“ボクシングの深み”にやられた屈辱の初対戦からのリベンジ 時代に抗う那須川天心が王者・井上拓真の「圧倒的有利」の声に抱く覚悟「いろんな幻想をかき乱したい」

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前日計量を終え、王者の井上拓真と並んだ那須川天心(C)Getty Images

勝敗予想は王者の圧倒的有利

 異例の挑戦を続けてきた28歳は、「ボクサー」としての岐路に立っている。9月27日にトヨタアリーナ東京で行われるプロボクシングWBCバンタム級タイトルマッチで、王者・井上拓真(大橋)に挑む那須川天心(帝拳)だ。

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 両雄の初対戦は約10か月前。天心はここで格闘キャリア54戦目にしてはじめての敗北の「味」を知った。それは彼にとってあまりにもショッキングな経験だった。

 自信はあった。ボクシング転向後の7戦で驚異的な勢いで成長を遂げ、「拓真選手に自分の幽霊を見せたい」と豪語していたほどだった。しかし、「天心選手を倒す」という想いを抱き、死に物狂いで己を磨き上げた井上は挑戦者の快進撃を阻んだ。

 当時の天心は、井上との“差”をこう振り返っている。

「やっぱり(拓真の)距離感がうまかった。自分が練習しているものが出せない間合いだったり、距離感に拓真選手がいたというのが敗因。『うわ、これどうしようかな』『初めてだ』みたいな感じで。スパーリングで自分が良くない時のパターンの動きになってしまってたので、そこをどうしようかなみたいな。試合中に迷いが出ると判断が遅れるんで、そこを先に取られちゃったなっていうのがありました」

 序盤戦は天心のペースだった。初回に左カウンターを浴びせて後退させると、徐々に手数を増やしていった。場内の雰囲気を含めて、間違いなく「いける」という空気はあった。

 しかし、3回に試合の流れはガラッと変わった。距離をグッと縮めた井上が小気味よく右を浴びせながらプレッシャーを強め、なかなか反撃の機会すら与えない近接戦を展開。次第にパンチが当たらなくなっていった天心は「本当に経験の差、ボクシングの深みの差でやられた」。

 そこから10か月という歳月は経ったが、初対戦で明確になった「差」はどこまで埋まるのか。期間中に井上は井岡一翔(志成)、天心はフアン・フランシスコ・エストラーダ(メキシコ)との対戦を消化し、それぞれに経験は積み重ねたが、難敵との防衛戦を制し、より強い自信を身に着けた王者に分があるようにも思える。実際、海外の有名ブックメーカーやSNS上でファンが展開する勝敗予想は、井上の圧倒的有利に傾いている。

「本当に『見とけよ』っていうだけ。俺が主人公ですから」

 ただ、敗北時から誹謗中傷も織り交ざった批判も受けた天心も並大抵の胆力の持ち主ではない。不利とされる状況を覆すだけのポテンシャルは持っている。それは多くの人々が彼に関心を抱かずにはいられない理由でもある。

「かき乱しますよ。いろんな幻想をかき乱してやりたいなと思っています」

 すでに覚悟は決まっている。

「心技体、全てにおいて整っている状況じゃないですか。やるべきことはやってきた。色々と言われてますけど、本当に『見とけよ』っていうだけ。俺が主人公ですから。俺は自分の人生を生きているだけなので。やってやるよっていうだけです」

 無論、同じ相手に二度も負ければ、ボクサーとしての価値は下がる。それでも「僕が勝ったほうがボクシング界は面白くなる」と豪語してきた28歳は、「後がないのは自分でも分かってる。やられる覚悟があるからやる覚悟もある」と語る。そこ信条にブレはない。

「こっちは本当に毎日必死だから。生ぬるい生活してない」

 過去にそう言ったこともある。出る杭は打たれる時代の流れに抗いながら、もがいてきた天才は、「ボクシング面も全部充実して仕上げられた」と語る充実一途の王者にどう挑むか。

 まさしく決戦と言うべき勝負の時が迫っている。

[取材・文/構成:羽澄凜太郎=ココカラネクスト編集部]