腕の見せどころだ。ミャンマーの一部でありながら、ひとりの独裁者が「勝手」に独立を宣言して成立させた「ワ州」。興味深いのは、安田氏が単に現地の様子を描くだけにとどまらず、危険とも言える地域への潜入を決意するまでの葛藤、現地取材でインタビュー中の一言が招いた「トラブル」、ひょんな出会いから「密航」への突破口が開け、「まるで中国にいるような」ワ州への「入国」に成功するいきさつが克明に、かつ飾らない言葉で表現されている。