日ハムの本拠地・エスコンフィールド北海道

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 エース・大谷翔平がアクシデントで7回途中降板。直後、4点を追加され、完敗必至と思われた試合で、あっと驚く奇跡が起きた。今も語り継がれる伝説の“アンビリーバブルな試合”。最終回は日本ハムが最大11.5ゲーム差の劣勢を挽回し、4年ぶりのリーグ優勝へ向かう流れを一気に加速させた2016年7月10日のロッテ戦である。【久保田龍雄/ライター】

【写真】西武戦を制して対西武白星締めをした日ハムナインの様子

愚直なまでの正攻法

 前年は2位ながら、ソフトバンクに屈辱の12ゲーム差をつけられた日本ハムは、“打倒ホークス”を合言葉に2016年シーズンに突入した。

 だが、開幕後13試合を5勝8敗とスタートダッシュに失敗。6月18日の時点で首位・ソフトバンクに最大11.5ゲーム差をつけられ、V争いから大きく後退したかに見えた。

日ハムの本拠地・エスコンフィールド北海道

 それでも栗山英樹監督は「オレはあきらめていない。この試合をどう勝つか。それしか考えていない」の信念を貫き、目の前の一戦一戦にベストを尽くした。

 そんな愚直なまでの正攻法が徐々に奏功していく。翌19日の中日戦、大谷翔平が8回を無失点に抑え、3対2で逃げ切ってから、チームは怒涛の白星街道を驀進する。

 10連勝目となった7月3日のソフトバンク戦では、1番・投手で出場した大谷が初回に投手では史上初の先頭打者本塁打を記録。投げても8回を5安打10奪三振無失点とリアル二刀流の本領を発揮し、自身7連勝となる8勝目でチームを2位に浮上させた。

 その後も日本ハムは7月9日のロッテ戦まで13連勝と突っ走り、翌10日のロッテ戦も必勝を期して大谷が先発した。

 この日の大谷は立ち上がりから制球に苦しみ、調子は今ひとつ。1回に2安打と四球で1死満塁のピンチを招き、ナバーロの右犠飛で1点を先行されてしまう。

最後までしっかり投げられれば良かったですけど

 2回以降も苦しい投球が続くが、大谷は要所を締めて追加点を許さず、味方の反撃を待った。

 だが、日本ハム打線はロッテの先発・スタンリッジの前に6回までゼロ行進が続く。

 そんな重苦しい展開のなか、0対1の7回、大谷に異変が起きる。

 1死から鈴木大地に死球を与え、次打者・田村龍弘にも四球。明らかに様子がおかしい。

 実は、回を追うごとに悪化していた右手中指のマメが潰れてしまったのだ。

 田村への四球の直後、大谷は自らベンチに異変を告げ、「(イニングの)最後までしっかり投げられれば良かったですけど……」と悔いを残しつつマウンドを降りた。

 大谷は7月15日、16日に開催されるオールスターにパ・リーグ先発投手部門のファン投票1位で選出されていたが、状況的に登板は絶望となった(その後、特例で野手として出場)。

 急きょ谷元圭介がリリーフのマウンドに上がったが、この継投は裏目に出る。

 谷元は最初の打者・中村奨吾を三振に打ち取り、2死までこぎつけたものの、高浜卓也に四球で満塁とピンチを広げると、荻野貴司の中前2点タイムリーと角中勝也の左中間2点タイムリー二塁打を浴び、チームは一挙4点を失った。0対5と傷口が広がった。

狙ってもいいかなと

 通常なら完敗ペース。日本ハムの連勝も「13」でストップするかに思われたが、その裏、サプライズが起きる。

 1死から大野奨太が四球で出ると、3回無死一塁で送りバントを失敗して三振に倒れた岡大海が「何とかしたかった」と左中間席に反撃の狼煙となるシーズン1号2ランを叩き込んだ。

 西川遥輝、中島卓也の1、2番も連打で続き、スタンリッジをKO。代わった大谷智久からも陽岱鋼、中田翔の連続タイムリーで、あっという間に1点差に詰め寄った。

「(0対5でも)『今日は負けかな』というムードにならなかった。『いや、5点くらいならワンチャンスでいけるよね』と全員が信じていた」

 中田がそう語ったように、連勝中のチームの勢いを感じさせる鮮やかな逆襲だった。

 だが、8回は無得点に終わり、9回の攻撃もロッテの守護神・西野勇士の前に2死無走者。反撃もここまでと思われた。

 ところが、あと1人でゲームセットという土壇場から“奇跡”が起きた。

「あんまり狙わないんですけど、(この場面は)狙ってもいいかなと思って、思いきり意識した」

 田中賢介がフルカウントから弾丸ライナーで右翼席最前列に飛び込む起死回生の同点ソロ。三塁ベンチで大谷をはじめナインが両手を突き上げて雄叫びを上げるなか、田中も右手人差し指を突き上げてダイヤモンドを1周し、同点のホームを踏んだ。

 そして、5対5で引き分け寸前の延長12回、先頭のレアードが左翼席にサヨナラ弾を放ち、劇的なサヨナラ勝ち。2007年以来の球団タイ記録となる14連勝を達成した。

 勝利のヒーローとなった助っ人は「早く試合を終わらせて帰りたかったから、入ってくれと思っていた。ギリギリで入ってくれて良かった。アリガトウゴザイマス。アイシテル!」と陽気な性格そのままに喜びを表現した。

 栗山監督も「選手が自分の役割を果たしている。ひとつでも多く勝つことで、光り輝いている」と“連勝効果”を強調した。

 翌11日のオリックス戦も、前日リリーフに失敗した谷元が6回に好救援し、4対1と快勝。ついに球団新の15連勝を達成した。

 この時点で首位・ソフトバンクと5ゲーム差ながら、「ホークスの背中が見えてきた」(栗山監督)の言葉どおり、8月25日に首位へ初浮上。優勝マジックを「1」とした9月28日の西武戦では、右手中指のマメの影響で先発登板を約2カ月回避した大谷が15奪三振、1安打完封の快投を見せ、4年ぶりVを実現した。

 Vロードへの起爆剤となったのは、紛れもなく6月19日からの15連勝と、5点差をひっくり返して逆転サヨナラ勝ちした7月10日のロッテ戦だった。

久保田龍雄(くぼた・たつお)
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新著作は『死闘! 激突! 東都大学野球』(ビジネス社)

デイリー新潮編集部