「脳を休める」はウソ!? 脳ゼロのクラゲも爆睡する衝撃…専門家が警告する「睡眠3時間は自傷行為」
休息と睡眠の「決定的な違い」
「これまで睡眠は脳を休めるためと思われてきましたが、最近の研究で脳がないクラゲやヒドラも眠ることがわかってきました」
こんな衝撃的な事実を語るのは、睡眠の研究をしている粂和彦・名古屋市立大学教授だ。これまで睡眠は脳波を測ることで調べられてきたが、最近は「行動」を基準として睡眠が定義されるようになり、それによってさまざまな生物を対象にした睡眠の研究が広がってきたのだという。
どのような行動が「睡眠」とされるかというと、具体的な条件は以下の3つである。
1_特徴的な姿勢や場所があること
たとえばコウモリが天井などにぶらさがったり、カモなどがクチバシを羽にうずめ、杭の上で1本足で立ったままになったりする状態だ。また、安全な巣や暖かい場所など、眠るための場所も決まっている。
2_反応性の低下
ただ休んでいるだけなら、ちょっとした刺激に反応したり、話しかければ答えたりする。しかし、睡眠中は簡単には目を覚まさない。
3_睡眠の必要量がだいたい決まっている
睡眠時間が短くなると、本来眠らない時間帯に眠ってしまう。また、眠る時間帯がだいたい決まっている。
たとえば、サカサクラゲは夜になると海底に沈み、傘の開閉回数が昼間の3分の2ほどに減少する。さらに夜の時間帯に刺激を与え続けたところ、睡眠不足に陥ったのか、昼間の活動量が露骨に落ちたという。このような観察結果から、クラゲも単なる「休息」ではなく、「眠っている」と考えられるのだという。
睡眠を制する生物が生き残った
「これまで睡眠学者の間では、脳を持つ生物が睡眠をとるのだと思われていました。けれど、そうではないことがわかったんです」
粂教授によると、「眠る」という状態は、昼と夜のサイクルに密接に関係しているという。
「生物は地球上に最初期に登場したシアノバクテリアという大腸菌のような下等な生物が出てきてから、だんだん進化していくんですけど、なぜシアノバクテリアが大繁殖したかというと、昼と夜をじょうずに使い分けたからなんです。
シアノバクテリアは昼間の光を利用して光合成を行い、それをエネルギー源としました。そして、光のない夜は、昼になったらすぐ働けるように準備しておく。昼と夜の違いを利用して、『睡眠』を生存のために使える生物が勝ち残ってきたのだろうと思います」
そして、進化の過程で脳をもつようになった生物は、睡眠の時間を「情報の整理」のために使うようになった。
「ショウジョウバエのような小さな脳でも、寝ているとき情報処理していることがわかってきました。人間の場合、睡眠時間が不足すると、情報処理がうまくできなくて、脳が混乱してしまいます」
一方、脳のないクラゲは、おそらく体を休めてエネルギーを蓄えるために眠っているのだろうという。
睡眠「3時間」はただの自傷行為
必要な睡眠時間やそのとり方は、生物によってさまざまだ。
クジラやイルカは、大脳の左右半分ずつを交互に休ませる「半球睡眠」を使い、泳ぎながら眠ることができる。渡り鳥もこの「半球睡眠」をとることで、空を飛び続けることが可能だ。
「でも、左右交互といっても10秒20秒という単位で、渡りをしているときは1~2時間しか眠らないようです。けれど、渡りを終えて巣を作ると9時間ぐらい眠る。そのように進化したのだと思います」
人間の場合は、年齢によって必要とされる睡眠時間が変わる。1~2歳児は11~14時間、15歳前後になると約8時間、30~40代は7時間前後が適正だ。
「しかし、30~40代で十分睡眠がとれている人は少ないでしょう」
粂教授によると、睡眠が足りているかどうかは、休日の睡眠時間でわかるという。
「休みの日、ふだんより2時間以上多く寝ている人は、間違いなく睡眠不足です。ただ、その状態が無理なく続けられればなんとかなります」
危ないのは、ふだん睡眠不足であるにもかかわらず、休日にも眠れなくなったときだ。
「睡眠不足だと、副交感神経が高まってきます。それに対抗しなくてはいけないから、交感神経も高まってくる。慢性の睡眠不足が続くと、ずっと高め安定が続くので、血圧も高くなる。3ヵ月以上、この状態が続くと、うつになる可能性が高まります」
高市首相が「3時間しか寝ていない」などと公言しているが、これはまさに自傷行為である。脳が混乱して、誤った判断をしてしまう可能性すらある。まずは十分に睡眠をとってほしいものである。
▼粂和彦(くめ・かずひこ) 名古屋市立大学大学院薬学研究科教授。分子生物学者。医師。ハーバード大学・タフツ大学客員研究員、熊本大学発生医学研究所准教授を経て、現職。専門は神経科学。生物時計と睡眠のメカニズムを研究。内科・精神科で睡眠障害の診療も行う。著書に『時間の分子生物学』(講談社科学出版賞受賞)、『脳がないのにクラゲも眠る』(朝日新聞出版)などがある。
取材・文:中川いづみ
