フランスの月刊サッカー誌「ソー・フット」が12月号で、創刊50号の記念企画としてマラドーナ特集を組んでいる。この中で、リーグ・アンの名門クラブ、オランピック・マルセイユ（OM）の元スポーツ部長ミッシェル・イダルゴ氏がインタビューに応え、かつてOMがマラドーナ獲得に動いたときの様子を振り返っている。

　イダルゴ氏は1989年、当時ナポリに所属していた29歳のマラドーナに会うためイタリアに飛んだ。代理人からマラドーナがナポリの住居に不満を抱いていると聞かされたイダルゴ氏は、南仏有数の景勝地として知られるカシに地中海に面したプール・庭付きの豪邸を用意すると約束した。イダルゴ氏によると、このオファーにマラドーナの心は大きく動いたようで、「この晩、頭の中では、彼はOMにいる気でいた」という。

　しかし選手本人の意思だけでは移籍が成立しないのは誰もが知っている通り。W杯を1年後に控えたタイミングに、大会でさらに株を上げることが予想されたマラドーナを手放すことは、ナポリにとって考えられないことだった。それはマラドーナ自身もわかっていたようで、フェルライノ会長（当時）の「息の根をとめなければならない」と首をしめるジェスチャー付きで残念そうに語ったという。実際その通り、OMのタピ会長（当時）がナポリ会長に会うことすら叶わなかった。

　その後のシーズン、マラドーナはセリエAで16得点の活躍をし、ナポリにスクデットをもたらした。しかし続くW杯イタリア大会では、“地元”ナポリでアルゼンチンがイタリアを破ったため（準決勝、PK）、サポーターの恨みを買った。それ以降、精神面の乱れが目立ち、プレーにも陰りが見えるようになってしまった。もしマルセイユ入りが実現していたら、マラドーナの人生が大きく変わっていたかも知れない。