【鈴木 貴博】1000円ジーンズ、277円かつ丼、1900円リカバリーウェア…「異常に安い商品」が続々登場する本当の理由

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ドンキ「999円」、ワークマン「1900円」

いま日本経済は明らかなインフレ局面にあります。

原材料費や人件費、物流費は上昇し、ユニクロのジーンズもかつての1990円から4990円へと値上がりしました。それなのに、イオンは1000円のデニムパンツを発売し、ドン・キホーテでは999円のジーンズが人気になっています。

これは「デフレへの逆戻り」なのでしょうか。

前編はこちら→『ユニクロなら4990円なのに…イオンが「1000円ジーンズ」を売り出した本当の理由』

実は、こうした常識外れの安値には、単なる値下げとは違う狙いがあります。そのヒントになるのが、ワークマンの1900円リカバリーウェアや、西友の277円かつ丼、そしてマクドナルドの商品戦略です。

なぜ企業は、利益を削っているようにも見える価格をあえてつけるのか。そこには、インフレ時代だからこそ効果を発揮する、ある古典的な集客戦略があります。

相次ぐ「常識外れの安値」

まず昨年来話題になっているのがワークマンが発売したリカバリーウェア。当時の競合品が2~3万円はするところを、ルームウェアで上下ともに1900円と常識外れの価格破壊でリカバリーウェアに参入して全国各地で品切れを引き起こしました。

アパレルとは違う分野ですが、同じ戦略メカニズムの事例を紹介します。総合スーパー大手の西友の総菜売り場では277円のかつ丼弁当が人気です。この価格、税込みでも300円でお釣りがくる価格設定で、しかも三元豚のかつが柔らかく、分厚くて美味しいのです。

最近、私は西友の売り場を定期的に覗くようにしているのですが、かなりたくさん補充しているのにもかかわらず、弁当売り場ではこのかつ丼弁当が真っ先に売切れになってしまいます。

マクドナルドも全体的にはユニクロと同じでずいぶん価格が上がった気がします。店舗の立地によって価格は変わりますが、ビッグマックセットが770円~、季節メニューのチーズ月見セットは990円~という価格帯です。

それでも高い商品ばかりかというとそうではない。単品だとハンバーガーやマックチキンは190円~、朝マックだとソーセージマフィンは180円~と手に取りやすい価格設定になっています。ここで挙げている例に一番近いのはハッピーセットの540円~だというとピンとくるのではないでしょうか。

なぜ赤字覚悟でも安くする?

実は、イオンの1000円ジーンズも、西友の277円弁当も、マクドナルドのハッピーセットの540円の価格設定も、安い理由は同じです。

それは「広告宣伝費がわりの価格設定だ」ということです。

ワークマンの1900円リカバリーウェアの例で説明します。最近では競合店でも安価なリカバリーウェアを置く店が増えてきました。それでも多くのお店では3990円から4990円ぐらいの価格設定で競合製品を置いています。

なぜそうかというと、おそらく普通のお店がリカバリーウェアを1900円で売ると赤字になるからです。だから頑張って安くしたとしてもぎりぎり利益が出るように3990円とかに価格設定するのです。

そうなるとワークマンにメリットが生まれます。世の中には高い商品しか売られていない中で、ワークマンだけ1900円でリカバリーウェアが売られていることがわかると、お店に新規客がたくさん来店するのです。

このワークマンのリカバリーウェア、あまりの人気で品切れが続いていたのですが、そこでのワークマンの売り方もうまかった。オンラインストアでは売らずに、店舗だけで扱っていて、その中で在庫のある店舗がオンラインストアから検索できるようになっているのです。

結果、何が起きるかというと、それまでワークマンには行ったことがなかった消費者が、昨年の秋から大量にワークマンの店舗を訪ねるようになったのです。これは莫大な集客効果です。

そして高付加価値で高コストの繊維を使った1900円のリカバリーウェアが仮に持ち出しの価格になっていたとしても、集客にかかるはずだった広告宣伝費が節約できたことを考えるとトータルでは大成功です。なにしろさまざまなメディアがワークマンのリカバリーウェアを取り上げてくれたのですから。

