【井上 久男】「影の社長」が去った日産に明るい光が…「攻めの経営」で黒字転換を果たしたエスピノーサCEOの改革断行

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急すぎたEV転換で低迷するホンダでは、「49歳の次期社長」が動き出した。一方、日産でも混乱の要因となった社外取締役が相次いで退任。一度は頓挫した「2位・3位連合」に勝算はあるのか?

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変革を進める日産

ホンダに対する日産側も、'25年4月にイヴァン・エスピノーサ氏(47歳)が社長に就いて以来、意思決定と実行のスピードを速めることを重視している。前社長の内田誠氏は「社内会議の前でも詳細な資料がないと会議が開けず、意思決定が遅れた」(日産幹部)と言われているが、筆者がエスピノーサ氏にインタビューした際には、氏は「資料がなくても、関係役員が集まってすぐに決めることを重視している」と語っていた。

リストラ計画「Re:Nissan」も順調に進展しているようだ。8月3日に発表した'26年4~6月期の決算では、最終損益が38億円の黒字となり、8四半期ぶりに黒字を確保した。グローバル販売台数は1%減の約70万台で伸び悩むものの、人員削減や部品購入コストの削減などにより、一時の危機は脱したと見ていいだろう。'27年3月期決算でも200億円の最終黒字(前年同期は5330億円の赤字)を見込んでいる。

「Re:Nissan」は今年度で終わり、日産はこれから攻めの経営に転じたい考えだ。4月14日にはエスピノーサ氏が「長期ビジョン」を発表し、'30年度までに主力市場と位置付ける米国、中国、日本で販売を'24年度比で25%増やす計画を示した。

国内では大型ミニバン「エルグランド」を復活させ、収益源の北米ではSUV「ローグ(日本名エクストレイル)」の新型車も投入する。

日産も「影の社長」がいなくなり好転

日産のガバナンスが好転しているのも、エスピノーサ氏にとっては追い風だろう。今年6月23日の定時株主総会で「影の社長」と言われた社外取締役の永井素夫氏(元みずほ信託銀行副社長)の再任案が否決され、退任に追い込まれた。永井氏については米議決権行使助言会社が信任を推奨せず、日産の株式15%を持つ仏ルノーも議決権行使を棄権していた。日産のメインバンクであるみずほ銀行からの独立性を疑問視されたためとみられる。

また、古手の社外取締役で元レーサーの井原慶子氏も任期満了で退任。「この2人が執行に細かく関与していたので、現場が混乱することもあった。今回退任したことで、経営改革のスピードはさらに速まるだろう」(日産担当記者)と見る向きもある。

日産が完全に復活するためには、北米戦略がカギを握る。カルロス・ゴーン元会長は販売台数至上主義を取ったため、北米で値引き販売をしてシェアを取った。それによりブランド力を落としたため、日産車はレンタカー向けにしか売れない車に成り下がり、収益を落とす要因となった。

エスピノーサ氏はそれを大きく見直し、レンタカー比率を下げ、販売金融(自動車ローン)との相乗効果が期待できる個人向け販売を増やす構造改革を進めている。

その結果、'25年3月期決算で北米地区は383億円の営業赤字だったのが、'26年3月期は687億円の黒字に転換した。販売台数は0・9%減の129万台ながら黒字を確保しており、構造改革の一定の成功を裏付ける数字だ。

「真の再生」を目指す日産の戦略

日産が真の再生を果たすには、北米でもっと稼ぐ必要がある。そのためには販売面の構造改革だけでなく、工場の稼働率も上げねばならない。日産の米国での生産能力は年間に約100万台あるが、'25年は48.6万台しか製造しておらず、稼働率が低い。

この対応策でも、ホンダとの協業がカギになる。日産の米国工場の稼働率を上げるため、ホンダ車を生産することが検討されているのだ。これにはホンダ側にも利点がある。

ホンダは8月5日、'27年3月期決算が4000億円の黒字になる見通しを発表。従来予測から1400億円上方修正したのは、二輪事業の好業績や円安効果に加え、北米での四輪の販売増が影響した。

ホンダは米国でSUV「CR-V」やセダンの「アコード」「シビック」の販売が好調で、「CR-V」は、競合車のトヨタ「RAV4」を上回る勢いがあるという。これを受けて、ホンダの経営課題の一つとして米国での生産能力増強が挙がっている。ホンダ社内では「自前で生産能力を増強するよりも、日産の工場を利用するほうが素早い対応ができるのではないか」との見方も出ている。

'24年12月、日産とホンダは共同持ち株会社による経営統合を目指すと発表したが、わずか2ヵ月後の'25年2月に破談に追い込まれた。そこには前述したホンダ有力OBが「本社にまで乗り込み『ホンダの経営哲学に背く気か』と三部氏をつるし上げた」(前出・幹部A氏)ことが少なからず影響していた。

ホンダでは、相談役制度は廃止されている。経営統合交渉や役員人事にまでOBが関与することは、コーポレートガバナンスの観点から著しい問題を抱えていたと言えるだろう。ただ、6月以降「四竈次期体制」が見えてくると、こうした有力OBらの動きは止まったと見られる。

ホンダ三部社長「最後の大仕事」

日産とホンダの社内には「来年ホンダで40代の新社長が誕生して、若い社長同士で将来を見据えて危機感をもって話し合えば、協業交渉はさらに加速し、経営統合の話に再びつながるだろう」という空気がある。自動車業界が激変する中、両社が手を組み、競争力を維持することは国益にも適うはずだ。三部氏に課せられた責務は大きい。

ホンダには、かつて社長候補と言われた松尾歩執行役常務(サプライチェーン購買本部長)や、小沼隆史執行役(四輪生産本部長)、秋和利祐執行役(本田技術研究所社長)ら四竈氏の「大先輩」が主要役員として在籍している。「この3人は内心、四竈氏に追い越されて面白くないと思っているかもしれない」(前出・幹部C氏)との見方もある。

ホンダはEV事業の失敗をリカバリーするため、開発期間、開発工数、開発コストを半減させる「トリプルハーフ」戦略を進めている。まさにそこで要となるのが、部品購入を担当する松尾氏、製造を担当する小沼氏、開発を担当する秋和氏である。「3人が四竈氏を支えないと、ホンダの改革は進まない」(同前)との声もある。

この3人も「三部チルドレン」と言われる。三部氏が指導し、四竈体制を支えるよう言い含める必要があるのではないか。それが三部氏に残された、最後の大仕事だろう。

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取材・文/井上久男(いのうえ・ひさお)/ジャーナリスト。'64年生まれ。大手電機メーカーを経て朝日新聞社に入社。経済部で自動車産業などを担当し、'04年に独立。『日産vs.ゴーン 支配と暗闘の20年』ほか

「週刊現代」2026年9月28日号より

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