人生とはかくも奇異なものだ。練習して、同僚にアドバイスを送り、試合をスタンド観戦、そして合間に法律学の勉強をする。これがミラン第3GKヴァレリオ・フィオーリの変わらぬ9年間だった。

 1999年からミランの一員となって公式戦に出場したのは、たったの2試合だけ。最後に試合に出たのは、4年前の話だ。水曜日、CL決勝トーナメントの大一番アーセナル戦を前に、フィオーリの運命の歯車は大きく回ることになった。

 正GKだったジダは今季腰痛と凡ミスを重ね、16日のパルマ戦ハーフタイム中にぎっくり腰を患ってしまった。代わって信頼を得ていた第2GKのカラチは、17日の練習中に右手人差し指を脱臼してしまった。あまりの不運ぶりにアンチェロッティ監督も「突然、自分に大木が倒れてくるよりマシ」と、呆れ返るしかない。カラチ本人はアーセナル戦に何としても出たいようだが、この先ジダのコンディション向上はまったく当てにできないため、無理してこの負傷を悪化させることはミランのゴールマウスにとって命取りになりかねない。そこで、フィオーリがアーセナル戦に先発することが濃厚されているというわけだ。

 フィオーリは昨夏、卒論「国家権力間における権利争議論」とともに晴れて法学部卒資格を手にした。今季終了とともに引退し、GKコーチになるかミラン上層部の法律担当セクションに入る。寡黙なインテリGKに、サッカー人生最高の場面がやってきた。エミレーツ・スタジアムのまばゆいスポットライトを彼は生涯忘れることはないだろう。