「ご馳走を食べすぎて“塩おにぎり”じゃ満足できない」専門医が警鐘を鳴らす、AI時代に急増する“若年性ED”とポルノ依存の異常事態
〈「人間には不可能な性行為が成立している」国内AVメーカーも困惑する海外“AIポルノ”の洪水と、メタバースが可能にする次世代ポルノの可能性〉から続く
昨今、ネット上にあふれる過激なアダルト動画や、個々の性的嗜好に最適化されたコンテンツの過剰摂取が、若者たちのあいだで深刻な問題を引き起こしている。「実際の性行為では満足できない」というAI時代の性の異常事態を、専門医はどう見ているのか?
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世界中で勃起障害(ED)の若者が増加している
日本では海外のアダルト動画配信サイトの影響力が年々増している。無限にレコメンドされる動画に釘づけにされる若者が増えるにつれ、世界各国で起きているのが“ポルノ依存症”の問題だ。
依存症とされるのは、薬物やギャンブル同様に、ポルノ映像の過剰な刺激によってドーパミンが上昇し、次から次に激しいものを求めるようになり、日常の生活が崩壊に追いやられるためだ。
神経科学のアメリカ人研究者であるゲーリー・ウィルソンは、著書『インターネットポルノ中毒』(DU BOOKS)で、ポルノ依存症の人の特徴は、性行為に支障をきたすようになり、クリニック等に受診して事態が発覚することが多いと指摘する。最初は遅漏や射精不能を訴え、その後に勃起障害に陥るそうだ。
これと並行して、患者には次のような症状が見られると同書で挙げる。
・かつて見ていたジャンルのポルノではもう興奮せず、別のフェティッシュが生じる。
・性的パートナーへの性的興奮が減り、ポルノ利用の方が興奮するようになる。
・ペニスが鈍感になり、挿入またはその直後に硬直が失われる。
・性的興味維持のためにポルノを想像しなければならない。
海外の動画配信サイトでは数千万本のポルノが無料で閲覧でき、かつアルゴリズムによって性的嗜好に合った動画がくり返しレコメンドされる。それによってポルノから抜け出せなくなる依存症が、大人だけでなく、未成年の間でも広がっているのは容易に想像できる。
前出のゲーリーによれば、世界中で勃起障害(ED)の若者が増加しており、日本を含む先進各国では未成年のセックスへの関心が軒並み低下しているそうだ。その要因として挙げられているのが「ポルノへの容易なアクセスと、コンピューター画面とのやりとりで費やす時間の増加」である。
女性も例外ではない。英紙「ガーディアン」によれば、アメリカの人気歌手・ビリー・アイリッシュは、11歳からアダルトコンテンツを見はじめ、依存状態になったことを告白している。あまりに暴力的なアダルト動画を多数見たことで、恋愛関係がうまくいかなくなり、精神のバランスを崩したという。
専門医が警鐘をならす「大量のアダルト動画の刺激」
日本のポルノ依存症について注意を促している泌尿器科医がいる。聖隷浜松病院生殖・機能医学科部長の今井伸だ。
今井もまた、日本の若者の間でアダルトコンテンツの見過ぎによる性欲低下やEDが起きていることを指摘する。今井の話である。
「最近は、20歳前後なのにEDで受診に来るケースもあります。朝の勃起やマスターベーションは普通にできていても、性行為になると勃起しないというのです。
かつて若者のEDは経験不足による緊張から生じるものでした。しかし最近はアダルト動画の見過ぎから起きることが多くなっています。
今の子は10代の若いうちから大量のアダルト動画を見て育ってきています。そのため、その刺激に慣れてしまっていて、実際の性行為では物足りなくなることがある。いわば、彼らは毎日豪華な“ご馳走”を食べつづけて満腹になっている状態で、普通の塩おにぎりでは満足できなくなっているのです。AI時代には、ますますそうした風潮が強まる危険性があるでしょう」

©AFLO
今井によれば、平成以降は大きく三つの時代に区分できるそうだ。
第一が平成の初期、つまり2000年くらいまでの時期だ。
