「僕たちはイビデンに頼るしかない」エヌビディアCEOが“超巨額”前払金を払ってまで求めた“日本企業の正体”
今や時代の寵児となったAI半導体大手・エヌビディア。この世界的ハイテク企業を築いたジェンスン・ファンCEOが、今年7月に電撃来日。神田のやきとん屋で催された親睦会が「やきとんサミット」として注目を集めた一方、東京の五つ星ホテルでは個別の“膝詰め”会談も行われていた。そこでは何が語られたのか(文中敬称略)。
【画像】東京・神田で開かれた「やきとんサミット」。ジェンスン・ファンCEOは愛蔵のウイスキーを振る舞った
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串焼き6本、“バカ盛り”ポテトフライ、もつ鍋の締めはラーメン……。2時間飲み放題付きで1人4500円の満腹コースだ。学生コンパさながらのメニューを、デンマークの国家予算並みの個人資産を持つ富豪から振る舞われようとは、ゲストたちは思いもよらなかっただろう。

ジェンスン・ファンCEOは30歳でエヌビディアを起ち上げた。トレードマークは黒い革ジャン ©時事通信社
7月に電撃来日したエヌビディアのジェンスン・ファンCEOが、日本のサプライヤー16社のトップを招いた親睦会だ。会場は東京・神田のやきとん屋。通称「やきとんサミット」として耳目を集めた。
AI戦争における唯一無二の武器商人──エヌビディアを一言で定義すればこうである。エヌビディアはファブレスと呼ばれる設計専業の半導体メーカーで、彼らが開発する画像処理半導体GPUは、AIデータセンター市場で90%以上のシェアを誇る。最先端のGPUなら単価は600万円と、量産の半導体としては史上最も高い。にもかかわらず、世界中のハイテク企業と政府がこれを奪い合っている。現状、AIに絶対的に不可欠な戦略物資だからだ。
この独占企業を率いるジェンスンは、日本のサプライヤーに何を語ったのだろうか。ゲストの一人、東京エレクトロンの河合利樹社長は路上で記者に問われてこう応じた。「あの……呑んでました! あはははっ」。いい具合に酒精が回った様子が、ユーチューブに記録されている。手にした余市のウイスキーボトルにはジェンスンの直筆サイン。ジェンスンは愛蔵の高級ウイスキーを何本も持ち込み、ゲストはもちろん店員にまで振る舞ったという。
それにしても、世界で一番ミシュラン星付き店が多い東京で、なぜやきとん屋を選んだのか。
サプライヤーとの親睦会は日本では初だったが、台北では数年前から繰り返し開かれている。現地では「兆元宴」と呼ばれており、理由はTSMCや鴻海精密工業など参加企業の時価総額を合わせると天文学的な金額になるからだ。台湾でも会場はやはり1人3000円ほどの手頃な郷土料理店である。
現地の経済誌編集者は言う。「ジェンスンは現地スタッフに、『人からよく見える場所』をリクエストしている。路面店で、窓が大きく開いているところだ」。神田のやきとん屋はまさにこの条件に合致する。
つまり規格外の親睦会は、あえて多くの人に見てもらうために催された「ショー」だったのだ。
これほどコスパの良いイメージ戦略はなかなかない。居酒屋を借り切るコストは高級ホテルよりはるかに安い。それでいて参加者に強烈な記憶を残し、メディアの報道を見た人に「すごい経営者なのに庶民的でナイスガイ」と好感を与える。
「コージサン、頼んだよ」
だが、単なるナイスガイが時価総額800兆円超の怪物企業を作れるわけがない。リアルな彼は、どんな人物なのか。その素顔に触れた経営者に会うため、岐阜県大垣に足を伸ばした。
IC(半導体)パッケージ基板の世界最大手、イビデン。13代目トップの河島浩二社長は、水色のラインが鮮やかな作業着で取材に応じた。その装いと率直でごまかしのない物言いが、技術とものづくり一徹で来た人であることを如実に語る。
イビデンはエヌビディアのサプライヤーだが、河島社長はやきとんサミットに参加していない。実はジェンスンは分刻みの来日スケジュールの中で、イビデンのためには特に時間を割いて個別に会っていたのだ。
東京都内の五つ星ホテルの一室で会ったジェンスンは、トレードマークの黒い革ジャンではなく、落ち着いたジャケット姿だった。両社は20年あまりの取引関係があるが、2人が膝詰めでじっくり話すのは今回が初めてだという。
ジェンスンはフルーツ皿の乗ったテーブルの向こうから、河島社長との間合いを詰めるように「コージサン」と呼びかけ、熱っぽくこう求めた。「僕たちはイビデンに頼るしかないんだ。だから、どうかしっかりやってほしい。頼んだよ」。
本社から約10キロの大野町にある最新工場での増産投資のことである。イビデンはここに2800億円を投じ、エヌビディアのために最先端のICパッケージ基板を大増産する。そしてこの巨額投資のかなりの部分を、エヌビディアは前払金という形でポンと支払うのだ。
※この記事の続きでは、ジェンスン・ファン氏の生い立ちを深掘りしています。約9200字の全文は、月刊文藝春秋のウェブメディア『文藝春秋PLUS』と『文藝春秋』2026年10月号に掲載されています(杉本りうこ「『倒産まであと30日』エヌビディアの爆走経営」)。
※タイトルを修正しました(2026年9月24日19:50)
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■杉本りうこ(すぎもと・りうこ) 神戸市出身。北海道新聞記者を経て中国留学。その後、東洋経済新報社、ダイヤモンド社、NewsPicksを経て、2023年に独立。台湾の経済誌『財訊』の日本特派員
(杉本 りうこ/文藝春秋 2026年10月号)
