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離れて暮らす高齢の親に異変が起きたとき、家族はどう対応すべきなのか--ある親子の事例から、親のサインを見落とさないポイントや見守り体制の築き方を考えます。

深夜のSOSとパトカー出動…近所に住む姪が見た「異様な実家」

深夜0時、会社員の山内健太(49歳・仮名)さんのスマートフォンが鳴り響きました。画面に表示されたのは、一人で暮らす母の山内節子(77歳・仮名)さんの名前です。電話に出ると、節子さんは「助けて! 家の中に誰かがいるの!」とパニック状態で叫んでいました。

実家へは新幹線で2時間。すぐに向かうことができません。困惑した健太さんは、実家から車で15分ほどの距離に住む従妹の佐藤由香(49歳・仮名)さんに電話をかけました。「母さんの様子がおかしい。申し訳ないけれど見てきてくれないか」と頼み込んだのです。

連絡を受けた由香さんが急いで山内さんの実家に駆けつけると、家の前にはパトカーの赤色灯が回っており、数人の警察官が周囲を確認していました。玄関前では、節子さんが取り乱した様子で立ち尽くしていました。話を聞くと、混乱して大声を出したことで近隣住民が通報し、大騒ぎに発展していたのです。

由香さんが警察官と一緒に家の中へ足を踏み入れると、そこには異様な光景が広がっていました。台所の水道は水が流れたまま放置され、部屋の床にはゴミ袋がうずたかく積まれています。さらにガスコンロの上には、焦げ付いた鍋が残されていました。

大騒動の結末--節子さんの幻視か、被害妄想か。いずれにせよ、事件性はないと片づけられました。

健太さんは、節子さんは月17万円の年金を受け取り、貯蓄も十分にあると聞いています。そのため「母は一人でしっかり生活できている」と思い込んでいました。「元気にやっているかどうか」確認する電話も、定期的にしています。毎回「元気にやっている」「心配ない」と答えていたため、疑うこともありませんでした。しかし実際には、節子さんは生活能力の低下や認知機能の衰えを必死に隠していたのです。

内閣府の『令和8年版高齢社会白書』によると、65歳以上の一人暮らしの高齢者(単身世帯)は2020(令和2)年時点で671.7万人、2025(令和7)年には815.5万人に達すると推計されています。また、65歳以上の認知症高齢者数は2025年に約471.6万人(有病率12.9%)、2030年には約523.1万人(有病率14.2%)に達する見込みだといいます。同居する家族がいない単身高齢者の場合、認知症の初期症状である記憶障害や生活上の不調を周囲が見過ごしやすく、支援や対応が遅れるリスクが極めて高いことが深刻な課題となっています。

孤立を防ぐ「見守り」と地域包括支援センターの活用

翌日の朝、新幹線で駆けつけた健太さんは、荒れ果てた実家の惨状を見て絶句しました。「まさか母さんがこんな状態で生活していたなんて」と、自身の無関心を激しく後悔しました。

過去を振り返ると、予兆はいくつもありました。電話で話す際に同じ質問を何度も繰り返すことが増えていました。また、半年前の帰省時には、冷蔵庫の中に同じ調味料や賞味期限切れの食材が多く詰め込まれていました。健太さんは「高齢になれば誰でも物忘れはある」と軽く考えて見過ごしていたのです。

警察庁の「令和7年における行方不明者の状況」に関する資料では、認知症またはその疑いによって捜索願が出された行方不明者は全国で1万7,345人。大半が届出から3日以内に生存して発見されていますが、発見が遅れると重篤化や事故のリスクが高まります。鍵の紛失や「誰かが家にいる」という被害妄想は、認知症の中核症状や行動・心理症状(BPSD)の典型例。これらを放置すると、徘徊や火災といった命に関わる重大な事故につながる危険があります。

事態の重さを痛感した健太さんは、節子さんとともに自治体が設置している「地域包括支援センター」へ相談に向かいました。地域包括支援センターは、保健師や社会福祉士などが常駐する高齢者の総合相談窓口です。担当職員の迅速な手配により、専門医での受診と要介護認定の手続きが進められました。その結果、節子さんは「要介護2」と判定され、週2回のデイサービス利用と、訪問介護による生活支援を開始することになりました。

「体制は整えたものの、やはり、生活上のリスクは高い。何かあっても、私はすぐに駆けつけることはできません。施設への入居も考えていかないと……」

健太さんは苦渋の決断として、在宅ケアを開始しながら特別養護老人ホームや介護付き有料老人ホームへの入居申請も進めることにしました。

帰省は、親の異変に気づくチャンス。「冷蔵庫の状態」や「ゴミ出しの管理」など、直接確認することが有効。少しでも「おかしい」と感じたら、迷うことなく地域包括支援センターへ相談し、専門家と連携することが深刻な事故を防ぐ鍵となります。