アニメの音楽集。おなじみのテーマ曲からタマの鳴き声まで(ユニバーサルミュージック)

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タラちゃんは女の子!?

 以下は、「サザエさん」が4コマ漫画として、朝日新聞朝刊で連載開始される直前の、予告文である。

〈サザエさん一家の近況をちょっと紹介しますと(中略)タラちゃんという女の子があり〉(同紙1951年4月14日付。2日後に連載開始)
 
「最も長く放映されているテレビアニメ番組」としてギネス認定され、今も同記録を更新中の「サザエさん」。しかし、上記のように、原作のマンガは試行錯誤を繰り返し、(タラちゃんは男児となったが、)アニメとの違いも大きく存在する。

 今年は「サザエさん」が地方紙の4コマ漫画として産声を上げてから、80周年となる記念イヤー。アニメと原作との違いや秘話を含め、国民的コンテンツの秘密に迫りたい(前後編の前編・文中敬称略)。

アニメの音楽集。おなじみのテーマ曲からタマの鳴き声まで(ユニバーサルミュージック)

「んがぐぐ」は、何と言っている?

「サザエさん」は、原作者、長谷川町子の故郷である福岡県の地元紙「夕刊フクニチ」にて1946年に連載開始。前述のように51年からは朝日新聞の朝刊に舞台を移し、69年にはフジテレビでアニメがスタート。老若男女問わず、人気は日本中に定着した。
 
 それがよくわかるのが、証券業界で語れる“伝説”である。

「『サザエさん』の視聴率と、景気は反比例する」

「サザエさん」は毎週日曜夜6時半からの放映だから、視聴率が良ければ家族の在宅率が高い。悪ければ外遊している可能性が大きいということである。実際、2003年1月から半年間の数字を見ると、視聴率が良い時はTOPIX(東証株価指数)が下がり、その逆も然りだった(※大和総研資料戦略部によるリポート。2005年)。

 児童層への強い浸透を物語るのは、アニメのエンディングの差替え。現在はサザエさんが視聴者に向けてジャンケンを披露するが、1991年まではサザエさんが食べていた豆を喉に詰まらせ、「んがぐぐ」と言うラストだった。ところが、中止を求める投書が長年、絶えなかった。こちらを真似し、豆を喉に詰まらせる児童が少なからずいたのだ。余談ながら、この「んがぐぐ」、本当はなんと言っている設定かというと、

「豆、つまっちゃった」

 だそうである(※1)。

 アニメ「サザエさん」の人気には、地方自治体も注目。オープニング曲で、サザエが日本の名所をその周辺とともに訪問するアニメーションが流れるが(※2000年より)、場所の変更の都度、こんな報道が。

〈(山梨)県内各地の観光名所が紹介されることになった。河口湖町の“売り込み”がきっかけで実現し、秋の観光シーズンに向けた集客効果が期待されている〉(読売新聞山梨版2002年10月5日付)、

〈観光客誘致につなげようと(秋田)県と観光連盟がAKT(秋田テレビ)と協力しフジテレビに要請していた。観光連盟は「サザエさん効果で多くの観光客に県内を訪れてほしい」と期待を込めている〉(毎日新聞秋田版2014年4月1日付)

 あのオープニング映像は、番組が独自に決めたわけではなく、“サザエさん効果”を期待した各地のアピール合戦の賜物なのだった。サザエさん人気、恐るべしと言ったところだろう。

 よって、アニメには、以下の暗黙の掟も存在する。

「電化製品が故障する話が、あってはならない」

 長年、東芝がCMスポンサーだったためである。ところが、原作には、こんな話が存在する(大意)

・扇風機に電源を入れる。→ガタの来ていた扇風機が、震えて踊り出す。→そのまま客人について行き玄関へ。→サザエ「あら、お客様をお見送りしてるのね」

 原作とアニメは似て非なるもの。あくまで一部であるが、その違いを列挙して行きたい。

タマは、いない。

 磯野家のペットであるタマは、原作には出てこない。つまり、アニメのオリジナルキャラである。もっとも、磯野家にペットがいないわけではなく、むしろ多すぎるのだ。挙げて行くと(※括弧内数字は朝日新聞朝刊での掲載年。1900年代の下2桁)、猫のミー(53)、犬のジョン(66)、犬のエルザ(66)、リスのマイク(73)、伝書バト(73)などなど。中でもリスのマイクはサザエのお気に入りだったようで、

〈マイク!……あたしこうしてるときが一番しあわせだワ~〉

 というサザエの声を聞き、ワカメが

〈(テレビで)せいぶ劇やってるナ〉

 と勘違いする作品がある(1973年1月21日付け)。サザエ個人で飼っている設定か。なお、原作者の長谷川町子自体、大の動物好きで、世田谷の広大な自宅に犬、猫、鳥、リス等を飼っていた。アニメではわかり易くタマ一匹だが、原作には私生活が大きく反映したと診られる。

イクラちゃんも、いない。

 とはいえ、原作でもノリスケ夫婦に子供はいる。正式には別名で、チドリちゃんという。朝日新聞の1964年2月24日付けに出てくるが、性別が判然としない。幾度かの登場で、女の子用の遊具が見られるため、女児か。補足すると、ノリスケのモデルは町子の妹の洋子さんの夫(戦死)であることを、原作者の町子自身が明言している(※2)。元は新聞記者だったとか。

サザエには、第二子がいる。

 タラちゃんには妹がおり、名前はヒトデちゃん。レアキャラなのだが、1954年「文藝春秋漫画読本」の企画に長谷川町子が応え、「サザエさん10年後」という1枚に登場している。同誌には「サザエさん30年後」という8コマ漫画も載っており、一家は全員健在。初老のノリスケが訪ねて来ると、波平そっくりの人物が玄関で出迎え、カツオだと自己紹介する。

〈おやじに似てハゲちゃってね〉

 そして、年を召したワカメ、マスオ、波平、フネが紹介され、メガネをかけたサザエが、

〈いま子供たちをよびますわ〉

 すると、マスオ、サザエ、カツオ、ワカメにウリ2つの面々が出現。

〈う~ん、歴史はくりかえす〉

 と、ノリスケが失神するオチだった。

 他にも、「カツオの学校の友達は出て来ない」などあるが、こちらは設定上の違いの代表的なもの。作風となると、更にギャップが生じて行く。

※1:「週刊実話」2006年3月16日号他。
※2:「週刊平凡」1962年5月24日号。

【後編は「オバQや沢田研二が登場し、“ビキニ姿”で海水浴も…アニメ版「サザエさん」とは大違い 原作漫画で光る長谷川町子さんの“時事ネタ”への感度」】

瑞 佐富郎
プロレス&格闘技ライター。早稲田大学政治経済学部卒。近著「10・9 プロレスのいちばん熱い日」(スタンダーズ)が重版出来中。雑学にも極めて通じており、「世界の国々 おもしろクイズ1000」(メイツ出版)においては、ほぼ全問を作成及び執筆している。

デイリー新潮編集部