当時はポルノ雑誌やレンタルビデオによってポルノを見る時代だった。そのため、未成年の若者は道に落ちているポルノ雑誌を拾って読む、兄や父の所有するアダルトビデオを盗み見るといったことでアダルトコンテンツに接していたが、そのコンテンツ数は限られており、ジャンルの幅も狭かった。
第二が平成の中期から後期にかけての時期だ。
この時代は、インターネットが個人に広まったり、アダルトDVDが個人で購入できるようになったりしたことから、若者が容易にアダルトコンテンツにアクセスできるようになった。特にオンライン視聴が広まった後期は、アダルト動画の大量消費とも呼ぶべき状況になった。アダルトコンテンツで満足する若者が増え、恋愛や性行為から距離を置く「草食系」という言葉が流行した。
第三が、令和の現在だ。
小さな子供まで個人のスマホを持つようになった上、AIの普及によって配信サイトをはじめとしたアダルトコンテンツは、これまで以上にジャンルが細かく分岐し、個人の嗜好に合った形で提供されるようになった。性的嗜好の細分化と個人最適化が加速したのである。これがポルノ依存症のリスクを一段と高めたのは事実だろう。
このような時代の中で、今井が特に懸念しているのがAI時代におけるアダルトアニメだという。
本連載ではあまり触れてこなかったが、アダルトアニメの制作はAIと親和性が高い。AIにキャラクターデザインからストーリー作成まで任せて、それを動画で動くように指示すれば簡単に作品ができ上る。
また、アニメの視聴者の多くは、実写ほど細部の作り込みにこだわらないため、画像の生成技術が多少粗くてもポルノとして受け入れられる。個人制作の同人ポルノ作品にAIを使ったアニメが多いのはそのためだ。
『体毛があるのが嫌だ』『汗が気持ち悪い』…
今井は言う。
「アダルトアニメにのめり込んでしまうと、リアル世界のパートナーは不要という感覚に陥りがちです。それどころか実在の人との性行為を毛嫌いする人も出てくる。
リアルの世界には、アニメの世界では感じられないものがたくさんありますよね。それゆえ、リアルの相手と関係を持とうとした際、『体毛があるのが嫌だ』『体臭が耐えられない』『汗が気持ち悪い』という感覚になってしまうのです。
アダルトコンテンツでアニメの視聴者が増えれば、そういう歪んだ考えを持つ人が増える危険があります」
話を聞いていて思い浮かんだのは、近年の「恋愛離れ」という言葉だ。若者が恋愛に対して消極的になっているという統計はいくつもある。
日本性教育協会の統計によれば、2005年と2023年を比較すると、若者の「デート」「キス」「性交」の経験率は軒並み低下している。
性行為であれば、大学生(男子)63%→53.7%、大学生(女子)62.2%→43.8%、高校生(男子)26.6%→12%、高校生(女子)30.3%→14.8%と、特に高校生では半減だ。それに反比例するように、現代の若者のマスターベーション経験率は増加しており、高校の男女では共に過去最高値をたたき出している。
背景にはエンターテイメントコンテンツの増加、対人経験の減少などたくさんの要因があるにせよ、アダルトコンテンツが若者の心を支配している影響は決して小さくないだろう。今井もそれを懸念する。
6割の中間層が受ける影響
「僕の分析では、昔からおよそ性欲が強くてリアルな恋愛に積極的な子は2割、反対にそもそも性欲が弱くて、リアルにもポルノにも関心が薄い、またはない子は2割くらいです。残りの6割のマジョリティは、そこそこ性欲はあるが、リアルな恋愛や女性へのアプローチには消極的という中間層だと思います。
僕が危惧するのは、刺激の強いポルノが無制限に見られる環境ができたことで、この6割の子たちがそっちに流されてしまっているのではないかということ。つまり、これまでなら生身の恋愛をしていたはずの人たちが、ポルノの世界に吸い込まれてしまっている可能性があるのです」
子供の遊びも同じだろう。全体の2割がアウトドアタイプの子で、もう2割がインドアタイプの子で、残り6割が中間層だとする。何もない時代は、中間層の子たちは自然と外遊びをしていたが、ゲームやスマホという刺激物が普及したことで、インドア派になっていった。性の世界でも似たような現象が起きているのだ。
