美大に落ちたあの日に「特別な私」は死んだ。それでも諦めきれない23歳女性が、再び筆をとり自分と向き合う人生リセットストーリー【書評】

【漫画】本編を読む
『ミューズの真髄』(文野紋/KADOKAWA)は、美大の受験に失敗したことをきっかけに「特別な自分」を見失った23歳の女性が、もう一度自分の人生を取り戻そうともがく姿を描いた人間ドラマだ。夢を諦めれば楽になれるはずなのに、どうしても「凡人」では終われない。そんな痛々しいほどの自意識と創作への執着を容赦なく描き出している。
主人公の美優は、美大に落ちたことで、自分の中にあった「特別な私」が死んでしまったと感じている。それ以来、母親が決めた職場で働き、母親が選んだ服を着て、母親が望むような相手と「幸せ」になることを目指して暮らしていた。「でも」「だって」「仕方ない」と言い訳を繰り返しながら、自分の人生なのに、自分では何も選ばない日々を送っていた。
しかし本作はそんな単純な成功物語の展開にはならない。美優が次に縛られていくのは、アップデートされた自分、そして己の価値観や審美眼だ。絵が好きで、誰よりも頑張っているつもりなのに、美術の神様は自分を選んでくれない。才能とは何か、個性とは何か。好きで努力し続ければ、誰もが「特別」になれるわけではないという現実が、美優の自尊心を容赦なく揺さぶっていく。
人とは違う自分でいたい、自分は特別などと思った経験は誰にでも少なからずあるのではないだろうか。全3巻を通して描かれるのは、夢を叶える方法ではなく、「特別ではないかもしれない自分」とどう生きていくのかという問いだ。創作に憧れたことのある人、自分らしさや才能に悩んだことのある人ほど深く刺さる、狂おしくも切実な人生リセットストーリーである。
文=宇田 勉
