■選手の意識の差

　この日の結果を受けて、フェンロは16位から17位に順位を下げた。勝ち点差は16位27点、17位26点、18位23点となっている。18位は自動降格。次節は18位エクセルシオールとの対戦だ。

　「降格争いは覚悟していた。エクセルシオールをぶったたいて、自動降格だけは避けたい」と言い、「それじゃあ」と、足早に記者対応を終えた本田。これ以上話せば、チームメイトを批判しすぎてしまう。その配慮が感じられた。
　ヨーロッパのサッカーが一概にレベルが高いとは言いがたい。それは、フランスの松井大輔、グルノーブルの大黒将志、メッシーナの小笠原満男、フランクフルトの高原直泰、そしてセルティックの中村俊輔、バーゼルの中田浩二の試合を見て痛感した。ヘラクレスの平山は言うに及ばずという感じだ。

　もちろん局面でのスピード感やあたりの激しさは、Ｊリーグは比べものにならない。ユニフォームを引っ張ってもファールにはならないし、相手選手の身体は大きい。ただし連動性や視野の広さ、精度を突き詰めれば、日本のほうが上だと思うことは少なくは無い。

　そして、最も大きな違いは選手の意識の差だ。セルティックやバーゼルは、リーグの格は下かもしれないが、そのリーグのトップクラブである。だから、たとえレベルは高くなくても各国の代表選手が所属している。国を代表する選手たちはその国のエリートだ。試合を戦い抜くプライドと闘志をピッチ上で表現する術を心得ている。

　しかし、残念ながらフェンロの選手にはそれがない。目の前の戦況に対応することで精一杯なのだ。流れの悪さを修正しようと、声を張り上げる選手もいない。本田がこのチーム内で、格別のテクニックを持ち、肉弾戦にも動じない強さとスタミナは20人のフィールドプレーヤーの中でもダントツである。どのプレーにも余裕が感じられた。

　ただし欧州において、日本人の立場は「アフリカ人が寿司を握るのか？」というのに近い。どんなに高いテクニックを持った選手であっても、人種という先入観を取り払うには時間がかかる。

　「どんな風に信頼関係を築いているのか」と本田に問うと、「みんな英語も話せるし、コミュニケーションは取れている」と彼は語った。ただし大事なのは人種の壁を超えた信頼だ。あいつのボールを預ければ、ゴールが生まれる。ボールを持った誰もが本田を探す状況を作るらなくてはいけない。１．２のパスを戻すことなくシュートを放つチームメイトの中であっても、自身のシュートよりもパスを選択していた本田。その献身的なプレーが、どう受け止められるのか？

　フェンロのチームメイトと比べても、本田は高い技術と豊富な運動量を兼ね備えてる。だからこそ、本田のチームになればいいと思った。そのためには、本田自身がもっと、チームに飛び込むことが必要だ。「言っても聞かない」と諦める前に、主張しなくてはいけない。諦めてしまいたくなる気持ちも理解できる。それくらい、チームメイトのレベルは高くない。

　「最悪な場所からはじめたいと思っていた」と話していたのはイタリアに渡った当時の中村俊輔だ。いち日本人が欧州をいかに渡りあるくかは、選手の能力だけの問題ではない。しかし本田の欧州でのフットボールライフは、今、正念場にある。自身の可能性のためにも彼は今、フェンロで踏ん張るしかない。そのためには人種の壁が、遠慮を度外視したリーダーになるべきだ。

文●寺野典子＠オランダ