巨額赤字「ジャングリア沖縄」の苦境…改めて問われる「クールジャパン機構」はなぜ「刀」に80億円出資したのか
“事業不振”に陥れば
9月24日、ジャングリア沖縄を運営するジャパンエンターテイメント(JE)の最終赤字が89億円に上ると報じられた。同様に、JEの親会社であるジャパンエンターテイメントホールディングス(JEHD)は、2026年6月期に約173億円の最終赤字だという。【篠原章/批評家】
(全2回の第2回)
【写真を見る】ネット上で「ひどい」「チャチい」との声が飛び交う「ジャングリア沖縄」のアトラクション
第1回【親会社が「赤字173億円」で“ジャングリア沖縄”の正念場…つなぎ融資「30億円」で“資金不足リスク”は解消できるか…知られざる“半官半民”の特殊な実態】からの続き。
ジャングリアの事業総額は約716億円とされ、約350億円を出資で、366億円を借入で賄った。事業が不振に陥れば、原則として出資者の持ち分が先に失われ、返済が滞れば貸し手にも損失が及ぶ。もっとも、実際に誰がいくら負担するかは、増資や借り換え、担保の売却などによって変わる。現時点で損失額を按分することはできない。

366億円の協調融資について、商工中金は2023年11月、自らが80億円、琉球銀行が50億円、沖縄振興開発金融公庫を含むほかの11金融機関が計236億円を分担すると公表している。返済には主としてパークの収入を充て、担保も事業に関わる資産を中心とする仕組みだ。金融機関は、パークが客を集めて長く営業することを前提に資金を貸したのである。
土地を持つ側の立場は少し違う。オリオンビールの開示資料によれば、同社はゴルフ場跡地を手放さず、JEにパーク用地として貸している。オリオンは出資者であり、傘下のホテルや飲料の取引でも事業と関わる。株式の値下がりリスクを負う一方、土地の所有を続け、賃料も得る。ただし賃料や契約期間、撤退時の条件は公表されていない。オリオンが確実に利益を得る、損失を免れるとまでは言えない。
土地を所有しないJEのパーク施設は、一般の土地付き建物ほど別の用途に転売しやすいとは考えにくい。万一、事業を縮小・撤退する場合、借地権や施設をいくらで処分でき、撤去には誰がいくら支払うのか。契約は非公開だが、この点は融資団の回収見込みに直結する。
“公的資金”はどこから、いくら入ったのか
沖縄振興開発金融公庫は、この事業への出資と融資の両方を公表している。融資団にも加わった。だが当初の出資額も、融資団内での負担額も明らかにしていない。政府が全額出資する公庫の出資は、事業が失敗すれば価値を失いうる。融資も、返済されなければ損失となる。もっとも、JEHDが株式の評価を引き下げたからといって、公庫の出資分まで同じ割合で目減りしたとは言えない。
クールジャパン機構は2022年9月、刀に80億円の出資を決めた。機構は沖縄のテーマパーク事業などを投資の目的に挙げている。しかし出資先はあくまで刀であり、80億円がそのままJEに入ったという意味ではない。刀の事業全体への投資を、ジャングリアへの直接の公的出資と数えれば、国民が負うリスクを誤って見積もることになる。その機構自体が、2026年6月に540億円の損失を公表し、廃止を含めて議論される見通しとなった。
商工中金も80億円を貸した。設立以来、政策金融との関係は深いが、政府は2025年に保有株式を売却している。現在の貸付をそのまま「国費80億円」と呼ぶのは正確ではない。ただし、政府が拠出した特別準備金などは同金庫の自己資本に残る。商工中金は、民間の銀行とも国の出先機関とも、単純には言い切れない存在である。
ジャングリアの企画も運営も民間である。だが政府の金融機関が事業に直接出資し、融資し、官民ファンドが主導企業にも出資している。そこに、計画を下回った後のつなぎ融資が重なろうとしている。公的な負担の総額と、資金を追加する条件が明らかにされなければならないのは、この構造のためである。
カギを握るインバウンド客
資金を出した側は、何を信用したのだろう。クールジャパン機構は刀への出資を発表した際、森岡氏のUSJでの実績や刀の需要予測モデルを高く評価していた。USJの再建に森岡氏の貢献はあっただろう。ただ、そこには大型アトラクションへの投資、訪日外国人の増加、入園料の引き上げなども重なった。既存の大規模パークでの成功を、沖縄で一から造る施設の集客力にどこまで当てはめられるかは、別途検証を要する問題である。
刀が関わった西武園ゆうえんちでは投資の減損が生じ、自ら運営したイマーシブ・フォート東京は2026年2月に、予定を前倒しする形で営業を終えた。両施設の結果をすべて刀だけの責任にすることはできないし、後から判明した結果で当初の審査を裁くべきでもない。しかし、2026年の追加融資は話が違う。すでに公表されている実績と、ジャングリア自身の来場者数を使って、元の計画をもう一度審査できたはずだ。