ユニクロを全国区にした「1900円フリース」

ちなみにこの秋冬に関していうと、ニトリが同じ価格帯でリカバリーウェアを並べて対抗しています。これは広告宣伝というよりは、リカバリーウェアが大量生産、大量販売されるようになったことで規模の効果が効いて、仕入れコストが下がってきたという意味の方が大きいでしょう。なにしろニトリのリカバリーウェアは品質はいいのですが、ワークマンほどの話題は生んでいないのです。

もうひとつ思い出していただきたい事例があります。ワークマンがリカバリーウェアで行ったのと同じ「目玉商品を驚くほど安く発売する」戦略で大成功した古典事例が何だったのかというと、それは1990年代後半のユニクロでした。

それまで西日本中心で、東日本でも郊外店中心だったユニクロが1998年に明治通り沿いにユニクロ原宿店を開店しました。これが当時のユニクロ都心型店舗の1号店です。

そして1階の売り場に並んだ1900円のフリースが飛ぶようにうれました。これが当時は「原宿事変」と呼ばれるほどの社会現象を引き起こし、ユニクロは一躍、国内の有名アパレルブランドへと飛躍します。

当時のファッション雑誌はユニクロ商品を競って取り上げました。フリースと同じく価格度外視ともいえる人気だったのがボタンダウンのオックスフォードシャツで、ファッションの専門家の分析では素材、縫製ともに高級品のラルフローレンポロのシャツと同等品質にもかかわらず、価格はフリースと同じ水準で、来店客のもうひとつの目玉商品になったのでした。

つまり来店の目玉になるような人気商品がひとつないしはふたつ、いつも驚くような安い価格で売られているというのは、集客戦略の古典なのです。

インフレ時代ほど「目玉商品」が効く

話を整理します。今、日本経済全体はインフレ経済に突入しています。あらゆるものの価格が以前と比べて高騰しています。実は今年にはいってようやく、賃金上昇の効果が出てきて実質賃金が前年比でプラスに転じるようになりました。とはいえまだまだ消費者の財布のひもは固い状況です。

こういったときは、経済現象としては業界首位のブランドに消費が集まりがちです。今時点ではアパレルならユニクロ、食品スーパーならイオン、回転寿司ならスシローが有利になるものです。

つまり戦略の視点でみると同じイオンでもアパレル売り場は不利になる立場です。でもいい商品は置いてある。そこに顧客に来てもらいたい場合にどうしたらいいのか?正解は「驚く価格の目玉商品を用意すること」。これがイオンの1000円ジーンズの理由です。

同じ理由で西友も説明できます。総合スーパーの業界でイオンにおされて業績が低迷し、ついには株主が手放す決断をしたのが西友でした。それを買収したのが西日本中心に店舗網を持つトライアルです。

では集客に苦戦する西友を立て直すにはどうしたらいいか? 驚く価格の目玉商品として277円のかつ丼や、199円の「たっぷり玉子サンド」を集客戦略の武器にすればいいのです。

「目玉商品競争」が本格化

最近、回転寿司業界でもこれと類似した興味深い変更がありました。客数が6月、7月と対前年比で88%前後と苦戦するくら寿司は、9月から最低価格を各店舗で5円ずつ引き下げました。値下げしたのは子どもやファミリー向けの人気ネタ約20品目です。つまり目玉商品を値下げしたのですが、一方で一部のネタは5円値上げするなど価格調整をしています。

先日、私もくら寿司を訪店しました。価格帯としては最低価格が145円と一番高い都心店でしたが、その時には目玉商品としてかにの寿司が一皿110円で提供されていました。これもテレビで何度もCMが流れた、来店客を増やすための目玉商品というわけです。

このように目玉商品で消費者を集客する手法、インフレ経済に向かう日本ではこれからはさまざまな小売店、飲食店がチャレンジする新しい戦略になりそうです。皆さんも注意深く、いろいろな商品の価格を眺めてみてはどうでしょうか。

さらに連載記事『コストコ「安い神話」の崩壊は本当か…?徹底調査で見えた!日本の「インフレ構造問題」驚きの真実』でも、最新の経済事情を分析しているので、ぜひ参考にしてみてください。

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