“あの放置”で歩行困難に?甲状腺の病気になりやすい人が注意すべき「2つのリスク」

甲状腺中毒性ミオパチーは、甲状腺機能亢進症を早期に治療することで筋力の回復が期待できる病態です。このセクションでは、発症リスクを高める要因や、早期に対応することがなぜ重要なのかについて解説します。日頃の血液検査や専門の医師への相談が、予防と早期対応につながります。

監修医師:
井筒 琢磨(医師)

2014年岩手医科大学卒
2016年仙台市立病院循環器内科
2019年江戸川病院糖尿病・代謝・腎臓内科
2023年岩手県立中央病院糖尿病・内分泌内科 兼 救急診療科
2023年医療法人社団啓愛会理事
2026年孝仁病院美希病院
所属学会
日本医師会 産業医
日本循環器学会 循環器専門医
日本糖尿病学会 糖尿病専門医
日本内科学会 総合内科専門医

甲状腺中毒性ミオパチーの原因②:発症リスクを高める要因と早期対応の重要性

甲状腺中毒性ミオパチーは、甲状腺ホルモンの過剰が主な原因ですが、それ以外にも発症リスクに関わる要因があります。このセクションでは、発症しやすい方の特徴と、早期発見・早期治療が大切な理由について説明します。

発症しやすい方の特徴とリスク因子

甲状腺中毒性ミオパチーを引き起こす根本的な原因(原疾患)として、最も頻度が高いのは『バセドウ病(Graves’ disease)』です。バセドウ病は、免疫の異常によって甲状腺を刺激する自己抗体(TSH受容体抗体)が作られ、甲状腺ホルモンが無制限に分泌され続けてしまう自己免疫疾患です。

バセドウ病以外にも、以下のような病気が原因となることがあります。

・機能性甲状腺結節(プランマー病): 甲状腺できた腫瘍(しこり)が、指令を無視して勝手に甲状腺ホルモンを作り出してしまう病気。

・無痛性甲状腺炎・亜急性甲状腺炎: 甲状腺の組織が壊れ、内部に溜まっていたホルモンが漏れ出して一時的に血中濃度が高くなる病気。

・薬剤性甲状腺中毒症: 甲状腺機能低下症の治療薬(レボチロキシンなど)の服用量が多すぎた場合や、一部の抗がん剤・不整脈の薬(アミオダロンなど)の副作用によるもの。

原因が何であれ、血中の甲状腺ホルモン(FT3、FT4)が高値を示している状態を放置することがミオパチーの最大の誘因となります。

同じように甲状腺機能亢進症になっても、ミオパチーを発症する人とそうでない人がいます。発症のリスクを高める要因と、なぜ早期診断が重要なのかをまとめます。

甲状腺中毒性ミオパチーのリスクを高める要因としては、以下の点が挙げられます。

・甲状腺中毒症の長期化・重症化: 発症してから適切な治療を受けずに長期間放置されていた方や、ホルモン値が著しく高い方は筋肉へのダメージが蓄積しやすくなります。

・男性: バセドウ病自体は女性に多い(男女比およそ1:5~8)病気ですが、ミオパチーや前述の周期性麻痺といった筋肉の合併症に関しては、男性患者に多く現れる傾向があります。男性ホルモンや筋肉量の違いが関与していると考えられています。

・高齢者: 年齢とともに筋肉量が減少している(サルコペニア)高齢者は、甲状腺中毒症が加わることで一気に筋力低下が表面化し、動けなくなるリスクが高まります。

・栄養不全・タンパク質不足: 日頃の食事で筋肉の材料となるタンパク質やビタミンが不足していると、筋分解の影響を受けやすくなります。

早期発見・早期治療が重要な理由

甲状腺中毒性ミオパチーは、原因となる甲状腺機能亢進症を適切に治療することで、筋力の回復が期待できる病態です。そのため、早期に発見して治療を始めることが、長期的な予後を大きく左右します。

治療が遅れると、筋萎縮(筋肉のやせ細り)が進行してしまい、回復に時間がかかるケースがあります。また、筋力の低下が日常生活に支障をきたすほど進行してしまうと、転倒リスクが高まり、骨折などの二次的な問題につながる可能性もあります。特に高齢の方では、転倒・骨折からそのまま身体機能が低下してしまうリスクが高いため、注意が必要です。

甲状腺機能亢進症の治療としては、抗甲状腺薬による薬物療法、放射性ヨウ素治療、手術療法(甲状腺の一部または全部を切除する)などがあります。どの治療法が適切かは、患者さんの状態や年齢、甲状腺の大きさ、希望などによって異なるため、担当医との十分な相談のうえで方針を決めていきます。

治療によって甲状腺ホルモン値が正常範囲に戻ると、筋力が徐々に改善してくることが多いとされています。ただし、完全な回復には数ヶ月から1年以上かかることもあるため、焦らず根気よく治療を続けることが大切です。リハビリテーション(理学療法など)を取り入れることで、筋力回復を後押しするアプローチも検討されることがあります。

自覚症状がなくても、定期的な血液検査で甲状腺ホルモン値を確認し、異常を早期に発見する習慣を持つことが、甲状腺中毒性ミオパチーの予防と早期対応につながります。少しでも気になる症状がある場合は、内科や内分泌内科への相談をためらわないでください。

まとめ

甲状腺中毒性ミオパチーは、甲状腺ホルモンの過剰によって全身の筋力低下が引き起こされる病態です。初期段階では立ち上がりにくさや階段の上りにくさといった「近位筋の力が入りにくくなる症状」から始まり、放置すると日常生活に大きな影響を及ぼします。

しかし、早期に正確な診断を受け、原因となっているバセドウ病などの治療を開始すれば、筋力の回復を十分に目指すことができます。手足の力の入りにくさや理由のないだるさを感じた際は、決して放置せず、早めに内科や内分泌内科を受診して専門医にご相談ください。

参考文献

筋疾患(ミオパチー)について | 国立精神・神経医療研究センター

糖代謝と甲状腺ホルモン | 日本内分泌学会

甲状腺機能亢進症・バセドウ病|一般社団法人 日本内分泌学会