ではどのポイントで見込みが外れたのか。朝日新聞によれば、関係者の話として、特に県内客とインバウンド客が想定を下回ったという分析があるという。これはクールジャパン機構の位置づけに直接かかわる。同機構は本来、日本の財やサービスの海外展開を支援する組織であり、国内の施設への出資を正当化したのは、訪日客の動線を太くするという理屈だった。その理屈を裏づける実績が、いまのところ出ていない。
「飛行機で3時間圏内に4億人」(森岡毅氏の説明)という潜在市場も、人々が実際に沖縄北部まで来て、入場料を払うことを意味する数字ではない。外国から、県外から、県内からそれぞれ何人呼び込み、いくら使ってもらい、猛暑期、梅雨期、閑散期をどう乗り切るのか。当初150万人と見込んだ根拠と、100万人という実績、とりわけ後半半年の35万人を踏まえた修正後の数字が示されなければならない。
「現状のままでは厳しいのではないか」
費用の面についても、専門家の見方がある。全国のテーマパークを研究する日本遊園地学会の塩地優会長は、朝日新聞の取材に対し、初期投資700億円は大型テーマパークほどではないものの、多くのスタッフを配置しており人件費は大型テーマパーク並みだと感じた、一方で集客規模はそこまでではなく、現状のままでは厳しいのではないか、と述べている。会計の内訳を見なくとも、固定費と集客規模の釣り合いに疑問が呈されていることは押さえておきたい。
塩地氏の処方は、いま大規模な追加投資をするのは現実的でなく、まずは現在の集客規模に合わせた人員にするなど費用を徹底的に見直して収支を安定させ、そのうえで沖縄の自然や文化を生かした魅力を少しずつ積み上げるべきだ、というものだ。縮小して均衡させる方向である。一方、報じられているつなぎ融資は運転資金であり、収支の構造そのものを変える資金ではない。ここに緊張がある。
開業1年を機に運営会社が打ち出した方針が「沖縄化」だったことも、この文脈に置くと別の意味を帯びる。沖縄の音楽を採り入れたショー、地元企業と連携した物販、県民の駐車料金無料化。いずれも妥当な施策だろう。だが、沖縄らしさを求める声が多いと1年かけて分かったというのであれば、当初の需要予測が何を前提に組まれていたのかが、あらためて問われることになる。
もちろん、パークの価値をJEの利益だけで測るわけにもいかない。雇用が生まれ、宿泊や飲食への波及もある。りゅうぎん総研は北部の「素通り観光」に人の流れができたことを評価している。ただし経済波及効果は、JEの利益でも、公庫への返済額でも、自治体の税収でもない。地域にもたらす利益を評価することと、貸した資金を回収できるかを確かめることは、別の作業である。
「沖縄振興」という看板
ジャングリアは破綻していない。JEHDの評価損173億円が、そのまま税金の損失になったわけでもない。客数を増やして事業を立て直す可能性は残っている。一方、損失と追加融資が報じられた今、当初の計画を繰り返すことに意味はない。
だが、これまで明らかになったことは重い。事業継続への疑義、資金不足のリスク、当初計画の半分への目標引き下げ、そして沖縄公庫単独による30億円の追加融資。9月25日に行われた株主総会では、会社側の説明が行われた後、配布資料は回収され、森岡氏は総会後の取材に応じなかった。公表されたのは結論だけで、その根拠は明らかにされていない。
読売新聞によれば、30億円は今月末にもまとまる方針だという。外部が検証する時間は事実上ないが、沖縄公庫からの説明もまだ行われていない。同公庫はこれまで出資と融資にいくら投じ、うちどれだけを回収の危険にさらしているのか。4月の追加融資にあたって、客数や売上の見通しをどう修正したのか。30億円を単独で実行するなら、返済の財源と時期をどう見積もり、当初計画の半分という新しい前提のどこを検証したのか。民間企業の営業秘密や個別の契約条件をすべて公開する必要はない。それでも、政府の資金を使う以上、金額と判断の骨格は説明すべきだ。
説明を求める相手は公庫だけではない。沖縄公庫は内閣府と財務省の共管であり、出資の実行には主務大臣の認可を要する。政策目的を掲げるのが内閣府、資金の健全性を見るのが財務省、個別の審査を行うのが公庫という分業は、うまくいっているあいだは役割分担だが、失敗したときには責任をなすりあう仕組みにもなる。
赤字を出したことだけを責めても、沖縄の経済は強くならない。問われるのは、計画が外れたとき、公的資金の出し手が何を根拠に支援を続け、どこで条件を改めるかである。その判断を国民が検証できなければ、「沖縄振興」という看板は、民間の挑戦を支える言葉から、負担の所在を覆い隠すベールに変質してしまうだろう。
第1回【親会社が「赤字173億円」で“ジャングリア沖縄”の正念場…つなぎ融資「30億円」で“資金不足リスク”は解消できるか…知られざる“半官半民”の特殊な実態】では、ジャングリアの抱える特有の課題について深掘りしている。
篠原 章(しのはらあきら)
批評家。1956年山梨県生まれ。経済学博士(成城大学)。大学教員を経て評論活動に入る。主なフィールドは音楽文化、沖縄、社会経済一般で、著書に『日本ロック雑誌クロニクル』、『沖縄の不都合な真実』(大久保潤との共著)、『外連の島・沖縄』などがある。
デイリー新潮編集部
