映画『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』塚本晋也監督がベネチア&トロントから“凱旋(提供:キノフィルムズ)

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 映画『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』の公開記念“凱旋”舞台あいさつが20日、東京・kino cinéma新宿で行われ、塚本晋也監督が登壇した。

【動画】ベネチアで取材に応じた塚本晋也監督からのメッセージ

 本作は、元米海兵隊員アレン・ネルソンさんの著書を原作に、ベトナム戦争で人を殺め、帰還後もPTSDに苦しんだネルソンさんの半生を描く。「第83回ベネチア国際映画祭」コンペティション部門に出品され、イタリア各地から集まった高校生が選ぶ「レオンチーノ・ドーロ賞(金の小獅子賞)」を日本作品として初めて受賞した。

 18日に海外から帰国した塚本監督は、日本公開初日に不在だったことに触れ、「今日はようやく持ち場に戻ってこられたという感じで、うれしく思います」とあいさつした。

 若者が選考する金の小獅子賞については、「この映画を作る最大の目的は、何よりも『若い人たちに戦場へ行ってほしくない』ということでした」と説明。「頭で戦争を考えるのではなく、体全体でその恐ろしさを実感してもらいたかった。そうした思いがまっすぐに届いたのかなと思い、本当に感動しました」と喜びを語った。

 続くトロント国際映画祭では、ネルソンさんの妻リンダさん、息子ショーンさん、妹マーシェルさんが初めて本作を鑑賞。塚本監督は「3人に観ていただく瞬間が一番ドキドキしていました」と明かし、上映後にリンダさんが声を上げて泣く姿を見て、「本当に作ってよかった」と安堵したという。

 息子のショーンさんは現在、カウンセラーとして活動し、かつてアレンさんを救ったダニエルズ医師(ジェフリー・ラッシュ)と同じような道を歩んでいる。

 原作では、アレンさんとショーンさんの関係について簡潔に記されるにとどまっていたが、塚本監督は映画化にあたり、ショーンさん本人に取材。その証言が、映画後半の重要な場面につながったという。

 「実際には、アレンさんとショーンさんの間に、何年間も一切口を利かない時期があったそうなんです」と説明。ショーンさんが「自分は弱いから、軍隊の訓練を受けた方がいいんじゃないか」と漏らし、父親と激しいけんかになったという話を聞き、「これは絶対に大事な話だと思って、映画に織り込みました」と明かした。

 また、劇中でネルソンさんがベトナムの村人を殺害する場面について、「この現実を描かないのであれば、映画を作る意味がなくなってしまう」と強調。戦争が終わった後もPTSDが本人や家族に影響を及ぼすことに触れ、「形としての戦争は終わっても、暴力の連鎖は終わらない。その連鎖を断ち切るには、とにかく戦争を始めないことしか方法はない」と訴えた。

 さらに、戦争の“加害”を描く意図について、「今回はアレンさんの目線に、観客にも一緒に立ってもらいたいと思った」と説明。「最初は殺すことに抵抗があっても、仲間を殺されるうちに『自分がやらなければ、やられてしまう』という暴力的な考えに変わり、その時点で被害者のことを考えなくなってしまう。観客にも、その立ち位置に立って観てもらいたかった」と語った。

 構想から映画化まで約10年。2009年に亡くなったネルソンさんへの思いを問われると、「もう一度この世の中に帰ってきてほしいという思いで、この映画を作ってきた」と回想。「今は、アレンさんがこの世界に帰ってきて、一緒に再び歩み始めたという気持ちです」と語った。

 最後に塚本監督は、世界各地で戦争が続く現状に言及。「実際に戦場へ行くのは若い人たちです。彼らが戦場で体験させられるのは、まさにこの映画で描かれているようなこと。それを前提とした上で、この先の議論をしていただけたら」と呼びかけた。