今井はつづける。
「セックスって相手があってのことなので、いつも理想の行為ができるとは限らないのです。セックスをしようと思ったら、相手を誘ってその気にさせないといけない。『疲れているけどセックスはしたいので簡単に済ませたい』と思ってもそう易々とはいかない。その相手も、容姿や体臭などが全て自分の理想通りという人は少ないでしょう。それでも、性欲を満たしたいがために、少々のことは我慢してセックスをしているんです。
しかし、自分の性の好み通りのポルノは日常的に簡単に手に入る。さらに、セックスで得られるものと同等あるいはそれ以上の快楽が得られるセルフプレジャー・グッズもある。自分一人で、好きなときに、自分の好み通りの行為で性欲を満たすことができてしまうのです。面倒くさいことはしたくないけど、よりよい相手とセックスはしたい。そういう願いを叶えてくれるのがポルノであり、だからこそポルノに依存してしまうのです」
1カ月間の「動画断ち」治療の効果
ポルノ依存症になった人は、必ずしも幸福度が低下するわけではないらしい。それで心が満たされてしまえば、むしろ幸福度は上昇する。だからこそ、ますますポルノからの離別が困難になる。
こういう若い人たちに対して何ができるのか。今井は言う。
「AI時代には、AIがその人の好みに合ったポルノを勧めてくるので、接するポルノが偏ったものになりがちです。そうなると、特定のデジタル画像にしか脳内報酬系が働かなくなってしまう。
それを防ぐには、若い人たちに様々な素材を使ってマスターベーションをすることを勧める必要があると思っています。私はこれを医療や性教育の場で『おかずローテーション』と呼んで話をしています。
そもそも人にとってマスターベーションは必ずしも不健全なものではありません。正しく行えば、性のことを知り、自分をコントロールし、健康なセックスができるようになる。だから、刺激の強いポルノだけに偏ることなく、イマジネーションも含めていろんなものを題材にしてマスターベーションをしていくべきだということを教えているんです。
これができるようになれば、人は特定の情報だけに偏らずに済むし、ポルノのフィクション性も理解するようになります。AIの時代だからこそ、性の情報もバランスが必要だと思っているのです」
病院に訪れる深刻な症状の患者には、若年性EDの治療として、1カ月間の「動画断ち」治療を行っているという。
アダルトコンテンツにおけるAIの活用が、ポルノのフィルターバブルを引き起こしているのであれば、意図的にそこから距離を置かせるというのは理にかなっている。動画をやめてしばらく経つと、「塩おにぎりでも美味しく感じられる」ように脳の感度が回復し、若い人ほど高い確率で改善するそうだ。
ポルノ依存症は、薬物依存やギャンブル依存とは異なり、後遺症など不可逆的なダメージが残るわけではなく、適切なアプローチで十分に回復可能なものだ。性に関する習慣を変えるだけで数カ月のうちに元に戻る。
ただ、それは本人がポルノ依存の実害を認識し、危機感を抱き、回復を目指してこそのことだ。こと10代の若者に限って言えば、そこにまで至るケースは極めてまれだと考えられる。
そうしてみると、人々の性意識や性行動は、特に10代の若者の間で、身体レベルで変容しつつあるのかもしれない。しかも、大半の人が無自覚のところでだ。
AI時代に私たちの社会が直面しているのは、そんな性をめぐる現実なのである。
INFORMATION
本連載では、「若者社会におけるAIの光と影」をテーマに取材を進めています。その中で「AIによるショート動画などのAIスロップの大量生産に詳しい方」「推し活アプリやAIパートナーへの課金に悩まれている方」「AI教育・AI保育の課題に詳しい方(教育・保育者含む)」を探しています。
取材に協力していただける方は、簡単なプロフィールと提供いただける情報を明記の上、著者・石井光太氏のホームページから連絡下さい。
(石井 光太)
